☆☆☆エンドレスロールEX:慚愧の御影石

 エンドレスロール 大仏殿・地下

「……」

 ハチドリが昏い縦穴を延々と落下していき、地下の広間に辿り着いて着地する。壁面には無数の仏像が彫られており、空間を支える梁ごと燃え上がっていた。

「ここは……」

 ハチドリが周囲を確認すると、暗がりから忍装束の竜人が現れる。

「何用だ」

「……」

 脇差を抜くと、竜人は左目を見開く。何かしらの呪術の類の力を発しているようだが、ハチドリには微塵も効いていない。

「お前が噂に聞く、怨愛の修羅とやらか。確か名は……」

「ハチドリ」

「我が名はシラヌイ。九竜・飲呑と合一し、力を得た……日の本の王である。もう一度聞こう、何の用でここに来た」

「あなたを討つ」

「だろうな」

 不知火も刀を抜き、両者は共に構える。

「ならばお前が死ね。我らは運命を支配し、奪われた人生をこの手に取り戻す」

 互いに姿が見えぬほどの速度で足を踏み込んで刃を交え、一太刀で離れて空中に飛び出る。

「(速い……)」

「俺の速度についてこられるとはな」

 不知火は眼力を強め、眩い蒼光が放たれる。

「(眼球そのものを純シフルエネルギーに変えられている……?)」

 蒼光を纏い、不知火は空中を蹴って飛び込み、着地するハチドリ目掛けて抉るように刀を振る。ハチドリは火薬となって頭上へ逃げ、脇差を振り下ろしつつ着地するが、不知火も同じように直上へ高く飛び上がり、突き立てて急降下してくる。分身を盾に後退すると、刀を更に深く地面に突き立てて爆発させて後隙を潰し、逆手に持ちながら一気に後退し、ハチドリが飛ばしてきた炎の刃に的確に当てて相殺しつつ、順手に戻して急接近しながら薙ぎ払い、ハチドリは脇差を異形の刀に変えて弾き、同じように反撃で薙ぎ払って踏み込み飛び出し、不知火の肩を強く踏み飛ばして飛び退き、離れてから蒼い太刀に持ち替え、地面に突き刺してから怨愛の炎を滾らせ、地面を斬り裂きながら振り抜いて熱波を飛ばす。不知火は一歩で瞬間移動して熱波を躱しながら踏み込み薙ぎ払い、刃渡りよりも巨大な斬撃を起こし、左手に蒼い炎を起こしてそれをハチドリへ飛ばす。ハチドリは斬撃を軽く流しながら炎を弾くが、炎はそのまま刀身に纏わりつき、自力で速度を確保してハチドリから太刀を奪い取る。

「なるほど」

 不知火が刀を突き出し、空間を突き破りながら突進してくるが、ハチドリはくすねられた蒼い太刀を瞬時に手元に戻して弾き返して不知火をよろけさせ、その場で前方へ一回転して踵落としを脳天に極め、着地した瞬間に周囲の空間を歪めて動作の隙を潰し、流れるような連撃から舞うような連撃を叩き込み、更に不知火を踏み台に飛び上がり、舞うような連撃を再び繰り出さんとする。不知火はその一瞬で構え直し、淵源の蒼光で刀身を増強し、舞うような連撃の初段に強烈な一撃を合わせて弾きつつ、豪快な連撃を叩き込みながらサマーソルトキックで飛び上がり、全身を使って刀を振り下ろしてハチドリを押し込む。

「どうやらお前は、俺の想像を絶するほどの強者のようだな」

 不知火が刀を振り払うと、元の刀身が崩れ落ち、ルナリスフィリアが姿を現す。

「ルナリスフィリア……?」

「お前の墓場はここだ、ハチドリ。はじまりの力、とくと見るが良い!」

 不知火の身体が光り輝き、鎧にソムニウムの竜人形態を思わせる装甲が追加される。短い力みから左手を突き出し、莫大な冷気を二連射する。ハチドリが躱すと、元いた場所で冷気が炸裂し、巨大な氷柱となって地面に突き刺さる。不知火が飛び上がり、瞬間移動でハチドリの頭上に合わせ、雷霆となって目にも止まらぬ速度で着地し、着地とともに電撃を撒き散らす。ハチドリもまた同じように直上に飛び上がり、今度は左拳を燃焼させながら殴り下ろして急降下し、不知火は躱すが巨大な火柱を立てて追撃を妨げつつ、刀身に怨愛の炎を宿した脇差で突進し、不知火は自身を無明の闇へと変えて躱し、翻って猛進してくるハチドリへ向き直る形で身体を再生し、左手で地面を削りながら振り上げ、扇状に光の柱を次々と起こしてハチドリの速度を遅めつつ、刀身に炎を宿し、薙ぎ払いからの返しで迎え撃つ。ハチドリは光の柱の波を粉砕しながら、あちらの二連斬りにこちらの二連斬りを合わせて相殺しつつ、踏み込みながらの左拳で鼻面を撃ち抜いて爆発させ、吹き飛ばす。不知火は派手に地面を転がりながらも姿勢を整え、飛び上がって中空に浮遊し、部屋の奥から横向きの竜巻を起こし、ハチドリを巻き上げる。不知火は刀身に電撃を宿して振り抜くことで撃ち出し、その動作に合わせて大量の水球を飛ばす。ハチドリは空中を泳ぎながら電撃を器用に脇差で受け止め、そのまま帯電させて水球を避け、火薬となって前進しながら電撃を解放して撃ち返す。しかし既に不知火は動きを再開しており、電撃を軽く躱しながらルナリスフィリアを振り、ハチドリの周囲の次元門を開き、純シフルの激流を解放して飲み込もうとする。だがハチドリも脇差を異形の刀へと変え、開いた次元門を強引に斬り閉じながら不知火の周囲に斬閃を設置していく。接近に合わせて自律的に斬閃が起動して不知火の動きを乱しながら、ハチドリは斬撃を飛ばしながら接近していく。不知火は動きを止め、ひときわ強く力んでから左手を突き出し、小さな雫を手放す。それは少し進んでから解け、圧倒的な音波を解き放つ。斬閃と斬撃を緩ませ分解し、しかし意に介さず接近しきったハチドリが異形の刀を一閃して竜巻ごと斬り伏せ、空間が元に戻って両者が着地する。

「……」

「その埒外の強さ……決して波立たぬ心……恐ろしいまでの耐久力……やはり怨愛の修羅とは、理外にある怪物らしいな……!」

 突如、地鳴りが起こり始める。

「俺たちの戦いに、この場所の方が耐えられんらしい」

「ならば……」

「ああ……」

 再び二人は構え、瞬間移動で飛び出す。ルナリスフィリアに真炎が宿り、異形の刀と擦れ違いながら切っ先を削り合い、両者振り向き、続く異形の刀の振り上げで凌がれ、上段からの振り下ろしを受け止める。ハチドリが力を込め直した瞬間に不知火は闇となって消え、背後を取って背を狙わんとする。ハチドリは振り下ろした異形の刀を左手に移し、背に合わせて往なしながら振り向き、不知火の胴体を袈裟斬って手元から異形の刀を消し、左拳を握り締めて顎を撃ち抜き、打面を爆発させて吹き飛ばす。

「まだだ!」

 不知火は空中で自身の制御を取り戻し、一際強く左目を輝かせ、ハチドリの身体の支配権を奪い取らんと力を注ぎ込む。それに応えるようにハチドリは掲げた左拳を開き、両者は左掌を向け合い、意思を注ぎ込んで競り合う。

「私を戒めるなんてことは……誰にも……旦那様にすら……出来はしない!」

「くっ……!」

 ハチドリが不知火の身体の支配権を奪い取り、遠隔で地面に叩きつける。互いに消耗し、けれど不知火は直ぐ様体勢を立て直して自身の制御を回復し、突っ込んでくるハチドリへ身構え、同じように突進し、同時に抜刀して擦れ違う。

「……ッ」

「御免」

 不知火がルナリスフィリアを取り落とし、膝をついて崩れる。ハチドリが血振るいから納刀し、甲高いその音が幕引きのごとく、不知火は後ろに斃れる。

「……」

 ハチドリは不知火の傍まで寄り、膝を折りきって屈み込む。

「俺は……未来を……掴んだ……」

「ええ。あなたは確かに、未来を掴んだ。その礎となった。けれど、それはこの未来ではない」

「お前は……どうだ……?」

「私は……未来を、放棄した」

「愚かな……女だ……」

 不知火は左手で自身の顔に触れ、左目を抉り出す。淵源の蒼光で作られた真玉のようなそれは、間もなく纏った血を消滅させる。

「だが……それ故に、唯一人で、進み続けられるのだろう」

 左手を伸ばし差し出された目玉を、ハチドリは受け取る。

「玄海……俺は……」

 不知火は灰となって消えた。

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