第24話 付き合って……
「は? 何の冗談ですか? 嫌です」
シャロンはきっぱりと断った。
「仕方がないだろう。お前は婚約するのを嫌がるし。それに付き合っているふりをしていれば、そのうち相手も何らかの手段に出ると思われる」
「そんな、大雑把な」
「大雑把ではない。まずお前は私との婚約を断ったことから、媚薬を盛った犯人ではないと分かる」
「なるほど」
「ならば、その他で私の近くにいた者を疑うのが妥当だろう。私というより、この国の第二王子と結婚したいものはたくさんいる」
つまり犯人は出来ちゃった婚をねらっていたのだろうか?
それとも王子が責任を取ると言いだすことを見越していたのか。それだとララが一番怪しく思えるが、ユリウスは彼女を疑っていないのだろう。
「ならば、その沢山の人達のだれか信用できる人に頼めばいいじゃないですか?」
「ばかか、お前は。付き合いが一番長くて、婚約を全力で断ったお前が一番信用出来るからこうして手の内を明かしているんだろう? それにお前も犯人に腹がたたないか?」
「それが、私の手かも知れませんよ。そうやって一度信用させて、その実殿下と結婚したいのかもしれません」
「そうなのか?」
王子が首を傾げてきいてくる。
「いいえ」
「なら、やはりお前が適任だ」
ユリウスが断定するも、前は父を疑うようなことを言ったくせにと少し腹が立つ。
「それだったら、もっと被害者になりえた女性がいるではないですか」
「……被害者ねえ」
とユリウスが嚙みしめるように呟き、苦い表情を浮かべる。
「バンクロフト様が適任ではないですか? 今一番殿下のおそばにいる女性です。まかり間違えば彼女が飲んでいたのかもしれませんよ。というか私があの場につっこまなければ、彼女が飲んでいたんじゃないですか?」
「彼女を信用していたら、君に頼まない」
ユリウスがさらりと言う。
「へ? まさか、疑っているんですか!」
ついうっかり大声で叫んでしまった。
「お前は私を馬鹿だと思っているのか?」
ユリウスがムスっとした顔をする。
「ララ嬢のことは学長と国王から頼まれた。民衆に開かれた学園というのをアピールしたいとのことだ。極秘事項だから言うなよ」
「……何ですか、それ」
「一昨年この国の南方で飢饉があったろ? それで、民が王都に流れて来た。働き口がなくて暴徒化するものもいてね。去年騎士団がなんどか鎮圧した」
「ええ! そうなんですか?」
「ああ、一部スラムでのことだからね。一般には知れ渡っていない。しかし、貧しい労働階級の民衆の間に不満がくすぶっていることは確かだから、暴動が飛び火しないようにと、緘口令がしかれている。恐らくソレイユ卿もご存じだろう」
「それで、殿下はなにゆえ、父が娘に言わないことまでお話に?」
極秘事項とか告白されてもすごく困るし、やめてほしい。
「だから、ララ嬢はそういういろいろな事情があって、民衆の希望のようなものになっているんだ。市井で育ち、男爵家の養女となり、学園の特待生となり、王侯貴族とも親しく付き合っている。つまり彼女は実力さえあれば、上に行けるという象徴だ」
いったい誰が言いだしたことなのか、何という厭らしい考え方なのだろう。
「なるほど、それで殿下とご成婚となれば効果絶大ですね」
「馬鹿な。民衆におもねって安易な真似をするよりも、きちんとまつりごとを行えばよいものを。お前だって、王族の妃になることがどういうことか分かってるだろう?
貴族社会や常識に精通していなければならないし、他国との外交もあるから、教養は必要だ。そんなもの一朝一夕に身につくものではない。努力しましたでは済まないのだ。そこには結果が伴わなければならない」
彼の話していることは正論ではあるが、そのまま現国王への批判だ。
「めったなことを言ってはいけません」
一応窘める。
こういうことをズバズバ言ってしまう彼は、意外に危険人物なのかもしれないとどきりとする。
「シャロン、付き合っているふりをしてくれないか? 犯人をあぶりだしたい」
「それって、私、餌じゃないですか?」
なんだかどんどんまずい方向に向かっている気がする。死にたくなければ、ユリウスとは距離をとるのが得策だ。
「協力してくれ」
「いやです。ここはバンクロフト様を信用なさってはいかがでしょうか?」
「なぜだ。お前は彼女があまり好きではないだろう?」
「それとこれとは別です。私の勘ですが、殿下は将来バンクロフト様と結婚なさる気がします」
「また、くだらない未来視というやつか。私は、全くそんな気はしない。だいたいお前が素直に私と婚約してくれればこんなにややこしい事にはならなかったんだ」
「私のせいですか?」
シャロンが問うと、ユリウスは一瞬言葉につまり唇を噛む。
「いや、違う。私のせいだ。お前は巻き込まれただけだ。
シャロン、他の女性がそばにいる時にまた同じことが起きたら非常に困る。それで相手がお前じゃなかったら、更に困る。だから、せめて付き合っているふりをしてそばにいて欲しい」
「ええー。なんですか、その理由。限りなく殿下に都合がよいように聞こえますが……」
シャロンは頭を抱えた。
これはお断りできないパターンだ。多分これはお願いではなく命令。
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