第28話 玉の保護
皇宮警備隊本部はいずれの組織にも属さない独立機関であり、警備隊員は世襲を基本としている。警備隊本部長以下の全隊員は幼少時に遺伝子操作を受け、皇室に絶対の忠誠を誓っている。
クーデター
『玉の安全を図るため速やかな移動準備を願う。3時間後に玉の脱出用連絡艇を皇宮内発着場に降下させる』
とあった。
署名は、村田侯爵のものに間違いなかった。添付されたファイルには、航宙軍によるクーデター計画について詳細が示されており、航宙軍本部に乗っ取られた皇都防衛艦隊が皇都惑星を封鎖するため、クーデターの阻止はもはや不可能であると述べられていた。
この情報の真偽のほどは分からないが、警備隊本部では航宙軍本部周辺の様子がここ数日張りつめて普段と異なることには気づいていた。警備隊司令官は、救国の英雄と言われている村田侯爵に賭けることにし、玉体にその旨を上奏した。
そして、3時間後の指定時刻に降下して来た連絡艇に皇王とその家族全員を乗せることが出来た。
連絡艇は、皇都防衛軍
皇都惑星出雲の監視網をすり抜けた連絡艇が星系の天頂方向の指定された宙域、超空間ジャンプが惑星および周辺人工物に影響を与えないぎりぎりの距離に指定された宙域に到着後、5分ほどで
連絡艇はそのまま
一連の超空間ジャンプについては、当然星系内の広域探査システムで捉えられていたが、こちらも例のごとく記録される端から無難なデータに差し替えられている。
皇王ご一家を乗せた連絡艇は
「それじゃあ、われわれも、急いで皇王陛下にご
「艦長は侯爵閣下だからいいけど、わたしなんかが皇王さまにお目通り?していいんですか?」
「あたりまえだろう。吉田中尉はれっきとしたうちのうちの幹部だろう。しかも吉田伯爵家のご令嬢じゃないか。しっかりしろ。ここからのおまえの立ち回り次第では、おまえが吉田家を継ぐ可能性もあるんだからな」
「家は兄が継ぐことが決まってますから大丈夫です。でも分かりました。頑張ります」
「山田少佐もな」
「了解しました」
宇宙港のラウンジ内にある特別室で寛いでおられたのは、皇王ご夫婦と、皇太子殿下、皇女殿下の四名と侍女二名だ。
俺たちは三人とも航宙軍を示すワッペンを取り外した艦内用戦闘服を着たままだったが、艦内用戦闘服もれっきとした制服ではあるし、着替えに時間を取るよりこのままの方よいと判断して、戦闘服のまま陛下に拝謁することにした。
「陛下、ご無沙汰しておりました」
頷く陛下。
「とりあえずのお部屋をここ
「村田、よろしく頼む。
そして、そちは、吉田の娘であったの、大きくなったものだ。村田を支えてやってくれ。
そして、そちが、山田だったか。一度
「はは」「はい」「はい」
ここから先は、皇都から呼び寄せていたうちの使用人にまかせ、皇王一行を用意したスイートにお連れした。
皇王陛下に先ほどお伝えしたように、大きくはないが乙姫の開拓コロニー北に位置する丘の上に、現在新皇居を建設中だ。建屋の方はほぼ出来上がっているが、内装がやや遅れている。ほとんど全て、宇宙船での取り寄せになるため、竣工までにあと二週間はかかるという。この二週間、皇王は
皇居が完成し、皇王陛下が新皇居に移られれば、文字通り乙姫が皇国の新首都となる。
皇居の丘のふもとにはすでに中央研究所の出先研究所が一部出来上がっており、研究員も着任し、各々の実験・研究を始めている。この研究所は現在も工事中で出先研究所とは言っているが、最終的には、皇都惑星出雲の中央研究所が完全移転してくる予定である。また、今後皇国を運営するための官僚団が使う庁舎や官舎も建設中だ。
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