第27話 クーデター


 大華連邦が自領の反乱惑星に対し惑星破壊兵器『五芒星』を使用したころ。



 皇国内では、航宙軍、特に航宙軍本部に対する世論の悪化はとどまることを知らず、航宙軍本部上層部の罷免ひめんを求める声が日増しに強くなってきており、皇国政府も皇国民の声を無視できない状況になってきていた。


 そういった状況を一挙にくつがえすべく航宙軍本部が自前の航宙軍特殊戦部隊を使った暴挙に出ようとしていた。武力による政変、クーデターである。


 航宙軍特殊戦部隊は表向き航宙軍の中から選びぬかれた精鋭で構成された部隊だが、実態は化学的処理により身体能力を強化された上に航宙軍本部に対する忠誠を条件つけされた兵士からなる部隊である。


 航宙軍本部の上層部は憲法を停止したうえ、現内閣を総辞職させ航宙軍主導のもとあらたな内閣を組閣するためクーデターを起こした。クーデターを成功させるためには、皇都防衛軍の無力化と皇王の身柄の確保が絶対条件となる。


 皇都防衛軍は皇都防衛艦隊と地上軍からなる独立組織だ。したがって皇都防衛艦隊の指揮権は航宙軍にはない。皇都防衛艦隊は低速ではあるが惑星防衛には十分な能力を持つ複数の旧式戦艦とその他艦艇、大型の戦闘惑星、多数の戦闘衛星を保有し、さらに静止衛星上の軌道エレベータープラットフォーム上の防衛システムも保有している。航宙軍本部の判断、命令だけで自由に動かすことができる地方艦隊でどうこうできるような戦力ではなかった。


 航宙軍本部は、皇都防衛軍から皇都防衛艦隊の指揮権を取り上げるため、かねてより防衛軍内部に潜入させていた工作員に皇都防衛軍司令長官を暗殺させ、その混乱に乗じて、航宙軍特殊戦部隊を使い防衛軍の主要指揮官たちを次々逮捕していった。これにより航宙軍は皇都防衛艦隊の実質的な指揮権を掌握しょうあくしてしまった。


 航宙軍本部の隷下れいかに組み込まれることを免れた一部の防衛軍部隊は航宙軍部隊に対し抗戦の構えを見せたが、航宙軍に組み込まれた皇都防衛艦隊の戦闘艦が出雲上空の衛星軌道を周回し、威圧のため、大洋上の無人島を艦砲により文字通り吹き飛ばしたことで、残存皇都防衛軍部隊および、陸戦隊留守部隊は航宙軍本部に降伏した。それに前後して、初動で逮捕を逃れていた閣僚、高級官僚、有力議員たちも航宙軍本部により次々逮捕されていった。



 最終局面、最後の仕上げとして、皇王の身柄を確保するため航宙軍特殊戦部隊員400名が皇宮こうきゅうに突入した。皇王の身柄を確保するためには皇室に遺伝子レベルで絶対忠誠を誓う皇宮警備隊を全員・・排除する必要があるため、40パーセント以上の人員損耗をもとより見越したうえでの強行作戦だったのだが、蓋を開けてみれば皇宮警備隊との戦闘は発生せず、人員損耗もなかった。その代り、玉である皇王一家の所在は不明で、皇王保護作戦は完全に失敗した。


 皇王の行方について意志の力だけで自死することが可能であるといわれている皇宮警備隊員への拷問や薬物を使った聞き取りは無意味であり、皇宮警備隊員の自死が国民に露見した場合反発が必至であるため、聞き取りなどは行われていない。


 航宙軍特殊戦部隊による、その他の作戦は見事に成功している中での大失態だった。


 皇王不在では、憲法を停止中とはいえ、組閣の大命を得ることはできない。また、地方の防衛艦隊を除く正規艦隊への命令は皇王の裁可を要するため正規艦隊の運用が不可能となる。


 組閣については、航宙軍はニセの『大命』を作成し、クーデターの首謀者、先の北条直道大将の予備役編入に伴う後継人事で航宙軍本部次長に昇格した月島周作大将を首班とする月島内閣が組閣された。このとき、予備役に編入されていた盟友北条直道大将を現役復帰させ、解任した皇族出身の航宙軍本部長の代わりに本部長に就かせている。


 正規艦隊に対する命令についても同様の手段で発令するつもりである。



 今は名目上の正規軍となった反乱軍は、玉を取り逃がしたことが判明した後は、迅速に対応し艦艇により速やかに輝玉星系内の安定宙域を封鎖している。


 いったん取り逃がした玉ではあるが、安定宙域を中心に星系を厳重に封鎖している以上、玉が星系外に脱出する可能性は極めて低いため、いずれ星系内で玉を保護できるものと航宙軍本部では楽観視していた。




 航宙軍本部がクーデターを起こした時点で、皇国12家のうち皇都に居を構えていたのは、北条家と北条家に近い月島家と工藤家、それに村田家と村田家に近い吉田家の5家だが、村田家と吉田家はなんやかやと難癖をつけられ資産を没収された。


 また、吉田家の当主と嫡子に対しては逮捕状が出されたが、たまたま・・・・二人とも別の星系に急用ができ不在だったため逮捕から逃れている。涼子の父と兄である。村田家うちの場合、いちおう皇国の国民的英雄である俺には逮捕状は出されていなかった。


 俺の方の資産関係について言えば、すでに皇都惑星内の資産は全て売却済で、流動資産についても退避済みだったのは言うまでもない。吉田家については、流動資産のみ退避が間に合った。本当は、村田家同様全て事前に処分できたのではと思うが、ワンセブンはこれについては言及していない。ある程度の金は俺が吉田家に融資することになるとは思うが、それがワンセブンの目論見だった可能性が高い。



 これまで、大華連邦の侵入艦隊を追って皇国内を無駄に転戦していた第3艦隊だったが、皇都での変事が発生した時、なぜか訓練・・指示を受け補給物資を満載にして出航中だった。また、陸戦隊が保有する強襲揚陸艦二隻は陸戦隊員を定員の各1個連隊2000名乗艦させたうえ第3艦隊に同行していた。


 その陸戦隊の強襲揚陸艦二隻(うち一隻には臨時陸戦隊総司令部が置かれている)は、クーデター初期の段階から皇都防衛軍からの緊急信を受けており、航宙軍本部からの、輝玉星系への帰投命令を無視し、ぎょくを保護したとする村田侯爵からの署名付き通信を得た第3艦隊とともに皇国中央星域から離脱し竜宮星系に向かった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る