第16話 ルネとエレーヌ

 再びレン・ベンダーの町に戻ると、なにやら港が騒がしい。ラナと共に見に行くと、男が小舟に乗る乗らないと騒いでいる。良く見れば、それは何日か前にあった男であった。

「ルネ!」

 キリルの声に、ルネはおどろいて顔を上げる。

「キリルか?!」

 その声はどこか悲しげなもので、

「どうしたんだ」と、キリルは心配して彼へと駆け寄った。「エレーヌは?」

「エレーヌが、拐われた……」ルネは絶望的な声で言葉を発した。「救うには、ガルガニア図書館から書物を持って来る事なんだ……」

「そんな、無駄死にするようなものだぞ?」

「ドラゴンならなんでも良いと思うだろ? でも俺にはあいつだけなんだ。あいつ以外、考えられない。愛してるんだ。親父のドラゴンだった、その頃から」

「落ち着け、義賊ローランド!」

 キリルは叫んでいた。後ろで民衆たちがざわめく。正体がばれた事に、ルネは目を見開いた。

「なんで俺がローランドだって?」

「あんたの首飾りの宝石、目立つぜ」

 ルネが胸元を見遣る。そうして、

「良くわかったな。よし、俺は行ってくるぜ、キリル。自首するのはそれからさ」

「ルネ……無事でいてくれよ」

「俺が死ぬ訳ないだろ? また酒を飲もうぜ」

 そう言って、夕闇の中ルネはゆっくりと小舟を漕ぎ出した。


 身体中に瀕死の傷を負ったルネ・ローランドがレン・ベンダーの港に流れついたのは、翌朝の事であった。幸いにも命に別状はなく、駆けつけたキリルに、担架に乗せられた彼ははにかんで笑った。その傍らには逃げて来たのであろうエレーヌが寄り添っていた。

「へへ、命拾いしたぜ……」

 鼻を擦り、ルネは笑った。

「馬鹿だよ、あんた」

 キリルはそう言葉を吐き出した。

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