第50話/番外 敏捷特化のダンジョン攻略 後編
戦いは一方的な物になっていた。
半分のHPになってから人型になったアラクネは防御力が少し上昇し、攻撃を一定時間攻撃が無かったら回復して行く仕様になった。
再生力を防御力に回し、足での蹴りも背中の蜘蛛の足で拘束攻撃も手の鎌でもオレンに1度も攻撃を与える事が出来ていない。
オレンの攻撃は全て命中する。少し与えるダメージが減っているが手数が増えているのでプラスに傾き、きちんと攻撃を命中させて行た。
防御力が上がってせいで未だにアラクネのHPの6割を削れていない。
この勝負は現在、アラクネのHPが減り切るかオレンの集中力が限界に来るのか⋯⋯アラクネの方が負けるだろう。
何せ相手はプロゲーマーの双子の姉妹に両親を持ち、その実力は堂々であり、そしてこの状況をくれた桃の為の思いに応える為にも、オレンの集中力はいつも以上に高い。
「さっさと!削れろ!【アサシンブレイド】」
MPも回復しては使ってを繰り返してひたすらダメージを与えていた。
アラクネとオレンが離れた最大の距離は5メートル。
アラクネの戦闘スタイルを変えてから糸を広範囲に放つ事が無くなった。
本来ならアラクネのさらに上がった機動力、攻撃力で相手を翻弄し倒すスタイルなのだが⋯⋯オレンにとっては悪手の悪手である。
「私に勝ちたければ!エリア全体範囲攻撃を出すんだな!勿論そんなゲームバランス崩壊している攻撃なんてして来ない、よね?」
もしも普通にダメージが低い代わりにそんな攻撃が合ったら一撃さようならになるオレンは心配になった。
だが、相手は蜘蛛型のモンスター、今では蜘蛛要素なんて背中から生えている足と手の鎌くらいである。
つまり、既にオレンの敵では無い。
ゲーム内時間5時間後オレンはアラクネのHPを6割削る事が出来た。
アラクネに紫色のオーラを纏い、鎌が黒く変色して行く。
「パワーアップしても、意味なし!」
その全てを正面から躱すとオレンは思い、再び粘着を開始する。
哀れアラクネ。君の攻撃は幾ら普通のプレイヤーでは躱す事の出来ない攻撃でもオレンには意味が無い。
AGIが4桁になっているオレンには意味が無い。
ステータス上昇系のスキルに装備、そして純粋はステータスによって4桁に達している敏捷、最速双子の片割れには幾ら常人的なプレイをしている人にとっては普通に強敵のアラクネじゃあ無理なのだ。
普通に強い隠しボスと、異常に速いプレイヤー、どっちが強いか?簡単だ。普通が異常に勝てる訳が無い。
ただ、オレンとアラクネは相性が良かった。
もしもオレンが戦う隠しボスのメイン攻撃が遠距離魔法で雑魚モンスターを生み出す系のモンスターなら苦戦を強いられているし、下手したら負けている。
さらに空を飛ぶドラゴンのように火を放つ奴にも勝ち目は無い。
ゴーレムのように無駄に硬いと攻撃すら通らないかもしれない。
だが、相手は攻撃が通り空を縦横無尽に飛び回るモンスターでは無い。
「もっと、もっと!私に攻撃力をくれぇえ!」
既に勝ち目が見えたと感じたオレンは余裕の叫びを上げる。
「油断している訳じゃないよ?余裕なだけだよ?」
オレンの背後に現れた糸を躱して再び攻撃に移る。
異常の人ではなく普通の人では今ので拘束されていただろう。
何せ虚空から急に現れた糸なのだから。
本来アラクネの戦いには火属性の魔法が使える魔法使い、魔術師、さらにアラクネの高攻撃力の連撃を受け流したり耐えたり出来るタンク、アラクネの機動力に追い付けそこそこダメージの与えられるアタッカーが居るのが普通的な戦い方であり、運営もそれを承知で作っている。
だからこそ、オレンが行っている事は何度も言うが異常なのである。
だが、既にゲーム内時間6時間を越えている。
現実では3時間もひたすら同じ敵と戦っている事になる。
簡単に言えば、精神の疲れが蓄積されているのだ。
それからも時間が長きに渡り、HP7割減ったアラクネは1度強制的にオレンから距離を取れ、そしてアラクネの足元に白い卵のような小さな粒が出来る⋯⋯オレンは迅速的完璧な対処、燃やした。
完全に蜘蛛も生み出すような卵等放置してたまるものか。
疲れが溜まっているのは何もオレンだけでは無い。
リアルにNPCの感情等も現実に近くしたこのゲーム、タイトル通りに新しい世界と言って差し支えない。
つまり、アラクネに搭載されたAIであり感情や知能、ゲームの敵モブであるはずのアラクネでも疲れは溜まるのだ。
もう何時間も戦っているのに、相手にただ一方的にやられるだけ。反撃に意味は無い。
8割⋯⋯アラクネの目が赤く輝き始めた⋯⋯オレン速攻で視線から外れる。
オレンの予想、何かの魔眼的なアレ、オレンは今は知らないがアラクネの使っている魔眼は吸魔の魔眼⋯⋯MPを吸い取り回復する魔眼、相手が悪い。哀れアラクネ。
9割、つまりは最後の変更ラインと言って良い。
アラクネの最後の悪足掻き、基最終形態。
アラクネの背中の足が全て鎌に代わり紫色のオーラが黒色のオーラへと代わり、鎌の色は赤くなり、背中から生えている足の数はざっと4倍⋯⋯キモイ。
だが、ただ手数が増えただけなのでオレンには意味が無い。
本当は速度や攻撃力も上がっている。
そして、ゲーム内時間34時間、リアル時間17時間の長期戦の後、オレンは勝利した。
「うおおおおおおしゃあああああああ!」
オレン⋯⋯柑にしては珍しい喜びの叫びを上げた。
「勝ったぞぉおソロで勝ったぞ!お姉ちゃん!桃!お母さんお父さん!セカイさん!勝ったよぉぉお!」
今までに会った自分の記憶に残っている人達にお礼を告げて目線を、目の前のアラクネに合わせた。
「勝ったんだよね?勝ったよね?なんで、居るの?死亡エフェクトを散らしてさようならしようよ?ねね」
アラクネは居る。虚ろな目では無く、下半身は蜘蛛として、背中からは何も生えておらず手も手だ。
だからこそオレンはクエスチョンマークを大量に生産し続けている。
「⋯⋯⋯⋯」
ただ待っている。オレンは今すぐにもログアウトして家族に報告を済ませて糖分及びご飯を摂取して再び此処に来ると考えているからだ。寝る?ゲーマーは眠い時に寝るのだよ。
オレンは痺れを切らしてアラクネに触る。瞬間、オレンは油断しているつもりは無かったが、一瞬でアラクネの顔が自分の顔の横に来た。
「え」
そして、アラクネは一言。
「よろしくね」
最初で最後のアラクネの言葉、そしてアラクネは歯を立ててオレンの首筋にパクリと甘噛みする。
「しまっ⋯⋯HPが減ってない?」
その疑問を晴らすかのようにアラクネはポリゴンとなり、オレンに吸われていく。
「え、ちょ」
《条件、初攻略迷宮を単独でクリアを確認しました》
これでユニークシリーズ獲得は確定だ。
だが、オレンの予想外はここからだった。
《───条件を満たしました。称号:【半人半魔】【
「⋯⋯はい?」
《特殊条件達成を確認しました。種族:半人半魔【ビーストスピードヒューマン】になります》
《NewWorldFrontierにおけるハーフを初めて達成した貴女に賞賛を、称号:【原初の混ざり物】を獲得しました》
《スキルを獲得しました。スキル:【
《パチパチパチ、賞賛。ユニークボスモンスターの単独討伐、混ざり物への進化を同時に達成した事を確認》
《報酬が与えられます》
《経験値を獲得しました。Lvが9に上がりました》
「あ、レベルリセットされてる⋯⋯」
そんな事を呟きながら、目の前に現れた宝箱を開ける。
中には白色の短剣にアラクネの鎌のような短剣だ。
白色のパーカーにズボンが会った。
───────
蜘蛛女帝の短剣
装備必要条件:称号:
特性:【糸連動】【斬撃攻撃上昇】【譲渡不可/破壊不可】
STR+60
説明:蜘蛛女帝と呼ばれる蜘蛛の頂点的魔物の武器が使われた短剣。与える蜘蛛女帝が認めた相手に渡されてその人にしか使えない。この短剣はただの名刀よりも優れている。
糸連動:糸を射出・操作出来る。
斬撃攻撃上昇:攻撃を与えば与えるだけ攻撃力が上昇する。最大STR+300
───────
「わぉ」
まだまだ確認しないとね。
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