第99話【ナチスと上位悪魔】黒巫女召喚士と暴食之悪魔 ㉘

 飛竜に乗りランスを持つ男の名はナチス。

 対する相手は上位悪魔アークデーモンであり、背中からは孔雀クジャクのような翼を生やしている。


「さぁ〜て、俺の相手はお前だな」

『ふむ。なかなかに強大な魔力を持っているようだな。お前も悪魔に成らないか?』

「⋯⋯お前も?って事は、お前は意図的に悪魔に堕ちたって事か?」

『堕ちる?何を言っている。これは進化だよ。死が存在しない、最高の肉体を持ったのだよ』

「受肉して無いから肉体持ってねぇーだろ。阿呆か?」


 悪魔に堕ちるのは色々とルートが存在する。

 一般的なのは生きている時に悪徳な事をしている事やその心を持っている事である。それにより魂が黒く染まり、死後に輪廻の輪に入る事が出来ず、魂は漂い結果として魔界に入り、そこで仮の肉体を持つ。それが悪魔である。NPC限定では無く悪魔の歴史的に存在する設定である。

 具体例を上げるなら、めっちゃサイコパス。2桁は人を殺害した。3桁以上の生命を殺害した。5桁以上に人が嫌がる行為をした。軽めはセーフとなる。悪しき魂が大きく濃い程に強い悪魔となる。

 2つ目に、悪魔に勧誘されて悪魔に堕ちる方法である。

 この際、その悪魔と同じ系統になり眷属となるので堕としてくれた悪魔を瞬時に越える事は出来ない。

 成る可く強い悪魔に成りたいなら強い悪魔の眷属に成るしかない。1番良いのが原初クラスの悪魔である。

 当然、天使教であるナチスはその提案を断る。


「確かに、強い力は魅力的だな。死なないのも良い」


 断る。

 ナチスは天使教の戦闘員の竜騎士部隊の団長まで登り詰めた強者。

 悪魔の提案を呑む筈が無いのだ。


「それに見た目も変わらないから俺のこのイケメン顔が残るのは良いよな〜」


 1部を覗き部下や教会の人からは1目置かれているナチス。

 自分でイケメンと言うナルシストな1面はあるのだが、確かにナチスは世間一般的ではイケメンではある。

 だが、天使を崇拝しているナチスが悪魔の提案なんぞに屈する筈も無く断るのだ。


「うん。良いだろう」


 ナチスは肯定の意を示した。


『ふん。中々な奴だなお前はなら⋯⋯』

「正しい条件がある」

『何?』


 ナチスの相棒であるドラゴンがさっきから何言ってんのお前?と言う顔をナチスに向けているが無視している。

 ナチスは人差し指を上げて幾つかの条件を提示する。


「1つ、お前の魂を俺に寄越す事。俺の力に成れる事を幸福に思いながら最後の記憶に刻んで永遠に居なくなれ。2つ、貴様が上位悪魔アークデーモンから進化を果たしてから。そして最後に、それで天使様達から嫌われないなら良いだろう」

『それが通るとでも?』

「なら、交渉決裂だな。俺は天使様だけには嫌われたくないんでね」

『ふん。そこまで天使エンジェルを崇拝するか』

「ああ、なんたって天使様達は可愛いからな!」

『⋯⋯』


 キョトンとする悪魔、また始まったと呆れ顔の相棒ドラゴン。

 ナチスは熱弁する様に悪魔に言う。

 ナチス曰く、天使達の中には幼い体をした天使もいるようだ。

 それがとても可愛らしく尊いらしく最高らしい。

 天使達は大人の体型が多いがその中でも成る可く小さい子が良いらしい。

 詰まるところ、ナチスは天使萌えタイプのようだ。

 天使教に入っているのも天使の事を色々と知る為らしい。

 それ故か、ナチスは日頃は割と真面目に見られている。

 内面を見てない人から見たら毎日誰よりも速く来て祈りを捧げているからだ。その内面はともかくとして。

 強さを身に付けたら天使に好かれると思い努力した結果仙人まで登り詰め、見た目を良くしたら天使に好かれると思って健康や体型維持もしっかりした結果こうなり、天使に好かれる為人に喜ばれる事を進んで行う。

 或る意味狂人だが、仲間からの信頼は高い。

 それが例え仲間の為ではなく天使の為であっても。

 そんなナチスに声を掛けてくれる天使はあまり居ないようだ。


「さて、さっさと終わらせて大元を叩く事にするぞ」

「ガルガガァ!」

『ふん。所詮は人間だろう?我は上位悪魔アークデーモンまで至った存在。貴様なんぞに勝てる存在では無いと知れ』

「ハン!こっちも言ってやらぁ。所詮は下っ端の上位級程度の雑魚では俺の相手は務まらないんだよ!」


 互いに飛行して接近する。

 攻撃の射程範囲内に入ったら互いに攻撃を加える。

 ナチスはランスを突き出し、方や拳を突き出す。

 拳とランスが激突して火花を散らし、衝撃音を響かせる。


『【ダークナックル】』

「【スピア・ザ・ホーリー】」


 悪魔の拳は黒く輝き、ランスは金色に神々しく輝く。

 互いに均衡し合うかと思われたその衝突はランスが押す事で変わる。


『ぐぬ』


 拳が徐々に押されて腕を曲げ始める。それでも必死に押し返そうとする悪魔は或る意味滑稽である。

 腕が肩まで戻った所でドラゴンが加速する。

 スキル【超加速】を使用したのだ。

 その結果、ランスの威力も上昇して上位悪魔アークデーモンの腕を貫いて破壊する事が可能と成った。


『何!』

「何!なんで驚く!お前の魔力量的に上位級に進化したの割と最近だろ?その程度の存在に負けねぇっての」

『くっ』

「じゃあ、終わりにするか」

『ま、待ってくれ。この戦いからは手を引く。そ、そう!それで手を打とう。うん。平和的解決だな。我は下がる。故に攻撃なんて辞めてくれ』

「⋯⋯はぁ?悪魔のくせいに逃亡とはいい度胸だな?命乞い?そんなの聞いてやる義理なんてねぇんだよ。貴様ら悪魔は天使様の宿敵、死んで当然なのさ。安心しろ。俺に魂を壊す力はねぇから」

『畜生。【加速】【高速飛行】【空縮】』

「はい、残念」

『な、んだと?』


 悪魔は自分が出来る最高速で移動したが、相棒ドラゴンの方が速い。

 当然である。ドラゴンが持つ加速系スキルは悪魔よりも多く、【超加速】【超高速飛行】【超空縮】と言う完全上位版のスキルなのだから。何でもかんでも超を付ければ解決理論は気にしては負けである。


「じゃあな」


 ドラゴンが1回転する。合わせてランスを振り下げて悪魔を貫き処理する。


「さぁて。皆揃ったら大元殺るか。殺れますよね?今のあいつなら⋯⋯タロット様。俺、頑張りますので。どうか、どうかメタトロン様とサンダルフォン様によろしくお願いしますよ」


 タロットにその言葉は通る事は無い。

 出て来ているタロットはあくまでも分身体的な物であるからだ。

 ナチスの思いが天使達に届く事はあるのだろうか?それはきっと、誰にも分からない。

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