第32話 お出かけ2
「ニックやロイにパトリック、ララ嬢に近い場所に常にいる者たちはすでに知っている。だが、それ以外の者たちには何も出来ない」
確かに常にララのそばにいるのはそのメンバーだが、高位貴族の子弟だけ守れればいいのだろうか?
「それについての国王陛下のご判断は?」
「あくまでも学園での問題であって、忙しい父の手を煩わせるまでもないと言われた」
つまり王妃のところで、この話はストップしているわけだ。ユリウスも当然、王妃のこの判断に納得がいかない様子だ。
だが、シャロンにはどうすることもできない。
「そういえば、殿下はなぜ気づいたのですか?」
しかし、ユリウスはこの質問に答えず、咳払いを一つした。
「ニックもパトリックもロイにもすでに対策をしてもらっている、彼らも正常に戻りつつある」
ララの香りに酔いそうになった時に気付け薬のようなものをかいでその都度正気に戻る方法を行っているという。
ゲームのなかに香水などというヒロインアイテムがあっただろうかと考えてみたが、どうにも思い出せない。
「それ問題だと思うのですが?」
「王妃陛下にしてみれば、対策出来るならば、問題ないということだ。これは極秘事項だから言うなよ」
極秘にするのは、ララの立場が危うくなるからだろうか。今のところ彼女は民衆の希望ということになっている。
「その香水が広まったらどうするのですか?」
「ロイがいろいろと調べてくれた。彼の家は商会をやっているからいろいろと取引があり情報もあつまるんだ。
それによると、香水はララ嬢の手作りでレシピは秘密。市井にいた時諸国を渡り歩いている流れの調香師から教えてもらったらしい。それで、密かに成分をしらべたところ、この国にはない異国の希少な材料が使われていた。そのため、香水を作る量には限界があるから、母上は放って置けば材料も尽きるだろうとのお考えだ」
説得力があるような、ないような。しかし、シャロンはこの件に首を突っ込むつもりはない。
「それで、どうしてその話を私に?」
「つまり、ニックをはじめとして、多かれ少なかれ皆が一時期君に敵意を抱いていたが、そういう事情があったとくんでほしい」
なるほど、友情に篤い彼らしい。
確かに彼らにはいやな思いをさせられた。
ララが現れるまでは、彼らはそれなりに紳士で、子供の頃から見知った仲だし、そこそこ皆で楽しくやっていた。
だが、シャロンもユリウスのストーカーをやっていたので、ここは痛みわけか……。
それに、そもそもララも含めた五人のなかで、シャロンだけが正式に認められたユリウスの学友ではなかったし弾かれてもしょうがないのかもしれない。
「別に気にしてません。ただ、乱暴者のホーキンス様はいやですけれど。私は今後強制でない限り、夜会や茶会には出ないつもりなので、問題はないと思います」
「ええっと、それはつまり、シャロンと一緒に夜会に出たければ、私はその都度命令しなければならないの?」
「……」
意味が分からなくて首を傾げる。
「ほら、私もそろそろ女性同伴で夜会にいかなければ、ならないだろ?」
「……」
だから何だと? シャロンは目を見開いた。
「シャロン、なぜ返事をしない」
ユリウスがまた真っ赤になって言う。こんなふうに感情をあらわにする人だったかと首をひねる。
「あの、まさか、私と?」
「そんなに嫌か」
ユリウスがちょっと傷ついた顔をする。
「はい、もちろんです。私は王妃陛下に嫌われていますし、殿下の婚約者にはきっと民衆の星であるバンクロフト様が選ばれると思います。それに国王陛下もバンクロフト様を気に入っておられるのですよね?」
シャロンは自分の身を守ることを選んだ。
「どうだろうね」
とユリウスが憂鬱そうに言う。彼と夜会などにいったら、別れる時にたいへんそう。
「それに夜会にいくとなったら、陛下に私と交際していることを認めていただかなければ。そうでなければ、私は殿下の一時の遊びの相手ということになります」
それだけはちょっとご免こうむりたい。王室の主催の夜会に一緒に行くとなると、学校で仲良くしているのとはいろいろ意味が違ってきてしまう。
しかし、すっと上げた彼の表情はすっかり凪いでいて……。どうやら、分かってもらえたようだと、シャロンはほっと一息ついて果実水を一口含む。
「シャロン、私はお前が好きだ」
シャロンは果実水を噴き出しそうになった。
――そら耳? 聞き間違い? ああ、なるほど友人としてか!
無駄にドキドキさせないで欲しい。しかし、彼はまっすぐにシャロンをみる。
「結婚したい。求婚を受けてくれないか? もちろん、お前が心配している来年の舞踏会まで待ってもいい。その未来視というものはいまひとつ信じられないが、無理強いすることはしない」
「ええ! なんでですか! どうしちゃったんですか! まだ、責任取ろうとか考えているんですか!」
シャロンは突然のことでパニックに陥った。するとユリウスが苦笑する。
「伝わっていない気はしたが、そこまでとはね。母の耳にお前と交際していることが入って、聞かれた」
「ひぃ! な、なんて答えたんですか! 否定してくれましたよね?」
シャロンは縋るような思いで聞いた。
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