第34話黒巫女と武術家の戦闘 壱


「ま、いくら立ち上がってもすぐに終わるよ?ほら!」


 短剣を投げて来たクソ女。

 短剣を躱したわたしは徐ろに後ろに手を伸ばす。

 そして、さっき躱した短剣がわたしの手にある。


「なっ!」

「こんな2度も引っ掛からないだろ?」

「チッ」


 理屈は簡単だ。

 念動力的なモノで短剣を操って短剣を刺してきた。

 こんなのは正面に警戒して背後を警戒しない者、或いはただのバカしか2回も引っ掛からない。


「それでも、私と君ではPSプレイヤースキルが違うけどね!」

「さっきから五月蝿い奴だな」


 クソ女はバックしながら数本の短剣を投げて来て、その短剣は不規則にこちらに向かって来る。

 前や後ろ、横かも、四方八方から襲って来る短剣にわたしは棒で弾いて地面に落としたり手でキャッチして地面に落とす。

 地面に落とされた短剣は念動力の対象に出来ないのか、もう一度襲って来る事は無かった。

 ただ、完全に能力を把握している訳では無いので警戒は重要だ。


 わたしは地面を蹴ってクソ女に近づいて行く。

 貴美の事は特に心配してない。冷血って訳では無い。あいつなら問題ないと信頼しているのだ。

 なんせ私の友達も色々と変わった奴が多いからだ。


 わたしはクソ女にのみ集中する。

 わたしが再び私に戻れるのに1番の近道はこいつを倒す事である。

 だから、素早く倒したい。


「【加速】」


 クソ女はスキルを使った。

 その瞬間に短剣のスピードが上がった。

 わたしは走るのを辞めて短剣を弾く事に集中する。

 思っていた以上に速い。


「さぁ、どのくらい耐えれるかな?初見殺しなんだろ?1度受けたら効かないんだろ?さぁさぁ!」


 いちいち煽ってくるクソ女。

 わたしの右肩に短剣が当たる。

 短剣を引き抜いて短剣を再び落として行く。その度に追加されていく。最大10本のようだ。

 ここはゲームなのでインベントリなどと言う無限にアイテムが収納出来る機能がある。

 そのせいで大量の短剣を持っているだろう。

 アイテムの重力設定は今はオンオフ切り替えれる。

 だから、短剣を大量に持っていても問題ないだろう。


「落ち着け、わたし」


 これは初見殺しだ。いくら当たっても問題ない。痛みも、デバフに幻惑があるけど問題ない。それくらい精密に作られたゲームでありがたい。

 予想しろ。1秒先でもいい。予想しろ。


《熟練度⋯⋯》


 邪魔だ見ている暇なんてない。

 予想しろ、考えろ、先を見ろ。


「あらら?さっきので4本目、なのにどうして平然と動けるんだよ?痛いだろ?幻惑を見ているだろう?耐性スキルでも出来たのか?」

「痛いさ、だがな。あいつの方がもっと痛かっただろう。なのにわたしが根を上げるのは間違いだ。幻惑、さっきからバッリバリに受けてるよ。ただ、見ているのが『わたし』じゃないだけだ」


 外は同じでも中は違う。これが細かい所まで作り込まれ、現実のように過ごせるようにしてくれているAIのお陰だ。

 だからこそ大衆が認める神ゲーなんだろう。

 だから、イベントを1回も行っていなかったゲームでも未だに人口が増しているのだろう。

 だが、『本能』は怒っている。これが神ゲーだと?と。

 ゲームは楽しんでなんぼだ。負けても悔しくてもそれでも楽しいと思えるのがゲームだ。

 人生を掛けた人も居るかもしれないが、萌南の記憶を持った『本能』は楽しんでなんぼだと思っている。

 だからこそ、初心者狩りやクソ女と出会う事に怒りを感じている。痛みを増幅して安全装置の限界を超えるバグについても怒っている。人に取って1番嫌な幻惑を見せる⋯⋯これは良いだろう。


 こんなクソみたいな所が本当に大衆が認める神ゲーなのかと『本能』は思う。

 そんなゲームは神ゲー⋯⋯⋯⋯否だ!断じて否だ!

 痛みを怖がる者や嫌がる者の為に用意された機能、痛みを極限まで与えられて廃人に成らないようにセーブする為の機能が意味を無くしているのだ。

 さらに、それを自分の欲望の為に悪用している奴も居る。

 それが、野放しになっているのだ。

 それが、本当に神ゲーか?違うだろう。

 こんなのは、


「ただのクソゲーだ」


 だからこそ、神ゲーだと思えるようにするのが運営の役目だ。

 だが、それが出来てない。だからこそ『本能』は攻めて、攻めて萌南やその友は楽しく遊んでくれるゲームにすると、今、この瞬間決めた。


「しゃらぁくせぇ!」

「一体召喚士の君がどうやってソレを突破するんだい?」


 弾くだけ、落とすだけ、それでは足りない。

 全て躱してクソ女を攻撃する。これしかない。

 だから、予測するのは1秒先じゃない。2秒、3秒、さらにその先だ。

 限界なんて決めてなるものか!限界は越えてなんぼだ!


「なに?」


 クソ女はバックステップを大きく取りながら森の中に入って行く。

 わたしは短剣を軽くいなしながら前へ前へと進んで行く。その速度を上げて。


「待ちやがれ!」

「なら来なよ!」


 木と木を伝って進むクソ女は回転してそれに合わせて短剣を飛ばす。念動力は使ってない。

 念動力を受けている短剣は後ろから来ている。

 わたしも木と木を移動しながら、止まる事無く様々な予測先を作り出し少しの動きで未来を確定していく。

 そして、それに合わせて棒を動かして弾いて行く。

 止まることは許されない。止まったら再び短剣にひたすら襲われるだけになる。


「【跳躍】」

「展開、風足」


 黒巫女のLvが上がっている事によりジャンプした時の距離や持続時間が伸びている。


「畜生、まさかこんな事になるとはね」


 それでも余裕なクソ女。

 短剣を投げてはそれを弾かれて、木と木を移動しながら戦闘を繰り返す。

 だが、ついに違う攻撃が出て来た。


「【サイコキネシス】!」


 木の上に置いて会った短剣が動き出す。その数20。

 つまり、合計で30本の短剣が『本能』に襲い掛かる。


「スーーハーー」


 深呼吸をして、クソ女にも自分にも集中する事無く空間把握に集中した。

 空気の揺れ動く時に出来る極僅かな揺れを把握して行く。

 これは『本能』だからこそ出来る勘も重要になる。

 そして、生きる守る事に特化した『本能』だからこそ出来る事がある。

 それが、自分に攻撃しいる物に対して殺気を感じれる事である。

 それに対応出来る『本能』はさながら『獣』であった。

 ただ『本能』のままに、自分の感覚のままに、クソ女を追い掛ける。


「なんで分かるんだよ!見えてなかっただろ!後ろからやったんだぞ!」


『本能』は無言で仮面の目の位置に指を伸ばす。

 クソ女のそこそここのゲームをやっている。

 だからこそ理解する。


「反射か」


 瞳の反射も再現されているこの世界。

『本能』はクソ女の瞳に反射で映し出された短剣を見て、そしてその把握に神経を注いだのだ。


「なんだよ君は。初心者じゃないのかい?」


 クソ女は地面に着地する。セカイとは大分離れた所だ。つまり、クソ女のペアともかなり離れている。


「さあ、決着を付けてあげるよ!」


 クソ女はそう宣言する。

 この場所はクソ女が有利だろう。短剣も仕込まれているだろうし、1度仕込んだって事は1度は来ているとゆう事だからだ。

 1度も来た事の無い正しく未知の場所での戦いである。

 それでも『本能』にあるのはクソ女を倒す事だけである。


『本能』は地面を蹴って回転しながら遠心力を乗せて棒を振るうがクソ女は短剣を操って1箇所に集めて盾のようにする。

 棒はお祓い棒なのでヒラヒラとした白いの付いているがこれにアタック判定は無い。物体を通り抜ける事は無いが攻撃出来る訳では無いのだ。

『本能』は回し蹴りを使って短剣を弾き、それに合わせてクソ女は後ろに下がり、木を1度足場にして【跳躍】を使って跳躍する。

 そして、既に【サイコキネシス】が切れて動いている短剣は0本である。


 クソ女は腰に手を回すと、空中でも体を捻って動きながら沢山の短剣を投擲する。

 その正確さは見事のものであった。

 全て当たる訳では無いが、それでも殆どは確実に命中するだろう。

 さらに現実的に全て当たる訳ない短剣達はスキルによって確実に当たるように操作される。


「【加速】」


 短剣のスピードを上げて『本能』に襲い掛かる。

『本能』は4秒先の未来を予測する。萌南の時でも演算の能力は高かった。だからこそ生きる守る為だけに生み出された『本能』にもそれがあり、さらには生きる守る為にその能力は飛躍的に上がっている。

『本能』には見える。30本の短剣がどのように動くのか。

 だが、予想出来る範囲が広いので過程未来が沢山あった。視界を埋め尽くす程に。

 短剣一つ一つの細かな動きで次の行き先を決定づけてさらに特定していく。

 その常人的では無い演算は脳にダメージを与えるだろう。だが、ここはVRだ。仮想現実だ。バグでも無い限り痛みなどは制限されるし抑制される。なんの問題もない。

 そもそも危険な事を『本能』はやらない。


 短剣を棒で弾き、落として行く。

 踵落としや手の甲で弾き、4本同時に攻めて来た短剣を棒を使って同時に弾き、さらに10本同時に来た短剣は【風弾】を利用して弾き、地面に降り立ったクソ女にすぐに接近する。

 さすがのクソ女もこんなすぐに攻めて来るとは思っていなかったのだろう。

 だからこそ『本能』の蹴りに腕をクロスして防御を取った。


「風足」


【風足】を使って蹴り飛ばす。

 本来、跳躍力、正確にはジャンプ距離を増やせる妖術だが、それを蹴りに応用する事も可能なのだ。

 ただ、蹴る対象が地面からプレイヤーに代わっただけである。

 作用反作用の法則で同じくらい飛ぶが、『本能』はそれを理解しているのでバク転して木に足を付けて、完全防御体制を取っていたクソ女は木に体をぶつける。

 勢い強く体をぶつけているのでほんの僅かだがHPが削れる。


『本能』は木を蹴って接近するがクソ女もそれを見逃す訳が無かった。

 クソ女は再び短剣を取り出す。


「少しダメージを与えたからって調子に乗るなよ?」


 ◆


 一方貴美ことセカイの方は。

 一進一退の攻防を繰り返していた。


「パーティーメンバーは心配ないの?」

「私はモフリさんの事を信じてますから。そちらは?」

「さぁ、どうでも良いかな?臨時で組んでいるだけだしね。それに、あの人なんか嫌なのよね。組んでなんだけど」

「そうですか」


 互いに技術の縮地を使って速度を上げて接近してその掌を合わせる。

 友情の印?違う。


「「【発勁】」」


 力の波動が同時にぶつかり合う。

 同じスキルは打ち消しあい、その反動で互いに後ろに吹き飛ぶ。

 再び縮地しながら近づき、セカイは拳を、対する相手は足を使っての攻撃だ。

 パンチとキックが激突し、音を鳴らす。

 金属音よりかは静かだ。

 しかし、確かに音はなる。それだけ激しい攻撃なのだ。


 今度は両者とも連撃を使って高速で拳をぶつけ合う。

 互いに隙を狙って攻撃しているが、それを防ぐの繰り返し。

 両親同じくらいのペースでHPが減っていく。


「【パワーナックル】」

「【スピードナックル】」


 セカイは一撃の重みを、相手は速度を上げて攻撃して来る。

 数発諸にパンチを受けたセカイのパンチを腕をクロスして防御する相手。

 その重みは確かにあり相手は地面を滑りながら後ろに後退した。


「やっぱり同じ相手とやるのは面白い!」

「ありがとうございます。私ももっと精進しないとですね」

「はは、互いに長年武術をやっている身だけはあるな!」

「⋯⋯長年?」

「え?私は20年近くでここまで成長したぞ!同じ弟子達の中では最速だ!そちは?」

「⋯⋯」


 セカイ、いや貴美は答えられなかった。

 高校生です。小学校の頃からやってましたなど。

 それは相手の努力をそれよりも速く終わらせている事になる。それは相手のプライドを傷付ける事になるのだ。理解している貴美は優しさ故に本当の事を答えられないで居た。


「何年だ?」

「え、と、25年くらい?」

「ははは、それでも速い方だな!」


 ちなみに貴美が武術の道を歩んだのは小3からである。なので6~7年程で同じ域に至っている。

『本能』に関しては萌南の記憶を本能でアレンジして使っているのである。


「さあ、行くぞ!【俊足】【跳躍】」

「はい!【地鳴らし】」


 一気に加速した相手の攻撃を躱して地面に拳を叩き付けて一瞬だけ【地鳴らし】を使う。

 揺れた地面に少し足を取られた相手。


「しまった!」


 だが、焦る相手。

 同じ相手だからこそ分かるのだ。今この一瞬の隙も大きなミスであると。


「【縮地】【パワーナックル】」


【縮地】で一瞬で近づいて、攻撃力を上げて両手を組んで振り下ろす。

 それでも相手は悪い体制から体を丸めて腕をクロスして防御体制を整える。


「【堅牢】」


 防御力を上げて。

 振り下ろされたセカイの攻撃を諸に受けるが、HPは半分以上残している。

 すぐに距離をとる相手。


「まさか今の一瞬で1割削れるとは⋯⋯」

「それしか削れてませんか⋯⋯残念です」

「【地鳴らし】とは卑怯な⋯⋯」

「そうですか?」

「いや、これは真剣勝負であるからな。不意打ちでもないし卑怯では無いな」


 相手は構えを取る。セカイも取る。

 そして、互いに拳を高速で突き出す。


「「【衝撃波】」」


 セカイと相手の中心から風が巻き起こる。

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