非モテの俺が子猫のおかげで出会った陰キャのぼっち少女が実はワケあり超絶美少女で、結果俺が世界一の幸せ者(俺調べ)になった件

すて

出会い ~迷子の子猫と一人ぼっちの少女~

第1話 失恋

 梅雨前の蒸し暑い日のこと。


「ごめんなさい」


 たった一言で俺の恋は終わった。いや、わかってた。わかってたんだ、こうなるのは。


 何故かって? 簡単なコトだ。彼女は俺なんかには高嶺の花だったんだよ。


 俯いてがっくりと肩を落とす俺に彼女は申し訳なさそうに言った。


「加藤君が良い人なのはわかってるし、気持ちは嬉しいんだけど、私より……」


 ほら、予想通りの展開だよ。この後続く言葉は聞かなくってもわかってる。どうせ『私より背の低い人とは付き合えない』とか言うんだろ? 


          *


 俺は加藤明男、どこにでもいる様な高校生だ。勉強は出来るでも出来ないでも無く、スポーツも秀でたところは無いが、かと言って鈍臭いわけでも無い。まさに『普通』と唱えて水を撒いたら俺が生えてくるんじゃないかっていうぐらい平凡な、言ってみれば量産型の高校生、モブとしてパーフェクトな人間だ。ただ一つの外見的特徴を除けばな。


 俺の外見的特徴、それはちょっとだけ背が低いことだ。ちょっとだけ、あくまでちょっとだけなんだからな。言っておくが俺より背が低いヤツはクラスにも五人ほど居るし、学校でならもっと……日本全国にだったら俺より背が低いヤツなんか、それはもうまさに掃いて捨てる程居るに決まってるんだからな。


 ともかく、一つ先輩の女子に振られた俺はトボトボと廊下を歩いていた。ちなみに俺は二年生。憧れの先輩の高校生活最後の一年を一緒に……と勇気を振り絞って告白した結果、見事に玉砕したってワケだ。すると男の声が傷心の俺を呼び止めた。


「おう明男、やっぱり振られたか?」


 ストレートな言葉で大きなお世話を焼いてきやがったのは親友の和彦だ。コレがもし、他のヤツに言われたのだったら無視するか、言い返すにしても「ほっとけ」ぐらいなもので済ますところだが、コイツなら話は別だ。俺は頑張って精一杯の笑顔を作って答えた。


「ああ、やっぱりダメだったわ」


 二人して『やっぱり』という言葉を口にしたところからわかると思うが、俺が彼女に告白した事自体が無謀なものだったのだ。そりゃそうだろう、優しいだけで他に何の取り柄も無い主人公が全校生徒憧れの先輩と付き合えるなんてコトはマンガやアニメやゲーム、そしてライトノベルでしか起こり得ないって決まっているのだから。


「振られたモンはどうしようもないだろ。でもまぁ、これでスッキリしただろ?」


 和彦は慰める様に言うが、『告白したら振られても悶々とした気持ちが無くなってスッキリする』なんて言うのは嘘っぱちだ。まあ、百歩譲って振られた傷が癒えた後はスッキリするとしても、今の俺は振られた直後なんだから、落ち込み度はMAXだっての。


 俺は和彦を見上げる様に言った。


「いいよな、お前は」


 和彦は身長が180センチ近くはある。それに比べて俺の身長は165センチにわずかながら届かない。身長差は10センチ以上だ。いったい何食ったらそんなにデカくなるんだよ? 羨ましい、実に羨ましい。いや、最早羨ましいを通り越して妬ましい。俺は毎日牛乳飲んで、ヨーグルトだって食べてるってのに……


 ちなみに俺が振られた先輩は俺より少し背が高い。和彦となら背の高さの吊り合いが取れるんだろうな……しかしカップルの理想の身長差が15センチだなんて誰が決めたんだ。えっ、アンケートの結果だって? 知るか、そんなモン。


「何言ってんだか、お前は」


 言いながら和彦は俺の肩に腕を回し、優しい言葉をかけてくれた。


「ジュースでも飲みにいこうぜ、奢ってやっから」


 コイツはいつもこうだ。たまにケンカもするが、俺が落ち込んだ時は慰めてくれ、悩んだ時は相談に乗ってくれ、楽しい時は一緒に笑ってくれる。そもそも何故こんな良いヤツが俺なんかの親友でいてくれるのだろう? 


 金か?            いや、和彦の家の方が金持ちだ。


 勉強を教えて欲しいとか?   いや、和彦の方が成績上だし。


 他に友達いないとか?     いや、和彦は男女を問わず人気あるぞ


 何か悲しくなってきたな。他に考えられる事は……


 俺の妹を狙ってるとか?    いや、残念だが俺に妹はいない。


 実は生き別れの兄弟だとか?  無ぇよ、んなコト!!


 わからん、謎だ。だが「なんでお前は俺に構ってくれるんだ?」なんて聞くのも変な話だしな。何にしても和彦はいつもの様に笑顔で俺の側にいてくれる。それだけでも喜ぶべきことなのだ。あ、念の為言っとくが、俺はそっちの気は無いからな。多分、和彦も。なにしろ羨ましいことに和彦には彼女がいるんだからな。


 ともかく俺は和彦にジュースを奢ってもらい、ヤケ酒ならぬヤケジュースを喉に流し込んだ。


 ちなみに俺が和彦に奢ってもらったのはどす黒い色をした炭酸飲料だ。暑い日はコイツが最高だ。


 炭酸が喉を刺激する。


 飲んだジュースが即座に汗に変わり、額に噴き出す。


「暑いな、まだ梅雨前だってのに」


 和彦が言うが、俺の心は今日から氷河期に突入だ。しかし、僅か数日後に俺の心の氷が溶けることになるとはこの時は思いもしなかった。






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