第16話 村田単艦艦隊、TUKUBA出撃、撃滅戦。


『今回は戦略的に容赦する必要はありません。完全撃破を目指します。再度の竜宮星域への侵攻を当分の間・・・・諦めさせると同時に情報を持ち帰らせないため、今回は一人も生きて返しません。村田艦隊としての伝説を作りましょう』


 もし俺がワンセブンにこれを言われたらチビってしまう自信がある。有言実行。これまで、ワンセブンが言ったことで実現しなかったことはただの一度もない。



『安定宙域SS06にジャンプアウト反応。……。現在総数、29。増加ありません』


『それでは皇都の航宙軍本部への緊急救援要請を発信します。航宙軍本部はこちらの電文を無視しますから、同じ電文をメディアにも流します。前回は直接は行いませんでしたが、乙姫行政府に対して敵性艦隊の竜宮星系への侵入を知らせ、さらに避難勧告を出しておきます』


「乙姫行政府に知らせる必要があるのか?」


『認識した危機から脱出できれば、何も知らぬ間に危機を脱するより感動が増すと思います。それによりわが方と乙姫側との関係がよりよいものとなります』


「なるほど」


『完全撃破後、大々的に戦果を中央メディアへ発表することは手順通り準備完了しています』


「航宙軍は前回同様何もできないまま、世間様から批判を受ける訳か。気の毒なことだ、フフフ、ハハハ」


「艦長、艦長には悪い笑顔が似合ってますよね」これで二度目の実戦で、肩の力も抜けた吉田中尉が冗談を言った。彼女も、そのうちベテランに育っていくんだろうな。いや、いちおう実戦経験してるからすでにベテランか。


『光学観測により敵戦力詳細判明しました。

 巡洋戦艦2、重巡洋艦4、軽巡洋艦4、駆逐艦16、補給艦2、雑役艦1』



TUKUBAツクバ、作戦行動開始します』


「全艦、火器使用自由。ワンセブン、頼んだぞ」


『了解。全力で敵を撃滅します』


『1番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……、充填完了。照準良し』


『短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』


 主砲の発射準備と、ジャンプの秒読みがワンセブンから重なってアナウンスされる。


 艦の軸線は何もない方向を向いているが、ジャンプアウトした先では敵艦を正面に捉えているのだろう。



『第1射、1番発射』


『2番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……、充填完了。照準良し』


 反物質の充填中に艦がわずかに回頭して照準を修正しているようだ。


『短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』


『第2射、2番発射』



『3番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……、充填完了。照準良し』


『短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』


『第3射、3番発射』


『1番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……、充填完了。照準良し』


『短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』


『第2射、着弾。質量拡散確認、敵巡洋戦艦、撃破しました』


『第4射、1番発射』


『第1射、着弾。質量拡散確認、敵巡洋戦艦、撃破しました』


 ……


 問題の第7射目で事故が起こることもなく、ベルトコンベアー式に敵艦が爆沈していく。やたらと周囲にばら撒かれた近接防御用砲弾で敵艦隊内では同士討ちも始まっているようだ。同士討ちで機関の停止した艦に対しても容赦なくTUKUBAツクバから特殊砲弾が発射され、特殊砲弾が命中した艦は真っ白い閃光を発して粉々に吹き飛んでいく。



 安定宙域SS06近くでの殲滅戦が粗方あらかた片付いたころ、広域探査網が安定宙域SS01にジャンプアウトによる質量反応を捉えた。



『安定宙域SS01にジャンプアウト反応。総数、15』


『光学観測結果出ました。敵戦力の内訳は、強襲揚陸艦2、軽巡洋艦2、駆逐艦8、補給艦2、雑役艦1。これらを敵第二艦隊と命名し、これより、敵第二艦隊を殲滅します』


 短距離ジャンプにより、射点まで跳んだTUKUBAツクバから特殊砲弾が発射され、再度短距離ジャンプで射点を変えたTUKUBAツクバから特殊砲弾が発射される。


 TUKUBAツクバから発射された特殊砲弾はただ1発も外れることなく敵艦に吸い込まれていき、敵艦は閃光を発して爆沈していく。




 敵の残存艦がさきほどジャンプアウトしたばかりの安定宙域を目指し反転を始めた。もはや敵艦隊には戦意は残っていないようだ。


『こちら、ユーグ艦隊司令官代理・・。皇国航宙軍司令官に対しわが艦隊の降伏を申し入れる』


「艦長、敵艦隊が降伏を申し入れています。発砲停止しましょう」


 吉田中尉があわてて俺に注意なのか進言なのか言ってきた。


「通信を切れ。われわれは皇国航宙軍ではない。このまま敵を殲滅する」


「艦長!」


「中尉、指示に従え」


「うっ」


 そういったやりとりのあいだにも、ワンセブンによって敵艦が爆沈していく。


『2番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……、充填完了。照準良し』


『短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』


『第44射、2番発射』


『第43射、着弾。質量拡散確認、敵小型艦、撃破しました』


 ……


『第44射、着弾。質量拡散確認、敵小型艦、撃破しました』


『戦闘終了。敵艦隊殲滅しました』


『戦果集計、

 撃沈、総数44。内訳は、強襲揚陸艦2、巡洋戦艦2、重巡洋艦4、軽巡洋艦6、駆逐艦24、補給艦4、雑役艦2』


『消費特殊砲弾数44。残26』



 命中率100パーセント。すべて一撃か。結局SS01、SS06に設置したホーミング機雷は活性化せずに済んだ。




「ワンセブン、おまえが『森羅万象を司る』と言っても頷くよりほかはないな。ところで、ワンセブン。今回の一連の大立ち回りの間にもちゃんと儲けてくれているんだろ?」


『もちろんです。抜かりなどありえません。

 ホーミング機雷の回収と、撃破した敵艦船の残骸の回収及び破片デブリの清掃のため、業者の手配は終わっています。残骸の中に生き残った中央演算装置があれば、ある程度情報が得られますが、目新しい情報は期待できない上、まず生き残ってはいないでしょう』


 確かに抜かりはないようだ。

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