第19話 第2次開拓団


 大型貨客船が、乙姫の静止衛星軌道上で停止し、救命艇兼用の十数隻の大型連絡艇を使い、第2次開拓団員5000名と彼らの身の回りの荷物を乙姫の中央宇宙港という名の台地の上の草原に降ろした。もちろん中央宇宙港の他に宇宙港は乙姫には存在しない。


 その貨客船は連絡艇を回収したのち、間を置かず乙姫の静止衛星軌道から離脱した。その後貨客船は、人工惑星URASIMAウラシマに一度寄港して、さまざまな荷物を降ろし、安定宙域から次の目的地にジャンプしていった。




 今回の第2次開拓団員の第一陣の5000人は独身の男女と、家族はあるが、単身での入植者で占められており、家族のある入植者はこの乙姫での生活の基盤ができ次第家族を呼び寄せる手はずになっている。家族のある者が家族全員を呼び寄せた場合、あと一万人ほど人口が増える勘定である。


 到着した新開拓団員たちを迎えるため、中央宇宙港周辺には、大型トラクターにけん引された陸送用多目的多輪車両が多数待機している。



 大型連絡艇からキャリーバッグ1つを引いて乙姫の雑草の生えた大地に初めて立ったニューカマーたちは、一様に今回この開拓団に参加した自分の判断に疑問に持つことになるのだが、200メートルほど進んで後ろを振り返れば、自分たちが先ほどまで乗っていた連絡艇は雲一つない青空に向かって離陸するところだった。


「第2次開拓団員のみなさまは、順次、陸送車にお乗りください。車両には限りがありますので詰め合わせ願います」


 マイクを持った市長秘書の伊藤清美いとうきよみが、ニューカマーたちを案内していく。定員となった車両が一両、また一両と出発し、やがて宇宙港には誰もいなくなった。


 最後まで宇宙港に残っていた彼女も市役所の車に乗り込み、新開拓団員の歓迎会会場に急ぐのだった。



 宇宙港のある台地から陸送車で30分ほどいくと、ゆるやかに流れる河の河口付近に建設された開拓団コロニーが見えて来る。


 市長である西田幾一郎にしだきいちろうの活躍により、整地のあとの簡易住宅の設置作業もなんとか終わり、ぎりぎりではあるが歓迎会場の整備も今日の式に間に合わせることが出来た。



 陸送車から降りたニューカマーたちが歓迎会場にぞろぞろと移動すると、そこには簡易テーブルが並べられており、テーブル上には各種の料理類が文字通り大量に並べられていた。食料は豊富にあると、パンフレットに記載されていたが偽りではなかったようだ。パンフレットが正確でなかったところは、ニューカマーたちにとってはすぐに現実として理解できることだが、食料だけ・・は豊富にあると記載されていなかったところである。



 会場に並べられた各テーブルには料理と一緒に数本の瓶ビールが置いてあったが、ビールを含めてもアルコール類の数は少ないようだった。これは、いまのところコロニーに醸造施設がないため、すべての飲料用アルコール類は輸入に頼っているため仕方のないことである。



 会場の正面は一段高くなったステージになっており、ステージの真ん中で30代に見える男、西田幾一郎にしだきいちろうがマイクに向かって挨拶あいさつしている。きょうはTシャツ姿ではなくちゃんとしたスーツ姿をしているが、ニューカマーたちにはそれがいかに珍しいことなのかはわかっていない。


「……、と言うことです。それでは、みなさん、明日からは力を合わせてこの乙姫を発展させていきましょう。乾杯!」


 会場内では、西田市長のあいさつに対して、パチパチパチとまばらな拍手が起こった。見回すと拍手をしている人物は市役所の職員のようで、身内だけの拍手だったようだ。


 二次開拓団員たちが適当に料理をつまんでいると、一瞬影が差した。見上げると、上空から小型連絡艇が降下しているところだった。連絡艇は会場広場の先の空き地に着陸し、ハッチを開けた。ハッチの中から航宙軍の制服を着た男とそれに続いて陸戦隊の制服を着た4名の大柄な男たちが中から出て来た。その五人がステージの方に向かって歩いて来る。すぐに市の係りの者が走り寄っていき、何事か先頭の男と一言二言会話したとたん、係りの者があわてて先ほど演説した西田市長の元に走っていき、そこでなにやら報告したようだ。今度は、西田市長がステージに再び登壇し、マイクに向かって、


「みなさん、大変です。この乙姫を救ったあの英雄、村田侯爵閣下がみなさんの門出を祝うため、この会場にいらっしゃいました。みなさん、拍手でお迎えください!」


 会場が一瞬静まり返った後、


 ウワォーーーー!


 会場が割れんばかりの歓声と、拍手で埋め尽くされた。


 ステージに上がって来たのはもちろん先ほど連絡艇から最初に出て来た男だった。


「ただいまご紹介にあずかりました村田です。みなさんが、きょう乙姫に降り立ち、新たな開拓戦士としてスタートされるということを聞きつけ激励のためにやってきました。

 職員の皆さん、申し訳ありませんが、私の乗って来た連絡艇の隣に貨物用の連絡艇が着陸しますから、中の荷物を手分けして会場に運んでください。荷物の中身は、ここでは手に入りにくそうな酒精が入っています」


 ここでまた、ウワォーーーー! 会場が再度割れんばかりの歓声と、拍手で埋め尽くされた。


 その騒ぎの中、また影が会場を横切った。見上げると貨物用の小型連絡艇が先ほどの連絡艇の隣に向かって着陸体勢を取っていた。


「それと、もう一つ。皆さんにお約束します。私の家、村田家がこの開拓惑星乙姫を全面的に支援してまいります」


 ここでまた、歓声と拍手が巻き起こった。それが静まるのを待ち、


「もちろん、打算があっての援助です」


 このことばで、場内が一気に静かになった。


「わが村田家はこの開拓惑星乙姫を新たな拠点と定め発展させると決めたからです。週末には軌道エレベーターの起工式も控えており、これからこの乙姫は一気に発展することと思います。また、これから先みなさんがビックリする・・・・・・ようなことが起こるでしょうが、誇りを持って乙姫を発展させていきましょう」


 最後は会場から大歓声が上がり、その歓声の中を連絡艇からやって来た男は壇上から降りた。


 会場のあちこちで、


「村田侯爵バンザーイ!」「乙姫バンザーイ!」と声が上がった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る