意味のないイタズラ

 家にいることさえもいたたまれなく、制服に着替えると外に出た。

 みづほをいじめている三人の女の子はとてもうまくやっている。主犯格の道宮、取り巻きの佐藤と鈴岡。表面上、つまり大人の目があるところではとても優しくて、友好的で、親愛的。

 それが偽物であることを、みづほは痛いくらいに知っている。大人の目がなくなると彼女達は豹変する。陰湿ないじめを、何の疑問も抱かずに行える。そのやり方も感心するくらいにうまい。殴る、蹴るといった暴力行為はしてこない。痕が残ってしまうと厄介だから。裸になることを強要することはあっても写真を撮ろうとはしない。記録が残ってしまうから。卵爆弾のように汚す行為をするときは服を脱がせる。汚れた制服は目立つから。

 親と教員にばれる要素を徹底的に排除して、彼女達は事に及ぶ。たとえみづほが告発したとしても、抜かりなく先手は打たれている。

 教員に呼ばれたことがある。「誰から相談されたのかは伏せるが」と前置きされてから告げられたのは、みづほに過剰な被害妄想があるというものだった。

『一緒に遊んでいると、時々、途端に酷いことをされているみたいになるんです』

 本当にうまいことを言ったものだと感心した。これではみづほがいじめられていると訴えたところで被害妄想が爆発したと捉えられるだけだ。不登校を繰り返すみづほより、優等生の道宮達の方を教員が信頼していることは目に見えて明らかだった。

 踏切を渡り、坂を下る。喫茶店『CELIA』を探す。目に付いたのは空き地だけだった。

 楽しかったあの時間も、慰めを得たあの場所も夢だったのか。

(どこからが現実ホンモノで、どこからがニセモノなの?)

 現実と夢の境界線が曖昧になっていく。夢に現実が侵食される。

『一緒に――』

 あの声が聞こえた気がして、みづほは荒々しく首を振った。

 間知も、美玖も、逃避欲求が生んだ幻だったのではないかという思いが芽生えかけていた。

 教室に着く。まだ七時を回ったばかりの校舎は静寂に包まれていた。自分の席に座る。教室を一望できる最後列の左隅。

 目を閉じる。あまり眠れなかったせいか、ほのかに眠気がのぼってくる。

 でも眠りたくはない。眠ってしまえば、また夢を視ることになるから。

 ウトウトと舟をこぐ中、ふと、みづほは机の中に一枚のメモ用紙が忍ばせてあることに気付いた。周りの様子を窺い、手のひらで覆うようにしてメモを広げる。

『まだ、憶えてる?』

 何のこと? みづほは首を傾げた。

 また、意味のないイタズラ。

 メモ用紙を折りたたみ、ポケットにしまった。学校が始まる。

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