第74話イサの思い。黒巫女召喚士と暴食之悪魔 ③

 地面に着地してベルゼブブの様子を伺う。

 ダメだ。現状では勝てる見込みが無い。

絆結晶リアン・アイテム】は1度も試した事が無く、割と心配だ。

 さらにスキルの特性上マナちゃんとしか使えない。MP不足である。

 だからこそある程度の強さはあると信じているが、それがただの理想であるのならば辛い。

 ああ、ちゃんと準備してからで来るんだった。

 急ぐ必要無かったかも⋯⋯いやでも師匠のお父さんと思われる人が関わって居る可能性があるからね。

 霊符と形代の準備だけして来てしまった。

 いや、準備しても結果は変わって居ないかもしれないけどね。


『虫けらはしぶといとは良く言うよね』

「そんな言葉は私、知らないし」


 マナちゃんがベルゼブブに向かって飛ぶ。その背中には私とネマちゃんが居る。

 真っ直ぐ飛んでも、真上に行って落下しても意味が無い。

 意味があるのは同時攻撃で結界を砕き攻撃を与える事だ。

 だけど、簡単には平行移動されて躱されて反撃される。


「にゃ〜」

「ネマちゃんも頑張っているし悲しまないでよ」


 ネマちゃんが唯一ベルゼブブに攻撃出来ているが結果はコレだ。

 攻撃力の低さにネマちゃんは悲しんでいる。

 私がこんな事を考えていると感じ取られたようだ。

 私もネマちゃんが考えている事が容易に分かる。


 勝ちたい。


 ネマちゃん達だって私に付き合って戦ってくれるんだ。その心に報いたい。

 話した時間は短いけど楽しかった。だから、助けたい骸骨さんが居る。

 だから、私は勝ちたい。


 考えるんだ。

 どうやったらベルゼブブに有効打を与えられる。

 1つ目の目標はベルゼブブの羽を斬り飛ばす事だ。

 地面に落としてからが私達の本番だ。

 どうする?



 ◇



 主を見ているのは小さな白色の狐と黒色の柴犬だった。

 柴犬は考える。思っている。

 ただ自分はその時に瞬間的に生み出されたAIでもこの世界できちんとした生命を得て生きている。

 自分がAIだと認識する事は無いが、ただ柴犬、だけではない。

 モフリの召喚獣全員が自分の意思で、感情で動いている。

 だから柴犬、イサは嘆いている。自分の弱さを。

 強くないと分かって居てもモフリの隣に立ち、守りたいと。

 最初は守れていた。だが、途中からイサは守る立場から守られる立場となっていた。

 それがとても悔しい。

 後輩である鳥には高速で立場を抜かれて、同期の猫は攻撃面で優秀だから一緒に戦えている。

 同期のハムスターはそもそも戦闘向きでは無い。

 黒狐や亀はモフリに対する愛情や思い出はあるがイサ達と比べると薄い。

 それでも皆が主であるモフリの為に成りたいと思っいる。


「わぅ」


 自分だけ、この戦いで召喚されても戦えないで居た。

 隣の狐は主達を信じて見ている。そして出番が来たら仕事を全うする。

 だが、イサにはその仕事すらない。自分にはやられて欲しくないと、そう主に思われているから命を無駄にするような行動は出来ない。

 だから、隣の狐、ハクも動かない。


 イサはこの戦いで自分だけが役立たずで、自分だけが無駄な存在だとイサは思う。

 イサは願う、力を。主だけではない。仲間を全員守れる程の力を。

 だが、願うだけでは何も起こらない。何かを成すにはまずは己が行動しないといけない。

 誰かがする、してくれるでは無い。自分がしたいか、するかだ。


 イサは今の現状は辛くも受け入れ、そして己の力へとする事に決めた。

 モフリの戦い方は相手の行動を見て、把握して最適解、詰まるところイサ達がやられない方法で確実に勝つ方法だ。

 自分達が足を引っ張っているとはモフリは思わない。

 だからイサも考えない。

 モフリは観察をしながらも今の戦いに悪戦苦闘している。

 ならば少しでも力になる為に相手の行動や癖を出来るだけ把握する事に徹する。

 モフリとの以心伝心によって相手の情報は召喚獣にもリークされている。

 つまり、ベルゼブブの弱点は7つの心臓と腹にある水晶だと。

 心臓を攻撃する事が出来ればそれだけでも大ダメージは確実だ。

 しかし、探しようがない。

 臭いもこの距離だと分からないし心臓の臭いなんて分からない。


「わぅ」

「きゅん!(落ち込む時間があるなら少し集中しなさい!)」

「ワン!(正にその通り!)」


 イサは落ち込む自分は後にしろと言い聞かせてモフリ達の戦いを見る。

 様々な色に輝く羽を持ち主であるモフリと共に戦い空中戦の足となり剣となるマナ。

 時に攻撃を弱点にピンポイントで攻撃する黒猫のネマ。

 そして何よりもマナの上で接近して鎌を振るう黒巫女姿のモフリ。

 速く、強く、そんな戦いをただ見る事しか出来ない。

 許されない。


 再び襲って来るのは悔しいと言う感情。

 誰かに捩じ込まれた思いでは無くイサの本心でモフリを守りたいと思うからこそ、悔しいと言う感情はさらに高くなる。

 そこから生まれるのは嫉妬の感情。

 否、自分への弱さへの憤怒だ。


 イサの目に映るのは黒紫色の魔法を多彩に使う悪魔ベルゼブブに対して正反対の明るい色の塊であるマナに乗ったこれまた黒色のモフリ。

 落下からの攻撃や跳躍からの攻撃や同時攻撃は辞めてマナに常時に乗った状態で戦う先方に変えたようだ。

 マナが突撃し射程内に入った所で鎌を振り下ろして攻撃し、ネマは落下して弱点に攻撃してマナが回収して再び飛び回り魔法を躱す。

 着実に攻撃は当てられるがどれも大したダメージにはなって居ない。


(戦いたい)


 愛する主の為、仲間の為、戦いたいと願い力を欲するイサ。

 壁になる事を許されないイサ。自分の命を賭ける事を許されないイサ。行動出来ないイサ。自分の弱さに憤怒するイサ。

 それでもイサは主に言われた命を全うすると決めている。

 成る可く、足手まとい也に頑張る所を見せると意気込むイサ。


 モフリが横薙ぎに払う鎌を腕で防がれて弱点に攻撃しようとしたネマは膝蹴りを受けそうになり、身を翻し何とか躱してマナがネマを回収。


『同じ行動ばかり。嫌になる。これが低脳で低俗な人間のやり方か。⋯⋯だが、そこの鳥よ。貴様は見込みがある。我の眷属に成らないか?それなりの待遇を約束する。悪魔は約束を破らない。どうだ?そんな低俗な者に従うくらいなら我に従わないか?』


 その言葉にキレたのは皆同じだった。

 イサもネマもマナもハクも皆が皆、心は1つ思いは1つ考えは1つ。

 自分達の主は最初も最後もモフリだけであると、そして自分達が従う主を低俗と呼び、下に見たベルゼブブに対する怒りが限界に達した。

 だが、ベルゼブブはその怒りを受けても尚、微動だにしない。

 それが強者の余裕と言う物だろう。

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