第110話階層移動迷宮攻略 後編

 伸びる針は通常切ると切断面が見えるだけでポリゴンは出て来ない。だが、この巨人は出ている。

 針が外皮扱いで体の1部なのは確かだが、相手の針の攻撃は相手が目視して操っている。

 だが、相手は現在マナちゃんを見ていてこちらを見ていない。なのに針は複数襲って来る。

 なので、この巨人の体から伸びて来る針は巨人の1部でありながら別の意思を持っている別のモンスターって事だろう。

 イサちゃんで表すと尻尾の先端は少し削れても大したダメージには成らないが、現在は意思があり顔である為かするだけでもかすり以上のダメージは出る。

 それと同じだろう。

 だけど、この針は尋常じゃ無い程に数が多い。

 私とネマちゃんで前後の針を捌き切るには難しいのでは無いだろうか?


「「ふんにゃぁ」」


 前方の針の背後からネマちゃんの人型をそのまま小さくしているような人が現れる。

 両手には短剣を握ている。


「ニャ!」


 ネマちゃんの鳴き声に寄って攻撃を繰り出す小さいネマちゃん。


「あれは?」

「ニャ!ニャ!」


 尻尾を分離させて人型させているようだ。

 そっか、だから尻尾が無いんだ。


 ネマちゃんの尻尾の人型がそれぞれ回転して針を切り落としてくれる。

 それでも数はあまり減って居ない様に感じる。

 背後から迫り来る針を跳躍して躱し、針は空中に居る私に向かって迫り来る。


「いや、それにしては⋯⋯」


 狙いがかなり上?いや、横!


「鎌かッ!」


 急いでインベントリにしまおうとするが流石に無理があった。

 針は鎌を上に上げてぐにゃりとうねり鎌を捕まえる。

 上に伸びるので持っている私も上に上がる。


「外せねぇ」


 伸びる針を足場にして引っ張るが一向に抜ける気配が無い。

 インベントリを操作して抜く選択もあるが、ザックリ言えば相手は複数。

 そんな余裕はある訳無い。ベルゼブブ戦とは違うのだ。


「仕方ないか」


 私は鎌から手を離して体を捻り地面に向かって顔を向ける。

 右手を前に突き出して術式を構築、そして展開する。


「風玉、展開」


 生み出されるのは上昇気流の小さな塊である。

 風に上げられふんわりと浮遊感に包まれて地面に着地する。


「ま、別に武器が無い訳じゃないしな。ネマ!行くぞ!【絆結晶リアン・アイテム】」


 ネマちゃんとの【絆結晶リアン・アイテム】は刃物ならば適正である。

 マナちゃんが杖、イサちゃんが盾と限られているがネマちゃんは刃物なら良いのだ。検証した結果判明した事である。

 MP回復用に飲んだMP回復ポーションが美味しく感じたのには度肝う抜かれた。

 リンゴジュースの味がしました。


混沌刀カオスソード


 安直の名前ですが私が名ずけしました。適正の場合はそれっぽい名前があるとかっこいいとか思いました。はい。

 ちなみに混沌剣はカオスブレイドである。

 変哲も無い直訳の名前となっている。


「ネマ、人型に成れ、お前ならわたしの動きに合わせられるぞ!終わったらいっぱい撫でてやる」

「お前に撫でられても殺意しか湧かん」

「⋯⋯」


 あ、かなり深刻なダメージを受けているのが伝わる。

 ネマちゃん、あんまりわたしをいじめないでね。根は良い子だよ。


 私は迫り来る針に集中する。

 純粋に先方から迫り来る針に斜めから迫り来る針等様々である。

 地を蹴り接近して様々な色に変化する刀を振るい切り落とす。

 成る可く奥から斬るようにするのがポイントである。

 なんか、すぐに再生するから。

 ネマちゃんも合わせて両手を刃にして切り落として行く。

 巨人のHPが減っているか分からないけど、ダメージは与えてられていると思う。


「いや、再生しているからダメージは無いな。手応えもあんまり感じない。他になんかあるな」


 成程。あ、下から伸びるよ。


「右目だけ動かすなよ。だがナイス!無機物だと感覚が掴みにくいんでね」


 後ろに宙返りして躱し根元付近で刀を振るい斬る⋯⋯が、刎ねる事は愚か刃が刺さる事が無かった。


「かった」

「狙いは針の根元が良さそうですね。斬りにくいですが」

「せやな。どうしたもんかね」


 そこは新規妖術の登場でしょ。


「漆黒刀、展開」


 刀に術式を構築して展開する事に寄って黒色の光が刀に纏い、それに合わせるこのように刀の色が黒に統一される。

 混沌刀の特徴だね。

 どこまで火力が上がるのか実際には検証出来て無いけど、やるしか無いね。


「巫女の舞、第一節、【四天竜の舞】」


 最初の舞で汎用性が高い舞。

 回転して移動して回転してを繰り返す度に刀がさらに黒く光る。

 そして最後の回転の時に針の根元を狙う。

 針は激しい動きをしないので狙いが付け易く、ネマちゃんが針の先端からの攻撃を妨害してくれているので安全にここまで出来た。

 足に力を込めて重心を低く、遠心力をそのままにベクトルを刀に集中。

 狙いは針の根元1点なり。

 刀と針の根元が当たり、先程よりもすんなりスライス出来そうだったが、途中までしか斬れ無い。


「勢いか?」


 刀を抜いて構えを取り切れてない所を集中して狙う。


「巫女の舞、第二節、【水神の寸撃】」


 突き技であるが舞の一種である【水神の寸撃】に寄って何とか針を破壊する事が出来た。

 巨人のHPバーを見ると少し減っている事が分かった。


「根元ッ!ネマ!根元だ!お前なら簡単に狙える筈だ!ハク、クロ!ネマにバフを回せ!」

「扱いが酷くない?ニャ!」

「「コーン!」」


 ネマちゃんは猫状態に成って迫り来る針を避けて根元まで行ったら人型に成って両手の刃を高速で振るう。


「モフリさん!」


 空力を使って来たのか私の背後にセカイちゃんが来て背後から迫り来ていた針を破壊してくれる。

 セカイちゃんから青色のオーラが出ている。

 先程のパンチしている時に拳に青色オーラが集中していた。あれが『チャクラの自由操作』なのだろうか?洗濯していたら私も出来るのかな?


「無理だろ」

「モフリ⋯⋯さん?」

「ああ、わたしだよ、って言葉使いが変わった程度しか分からないか」

「いえ、少しドスが効いて居ますので少し喋れば分かります。現実だったら雰囲気や気配で分かるんですがね」

「はは、セカイ、ネマと共にここの針を任せた。わたしはマナの所に行って大元を叩く。根元だ。あと、下には注意してな」

「分かりました。ご武運を」

「安心しろ。皆が居る限り負けねぇよ」

「ふふ」


 ニカッと笑いマナちゃんの所に駆ける。私は本当に意思と右目だけの存在に成ってしまったようだ。


 グーガン、ガシャン。


 そんな機械音が響いたかと思ったら巨人の顔が私に向いていた。

 そして、1度も開いて居なかった口を開いて中に日のような球体を溜めていた。


「絶対大技だな。自分の腕事かよ!」


 このゲームでは味方や自分の攻撃は反射されるからね。問題無いんでしょ。


「あぁ!私が冷静だからなんか腹立つ。ま、お陰でわたしも冷静なんだけど」


 相手の口から放たれるであろうアレが魔法であろうとなかろうと物理攻撃じゃないなら対策は出来る。

 一応どのくらい手に入るか分からないし、手助けにも成るかな?いや、辞めておこう。

【竜巻】は仲間も巻き込むので集団戦では使い難いな。師匠なら話は変わるかな?

 と、そろそろ放たれる。


 私は右手を前に出す。


「全てを喰らえ。【暴食ベルゼビュート】」


 私の右手から異様な姿をした『口』が現れてその口をガバリと大きく開ける。

 巨人の口から放たれたレーザーが口の中に入って行く。


「は、腹が暖かい」


 辞めて!なんか嫌だ!辞めて!


 ゴクゴクと口がレーザーを飲んで行く。

 単発系の魔法はソレだけを食べ、レーザー等少し長い魔法等は終わるまで食べる。連発の奴は1回でどれだけ食べれるかによる。なので食べれない物も出て来るかもしれない。

暴食ベルゼビュート】の口以外の形は自分達のイメージに寄ってその形を変えれるが、狼等にしてしまうと肝心な『口』が小さく成って食べれないと言う事件がある。あと、仲間の魔法等は通り抜けて私に当たる。


 レーザーが終わり右手から出ている悪魔であろう『口』は1度もゲップをしてから私の手の中に入って行く。

 MPは全回していた。


「ありがたいね。行くか!」


 さらに接近する。

 伸びて来る針も躱して時には切って近づく足を止めない。

 マナちゃんもブレスを放って応戦してくれる。


「まずはその金色の目を潰す!」


 相手の顔の横に移動したら刀を構える。


「巫女の舞、第三節、【風神の暴君】」


 それは舞であって舞では無い乱雑な動きでの乱暴な攻撃である。

 だが、それでも角度や力の区分けた等は正確に行っている。

 唯一無いのは剣術だが、本来は舞であるが為に多少はカバーされている。

 金色の目にかなりの斬撃の痕を付ける事に成功した。


「漆黒炎、展開」


 黒紫の炎が金色の目にある赤色の斬撃エフェクトの中に入り込む。

 柔らかい部分なのかHPもゴリゴリ削れる。


「と」


 目が光ったので後ろにステップして落下、マナちゃんに拾われる。

 下を見るとイサちゃんが外皮を完全に削って皮膚を噛みちぎっていた。

 ずっと同じ場所を攻撃していたようだ。さらに言えばHPは減って居ないが周りに針が沢山あり突いている。本当は刺しているんだろうね。

 セカイちゃんが加わった事に寄って相手に与える火力は増した。

 チラリと背後を見ると傭兵NPCさん達とサエちゃんグリムちゃんがゴーレムと戦っていた。


「⋯⋯さて、ラストパートだ!」


 かなりのダメージを与えて行き、遂にはHPが1割となっていた。

 MPは殆ど皆空に近い。私が回復した分で普通にあり、マナちゃんは回復している。イサちゃんはほぼ無く、ネマちゃんは私とのスキルによって地道に回復しているようだがそもそもネマちゃんはMPを使う機会が少ない。


「ま、結局マナ辺りか。マナ!オーロラブレス!漆黒刀、展開。結合妖術、深風連弾!展開!」


 刀が黒くなり、【風連弾】と【深淵弾】を合わせた妖術を相手の目に、イサちゃんが削ってくれた所に迫り刀を振るう。


「巫女の舞、第二節、【水神の寸撃】」


 マナちゃんはオーラのブレスを斬撃を浴びせた目の方に放った。

 セカイちゃんはネマちゃんも各々根元を攻撃しているようだ。

 あと、少しである。


「チェックメイト!」


 刀にさらに力を加えて突き刺す。

 ゴリゴリと減って行った巨人のHPはゼロとなった。

 私的には大きいけど、ベルゼブブよりも柔い。いや、割と当たり前かもしれない。なんたって原初の悪魔の1人なんだから。

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