第76話黒巫女召喚士と暴食之悪魔 ⑤


「帰ったぞぉ〜お?ゲーム中か?」


 父は娘達の部屋に行った。ちなみに母は車を停めている。


「む、俺達の娘達達が家出したあああ!」

「阿呆か!貴美ちゃんの所でお泊まり会でしょうが!」

「あ、そうか」


 戻って来た母によって父の馬鹿暴走は阻止された。

 少しでも遅れたら110番のスマホに指を当てて居ただろう。


「そう言えば柑も行ったんだよな」

「そうね。萌波が高校2で桃達が中3、確か桃達が小2の頃からだったわね」


 およそ7年前から柑は引きこもりなっていた。

 そしてその頃にVRゲームを3人に現実からの逃げ道として与えた。


「萌波は不思議な子よね。私達のDNAを最初に引き継いだのにゲームに全く興味を示さなかったわね」

「そうだな。あの頃は俺達の子供か本当に疑って検査までしたしな」


 勿論不貞行為等しないこの夫婦にそんな事はなく、萌波は2人の子だ。


「最近ゲームしてくれているし、なんか安心したわね」

「確かにな」


 両親の会話として高校生の娘に対する内容で合っているのかは疑問な会話をしているのには訳がある。

 本当に数年ぶりに外に出た柑の事を思い、過去の事を思い出したのだ。

 自分達が親として不甲斐ないと感じたあの時を。


「あの時の萌波も桃を助けた萌波だったのかしら?」

「さぁな。萌波自身忘れているし、あんまり思い出して欲しくも無いけどな」


 だから萌波と桃に対しては柑に起こった出来事を掻い摘んで話している。


「さて、子供も居ないし部屋に水と栄養剤と手頃な軽食を準備しますか」


 仕事で遅れた分、取り戻す為にここから数日は部屋から出ないつもりであるこの2人。


 ◆


 マナが飛び虹色の軌跡を描きベルゼブブに接近してすれ違い座間に鎌を振るい攻撃する。

 それでも弱点では無いのであまりダメージは入らない。

 攻撃も直接受けた訳で無いがそれでもダメージは出るだろうと予想している。

 攻撃も出来て回避や防御も出来るベルゼブブと言う悪魔は難易度も正に悪魔的。

 最近ではチラホラ出現し始めた2つ持ち職業。

 だが、もしも魔法を得意とするメイン職業にサブ職もメイン職業に近い物だったらベルゼブブに対する攻撃方法は無いに等しい。

 ベルゼブブは視界に入った魔法や妖術を食べる事の出来るチート性能がある。

 そんなベルゼブブを封印出来た過去の超越者達・・・・・。


 モフリが鎌を下から上へと振るい遠心力をそのままに鎌の向きを踏ん張って変えてベルゼブブに2回目の攻撃をする。

 最初の振り上げ攻撃は横にズレて回避、2回目の横薙ぎは少し上昇して躱す。

 上昇したタイミングでネマは跳躍して弱点に爪で4回攻撃。


 現在のネマにはただ相手の弱点に攻撃して相手の攻撃を受けない事しか考えていない。

 それだけベルゼブブは強いと思い集中しているのだ。

 モフリが振るう鎌は1回の接近で最大攻撃回数は6回、ネマは弱点に一定の攻撃を与えて居た。

 マナは移動のみに自分の意識を向けて居るので攻撃はして居ない。

 マナの近接攻撃は突進か足での蹴りか掴み、掴んで飛んで上空から落とす方法がある。

 相手はベルゼブブで飛ぶので落下はしない。

 突進も威力が一定量に達して居るからか、結界を張ってしまい攻撃は届かない。

 足での蹴りも上にモフリやネマが居るので出来ない。

 激しい動きをして1人と1体を落として回収する時には隙が大きく出来てしまうし時間も勿体無い。

 相手が再生能力が無いとは言え、回復が出来ない保証は無いのだ。


 遠くから見たら複数の色に光っているのが動いて時々黒紫色の光も動く。

 そんな光景だろう。


 ◇


 マナは1度意識が朦朧とする中で苦しみを感じて居た。

 だが、そんな朦朧とした意識の中でもモフリ、自分の主が自分の為にの行動している事は何となく分かっていた。

 そしてそんな状態のマナに話掛けてくる存在が居た。

 よく覚えて居ないがマナは願った。モフリが困っている事の支えに成りたい、モフリと戦いたい。

 死霊の帝王では自分は何も出来なかった。

 それがマナの願いであり思いである。

 そしてモフリ、さらに仲間達の為に手にした力は回復の力、そしてモフリと戦える強さであった。

 モフリと共に居た影響か、魔法戦よりになって少しダブりも感じたが満足だったマナ。

 仲間の誰よりも強くなりモフリの支えに成っている事に誇りと喜びを感じるマナ。

 だからこそ、落とせと言われた時にどれだけ驚き嫌な気持ちになったか。

 それでもマナはモフリの願いを聞き届けた。


 マナは自分の力を仲間の為に使う。

 誰もやられる事の無いように、モフリの考えと同じような考えをマナは持っている。

 だからマナは安全な攻撃を行っている。

 マナの嫌いな事はモフリが悲しむ事、そして一時期自分のせいで悲しませた事に対しての罪悪感をここで晴らす勢いでマナはベルゼブブと交戦している。


「ギャラー!」


 それは咆哮、勝つと、そして笑顔で仲間達と勝利を笑い合うと宣言した咆哮だった。


 ◇


 全然ベルゼブブのHP減らないんだけど。

 多分だけどもう数百回くらいは攻撃しているよ?ネマちゃん合わせればもっと行くよ?

 それでも1割減らないってある?

 弱点じゃないからとか、そんな次元じゃ無くない?

 結構辛いんだけど。集中力は戦いを長引かせる程に落ちる。

 さらにこっちは足場の不安定な中でやっているのに。


「ギャラー」

「別にマナちゃんを責めている訳じゃないよ!寧ろこうやって戦える事に感謝しているよ!」


【以心伝心】はオンオフ切り替え可能だが、戦いの中では少しでも考えの共有をしたいのでオンにしているのだが、こんな些細な事でも分かってしまうようだ。

 私は皆を責める事は何があろうと絶対に無い。

 だけど受け取り側はそうは思わない可能性があるので気をつけよう。


 今でも狙いは羽って事には変更は無い。

 やはり空中と地上では地上の方が戦い易い。

 それでも、今の私では無理かもしれない。


『暇だし少し良い事を教えてやろう』


 相手の戯言は無視してマナちゃんはベルゼブブに接近して私は鎌を振るう。躱されても鎌の向きをすぐに切り替えてベルゼブブに攻撃する。

 これは腕で防御されるがその隙に弱点にネマちゃんの攻撃。


『その猫の攻撃は大した事は無いな』

「シャー!」

『黒巫女よ、お前は狙いが分かりやすい』

「⋯⋯」


 図星だ。

 私は少し教わった程度で武術には関わりは無いし今回が初のVRゲームだ。

 仕方ないと割振っているがここまで高性能なAIで感情などあるかもしれないベルゼブブには分かるのかもしれない。

 そう、これはモンスターとの戦いであって違うのだ。

 相手はモンスターの皮を被ったプレイヤーだ。それも上位の。


『そして無駄な動き、攻撃先の目の動き。お前は弱い。ブラフにも簡単に騙される。全く、戦いは相手の全て見て、把握する。その点で把握されたお前は弱いの範囲以下だ。戦いならその猫や鳥の方が強い。センスが無いのよセンスが。ただ己の能力と武器に頼っているだけの雑魚』

「ギャラー!!」「シャー!!」

「そんぐらい、私が1番分かってるよ!」


 それでも私は勝つって決めてる!

 ベルゼブブの煽りなんて無視だ!無視!

 だけど、気にしている事をそんなズカズカ言われるのは少し集中力の霧散に繋がった。

 気を引き締めよう。

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