第8話 駐留艦隊


 ワンセブンとの個人的・・・会話を終えた俺は、


「予定にはなかったがいろいろ有益な試験を行うことができた。

 本艦はこれよりURASIMAウラシマに帰投する」


 俺はたった2名の部下に対して宣言し、艦をURASIMAウラシマへ向けた。


 そういえば、ワンセブンも俺の部下と思えばいいのか?




「X-71、停止」


「X-71、停止。係留索接続完了」


「係留機まで距離20、15、10、5、着岸しました」


 X-71が係留機によって桟橋に固定された。


「本日のX-71の性能試験はこれにて終了する。山田大尉、吉田少尉、お疲れさん」


「「お疲れさまでした」」


 こうして俺たちはX-71から下艦した。




 俺たちは揃って実験部の事務所に戻り、


「性能試験については思わぬことになってしまったが試験結果の確認とまとめは明日でいいだろう。今日はこれから山田大尉の歓迎会を将校クラブで行おうと思うがどうだ?」


「ありがとうございます」


「わーい。お酒だ、ただ酒だ!」


「涼子、お前、ただ酒とか言っているが、いままで一度だって金を払ったことなんてないだろ?」


「えっ!? そうでしたっけ?」


「別に構わないけどな。

 各自戦闘服から制服に着替えたらこの部屋にいったん集合」


了解りょうかーい」「了解しました」




 実験部の制服は、航宙軍の制服に実験部を表す水色のリボン型ブルーリボンバッジが襟元に付いているだけのものだが、それだけでも簡単に所属を判断することはできる。


 制服に着替えたわれわれ3人はURASIMAウラシマ内に設けられている将校クラブに向かった。


 将校クラブは、少尉以上の軍人が低料金で利用できるレストランのようなものだが、少尉、中尉といったいわばぺーぺーにとって将校クラブの敷居はやや高いのも事実である。とはいえ、ここURASIMAウラシマでは将校クラブくらいしかまともな・・・・食事にありつけるところがないのも事実だ。


 現在、このURASIMAウラシマで最も階級の高い将官はURASIMAウラシマの基地司令官も兼ねる駐留艦隊司令官の瓜田うりた少将で、大佐は不在のため、中佐がその次に来る。URASIMAウラシマにいる中佐は、駐留艦隊の旗艦、軽巡香取かとりの中島艦長と俺の二人しかいない。中島艦長は航宙軍兵学校では俺の一期下で、中佐任官も俺の方が1年先なので俺の方が先任ということになる。まあ、兵科から技術部に飛び出した俺にとって兵科での先任とかあまり関係はないがな。少佐となると5、6人といったところか。


 軽巡香取は軽巡としては珍しく、航続距離が長く居住性が高い艦だが、その分火力は低く、同様に加速性能も低い。そのため旗艦として隷下の6隻の駆逐艦の先頭に立って敵艦に突っ込んでいくことは難しい。この6隻の駆逐艦も一世代前から二世代前の駆逐艦のため、機動力を含めた加速性能が一線級の駆逐艦と比べるとかなり劣り、敵艦に肉迫時に撃破される可能性が高い。


 要するに、このURASIMAウラシマに駐留する第44艦隊は二線級、またはそれ以下の戦力しか持たない地方艦隊で、航宙軍は辺境の開拓地もちゃんと防衛しています。と、申し訳に置いている艦隊に過ぎない。


 したがって、巡洋戦艦2隻とその他多数の戦闘艦を抱える敵戦力に対して第44艦隊が対抗することは自殺するようなものだと考えるまでもなく簡単に結論できる。



「実験部は気楽でいいよな。別に訓練するわけでも、長期の艦隊勤務もあるわけじゃない」


「女性隊員と適当に船で遊んでいればいいんだろ? いいご身分だ」


「俺たちみたいに命を張ってるわけじゃないから、顔も緩いよな」


「このURASIMAウラシマにいる実験部の連中は中央から左遷された連中らしいぜ」



 ビールを最初に頼み山田大尉の着任を祝って乾杯したあと、適当に料理のメニューを眺めていたら、駐留艦隊の将校らしき連中がこちらのテーブルをチラチラ見ながら話をしている。


 これみよがしの陰口は、ただのイヤミなんだがな。左遷については君らのことだと思うぞ。少なくとも、俺はこの星系に自分の意志で来ているんだがな。しかも、俺は今でこそ実験部にいるが、艦隊指揮過程を終えているし第1艦隊の駆逐艦長として艦隊勤務も勤めあげてきた艦隊士官だったんだぞ。軍外での身分は言わずもがな。ここに古くからいる連中ならだれでも知っていることだから、そこでイヤミを言っている連中は最近配属されたのだろう。


 どうも、実戦部隊の中にはここにいる連中に限らず、支援部隊などに対して無意味な優越感を抱いている者が多いようだ。



 頼んだ料理がやって来たので、食べながらうちの二人と雑談をしていたら、珍しいことに、駐留艦隊の旗艦、軽巡香取の中島艦長が将校クラブに部下の将校数名を連れて入って来た。それを見て、先ほどまでわれわれにイヤミを言っていた連中があわてて立ち上がり敬礼をしていた。

 それに軽く答礼をした中島艦長が、俺の方にやってきて、


「これは、村田中佐、お久しぶりです」


「ああ、久しぶり。きょうは、うちに新たなメンバーが加わったので歓迎会をしてるところだ」


「ほう。そちらの女性ですな」


 山田大尉が席から立ち上がろうとしたところを中島中佐が手で制し、


「座ったままで失礼します。

 山田技術大尉です。よろしくお願いします」


「軽巡香取の艦長の中島です。こちらこそよそしく」


 お互いの挨拶が終わったので、俺が中島中佐に、


「最近艦隊の方は訓練をあまりしてないように見えるが? 練度の方は維持できているのか?」


「ここだけの話しですが、うちの新しい司令官閣下がそういったことにあまり熱心な方ではないため、艦はここに係留したまま、もっぱらシミュレーターで訓練しているんです。練度については、実際にフネに乗っていない以上、下がってはいないかもしれませんが、上がってはいないでしょう。

 そういえば、村田中佐の実験艦、今日は性能試験をしたんでしょう? どうでした?」


「いやあ、最高だったぞ」


「それはそれは。艦隊当時、鬼の村田とまで言われて上からも一目も二目も置かれていた村田中佐も実験部になじんで結構なことです」


 俺と、香取の中島艦長が親しく会話しているうえに、明らかに中島艦長の方が俺に対してへりくだっているところを目にしたさっきの連中が黙り込んで嫌な汗をかいている。俺はバカ者には興味はないが、おそらく香取の中島艦長は耳がいいから、そのうち連中のことを耳にするだろう。おかわいそうに。



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