第9話 想いを懸けるもの1
山肌の残雪がすっかり溶けた頃には、すでに夏が始まっていました。
木々や草は急ぐように花を開き、
そしてまた、冬がやってきました。
「ハヤよ、聞いておくれ」
あるとても冷え込んだ朝のこと、キドは胸に登っていた思いを口にしました。
「どうしたの あらたまって」
「わしらはもはや
「なぜ、ただに山を駆け回っていては駄目なの。獣たちは皆そうしているわ。蓄えなんていらない。必要なものは、その時に手に入れればよいではないの。もしや、春に来た武士の言葉を気にしているの」
キドは優しく首を振りました。
「おまえが何者かであったかは関わりのないこと。だが、わしらは獣ではない。明日を見据えて日々を送らなければ、安心して家を持ち、子を授かることはできない。山歩きばかりしていたあのサッダだって、先への備えは怠ることはなかったのだ」
思いが理解できないと目を伏せたハヤを後ろに、キドは立ち上がり、棚の奥から小さな木箱を取り出しました。
「その前に、わしにはやっておかねばならないことがある。それをやらなければ、おまえとの新しい生活を始めるわけにはいかないのだ」
キドは木箱を開けました。山鳥の羽根の中に、白い
「観音様はおっしゃった。我が思いの全てを懸けられるような物をこれで作れと。それが何であるのか、やっとわかった。
わしの心には、あの美しい鹿がいる。おまえと話をする時も、森で獣を追いかける時も、いつもだ。あれから十年あまり、鹿の寿命の五、六年はとうに過ぎている。だが、わしは確信している、あいつはまだ生きていると。わしはあいつを射る、そして心の
そう言ってキドは小刀を握り、白い骨を削り始めました。
骨は非常に硬く、小刀は幾つか刃こぼれを起こしましたが、やがて鋭い矢じりとなりました。次いで細く割った竹の束から慎重に四本を選び、ヤジリと大鷲の羽根を挟み、あけびの
「うむ、これで」
頷きとともに手に握られたのは、寸分の歪みもない美しい矢でした。
「
キドはじっと
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