第5-2話 X-71性能試験2
俺と吉田少尉の会話に山田大尉が加わってきた。
「なんだ? 山田大尉」
「今回この艦に取り付けた中央演算装置ですが、かなり特殊なもので、回頭性能試験をすることなく、この艦の現在の状況から試験結果をかなり高い精度で予測できると思います。主砲の照準も含め、この艦の中央演算装置に任せてみませんか?」
「
「はい。その通りです。
実は、この艦に取り付けた演算装置は、その演算装置とは異なるものです。後日経緯を含め詳細を艦長にお伝えしますが、今は私の言葉を信じてください」
「ちゃんと装置が要求性能通り動いてさえいてくれれば、その程度のことは俺は気にしないから経緯などどうでもいいけどな。そこまで山田大尉が言うなら、任せてみようじゃないか。吉田少尉、いいな?」
「予定にはない試験ですから標的を用意していません。射撃目標はどうしましょうか?」
「そこらの小惑星でいいだろ。もし命中したら、後で破壊したむね航路用データベースに書き込んでおいてくれ。それで、破片も小惑星としてちゃんとデータベースに載るだろう」
「了解しました。それでは射撃目標を小惑星α-36とします。長径100メートル、短径30メートル。距離は、……、150万キロ。大きさはいいとして、ちょっと遠いかな?」
「吉田少尉、その小惑星で構いません」
「本当にいいんですか?」
「150万キロ程度でしたら全く問題ありません」
「分かりました。では射撃試験開始します。記録開始」
「射撃目標、小惑星α-36。X-71、主砲弾種通常、弾数3。射撃モード自動」
俺が射撃内容を確認し、以降、吉田少尉がモニターを見ながら指令室内に射撃試験状況を伝えていく。
「X-71、目標に対し回頭開始」
「回頭終了。主砲1番発射しました。続いて2番、3番。発射終了」
「……、着弾3分前、……、着弾30秒前、28、27、……、3、2、1、0。
目標の質量拡散確認!」
命中したらしい。
そして、着弾から5秒後、艦の光学観測装置が映し出した映像を確認した涼子が大きな声を出した。
「すごい! 全弾命中してる! いくら相手が公転しているだけの小惑星と言っても、この距離を修正射撃も何もない初撃で全弾命中とは。しかもほとんど着弾点がバラけてなかった」
同じ映像を見ていた俺もこれには驚いた。映像を戻して確認したところ、大型艦の砲戦距離と言われる120万キロを超える150万キロ先で3つの着弾点が直径10メートルの円の中に入っていた。
「村田艦長いかがでした?」
「ああ、いい線いってるな。調整なしで軸線砲が初撃から命中することはありえないからな。それくらいは俺でも分かる。しかも散布界が10メートルもない。山田技術大尉、それで一体どうやったんだ?」
「この艦の精密なデータをもとに艦の回頭特性、軸線誤差、砲身特性、砲弾の飛翔特性などを計算し、照準、発砲タイミングなどを調整しました。目標である小惑星についても公転軌道、公転周期、自転周期、自転軸などのデータは航路用データベースにありますので砲弾到着時の未来位置を正確に算出できます。相手が小惑星なら、公転軌道も自転周期も分かっていますから、先程の100倍でも問題ないと思います」
「100倍はさすがに冗談だろう」
「近い将来証明できると思います」
「分かった。良くはわからないが、そういうものだと言うことだけは分かった。100倍は今のところペンディングだがな。ようは、この艦の中央演算装置はただものじゃなくて、火器管制は任せておけばいいってことだな?」
「はい、そういったご理解で十分と思います」
「了解。
しかし、そこまで優秀な中央演算装置が艦の精密なデータもとに計算したってことは、この艦の秘密兵器の性能なんかも分かるんだな?」
「分かります。この艦は毎分主砲弾2発分の反物質生成能力を持っています。反物質を充てんした特殊砲弾は防御不能の砲弾でこの直撃に耐えうる戦闘艦はこの人類宇宙には存在しないだろうということも分かっています」
「そうか。
今の発言だけで山田技術大尉、君は憲兵に逮捕されて連行されているレベルの秘密情報をべらべら喋ったわけだぞ」
「それでは私を逮捕しますか?」
「あいにくこの艦には憲兵を兼ねる陸戦隊員は搭乗していない。フフ。それで、山田技術大尉、他に何か言いたいことがあるのだろう?」
「それでは、この艦の性能が射撃以外でも飛躍的に向上していることを証明させていただきます」
「うん? 先ほどの射撃でも相当な性能だと思うが」
「おそらく艦長が想像されるそのさらに上の性能をこの艦は持っていると思います」
「俺の想像の上とはよく言ったな」
「はい。この艦は短距離ジャンプを連続して行うことが出来ます」
「連続?」
「これまで、安定宙域外で短距離ジャンプを行った場合、ジャンプアウト後の周辺空間の
しかし今回この艦に積み込んだ中央演算装置は周辺状況の数値解析に時間はほとんど要しませんし、その際、ジャンプ後の艦周辺の擾乱を考慮した計算が可能ですので、こと計算という側面に関してこの艦はジャンプの制約を受けません。しかもこの艦は無駄に大型のコンデンサーと核融合ジェネレーターを多数積んでいますので短時間での連続ジャンプが可能です」
「この艦のコンデンサーとジェネレーターは無駄ではないと思うがな。大尉の言うジャンプの話が本当なら、この艦はコンデンサーとジェネレーターの能力から言って30秒に1回ジャンプ可能になるが、さすがにそれは冗談だろ? そんなことが出来たら、戦術が根本的に変わるぞ」
「それでは試してみますか? ちなみにこの艦に積み込んだ中央演算装置には名まえが有ります」
「それは?」
「試製事象蓋然性演算装置X-PC17」
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