お友達から始めよう

第5話 女の子の事は女の子に協力してもらうのが良いんじゃないかな

 翌日のこと。昨日わかった通り、岩橋さんは俺の家から学校へ行く途中にあるマンションに住んでいる。

 という事は、俺は学校に行く際に必然的に彼女のマンションの前を通ることになるのだ。


「おはよう、加藤君」


 マンションの近くまで来た時、岩橋さんの声が聞こえた。どうやら岩橋さんはマンションのエントランスで俺を待っていた様だ。


「えっ、待っててくれたの?」


 俺は小走りで岩橋さんのもとへ急いだ。梅雨前だけあって蒸し暑い。額に汗が滲む。


「走らなくっても良いのに」


 岩橋さんは微笑みながらポケットからハンカチを出し、そっと俺の汗を拭いてくれた……


 すまん、今のは俺の妄想だ。そんな美味い話がそうそう転がってる訳が無い。だがしかし、岩橋さんのマンションのエントランスに人影が見えた。


「おはよう、加藤君」


 本当に岩橋さんが待ってくれていたのだ。俺は妄想通り小走りで岩橋さんのもとに駆け寄った。


「おはよう。岩橋さん、待っててくれたんだ」


 笑顔で挨拶を返す俺の額には妄想通り、じんわりと汗が滲んでいる。


「うん、友達と一緒に学校行くのなんて久し振りだから嬉しいな。じゃあ行こうか」


 現実の岩橋さんは俺の汗を拭いてはくれなかった……って、そりゃそうだわな。


 二人並んで歩く通学路はいつもと景色が違って見える。公園に大量にいる土鳩さえも平和を象徴する白い鳩の様だ。公園と言えば、あの子猫、タマ(俺が勝手にそう呼んでるだけ)は元気にやっているのかな?


「昨日の子猫、お母さんが見つかって良かったね」


「うん。お母さん猫が子猫を咥えて歩くの、かわいかったね」


 俺が言うと岩橋さんは笑顔で答えた。相変わらず前髪で目は隠れているが、優しい目をしているんだろうな、きっと。


 俺は子猫の話が終わると、頭をフル回転させて色々な話題を振った。それこそ昨日のテレビの話から晩御飯のおかずの話、先生の話……ああ、どーでも良い話ばっかりだな。何故俺は気の利いた話の一つや二つ出来無いんだろう……こんな話されても面白くも何とも無いだろうに。


 だが岩橋さんはそんなクソつまらん俺の話にも嫌な顔一つすることは無かった。それどころか一生懸命話す俺に頷いたり笑ったりしてくれた。


 そして俺が和彦と遊んだ時の事を話した時、岩橋さんは静かに口を開いた。


「加藤君って、本当に谷本君と仲良いのね」


 まただ。また岩橋さんは俺と和彦が仲が良いという事を口にした。やっぱり岩橋さんは和彦に気があるのだろうか? 昨日、和彦には彼女がいるって言ったよな、俺……

なんて考えていると岩橋さんは言葉を続けた。


「私、友達いないから羨ましくって。それに谷本くんって、男の子にも女の子にも人気あるわよね。それぐらいは私の耳にも入ってくるもの。そんな谷本くんと親友の加藤君は私の憧れなの」


 憧れ? 俺が!? 岩橋さんの言葉に目眩すら覚えた俺だったが、更に続いた言葉に現実というものを思い知らされた。


「私も加藤君みたいに同性に好かれる人間になりたいなって」


 同性に好かれるったって、そこまで俺のことを構ってくれるのは和彦だけなんだけどな。

 まあそれは置いといて、岩橋さんは男よりも女の子の友達を作りたいみたいだ。まずは和彦の彼女の由美ちゃんと上手く友達になれる様にしてあげる事が先決だな。


 教室に入ると由美ちゃんが和彦と楽しそうに話をしていた。しかし、和彦が俺の顔を見て「おう、明男!」と俺の名を呼ぶと由美ちゃんの顔が少し曇った様な気がする。きっと和彦が由美ちゃんを放っといて俺と話をすると思ったんだな。もしかしたら由美ちゃんは口にこそ出さないが、俺のことを疎ましく思っているかもしれない。


 だが、そんなことは言っていられない。第一、俺と和彦と由美ちゃんの三人に岩橋さんが加われば二組のカップルが成立し、由美ちゃんにも多大なメリットがある筈だ。さて、話をどう持っていくかだな。とりあえず和彦に話をするとしよう。それで和彦の口から由美ちゃんに協力してもらう様に言ってもらおう。他力本願で情けない気もするが、事を上手く運ぶのが最優先事項だからな。なんて考えていると、和彦が俺の後ろの岩橋さんに気付いた。


「おおっ、昨日の今日でいきなり一緒に登校なんて、やるじゃないか」


 和彦の言葉に岩橋さんは頬を赤くして俯き、そそくさと自分の席に行ってしまった。やむなく俺は慌てて事の成り行きと俺の考えを二人に説明した。俺の考えていたプランは台無しだが、やっぱり頼み事は直接言うのが筋ってモンだからな。


 期待通り和彦は一も二もなく頷いて由美ちゃんに「協力してやれよ」と言ってくれたが、由美ちゃんからは少々厳しい言葉が返ってきた。


「わかったわ。でもね、友達って頼まれてなるものじゃ無いじゃない? きっかけは加藤君が作ってあげたとしても、本当に友達になれるかどうかは岩橋さん次第なんだからね」


 由美ちゃんの言う事ももっともだ。だが、とりあえず協力はしてくれると言う。これでお膳立ては整った。後は……なるようにしかならないか。



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