与太話:ポッキーゲーム
エラン・ヴィタール 屋敷・執務室
「……最近は特に面倒なことも起きないから平和だな」
バロンがデスクチェアに背中を預けて呟くと、横で目を伏せて佇んでいたシマエナガが返す。
「面倒を起こしましょうか?例えば、マスターから一日中構ってもらえる権を懸けてゲーム大会とか」
「……やめろ。僕はお前たちの喧嘩が見たいわけじゃない。というよりも……僕に構ってもらえるだけでいいのか?随分と僕に有利だが」
「他人の一日を自分のために浪費させられるなんて、素敵ではないですか、マスター?」
「……なるほど。好きにするよりも構ってもらう方が負担が大きそうだ」
と、そこで執務室の扉が勢いよく開かれ、ハチドリが現れる。
「旦那様!」
バロンはやや身体を起こし、そちらへ視線を向ける。
「……どうした」
「メイヴ殿と奥様に聞いたのですが、今日はなんでも恋人と親睦を深める日だとか!」
「……今日……十一月十一日か……」
「このお菓子を持って旦那様に会いに行けばいいと言われたのですが……何をすればいいのでしょう?一緒に食べるんですか?」
ハチドリは右手に四角の小さな紙箱を持っており、そしてデスクまで駆け寄ってくる。
「……取り敢えず……どこまで聞いた?」
バロンはハチドリから紙箱を受け取り、中からプラ包装を一つ取り出して開ける。
「これを持っていけば旦那様と仲良くなれると聞きました!」
「……そうか」
バロンはシマエナガからの刺すような視線を感じつつも、包装からチョコがけされた細長いビスケットを一本取り出す。手で促され、ハチドリはバロンの傍まで来る。
「あーんとか、そういうことですかね?」
「……咥えてくれ」
言われるままにハチドリがビスケットを咥えると、バロンは少々申し訳無さそうな表情でビスケットの反対の端を咥える。
「!?」
ハチドリは一瞬驚いて目を丸くするが、すぐに察したのか柔らかな表情に戻る。バロンが様子を見るようにややゆっくりと食べて距離を縮めていくが、ハチドリは迷いなくガブガブと進んでいき、そのまま口づけて、身体を預けるように抱きつく。少し噛みつくようにした後、バロンがハチドリを優しく引き離す。
「もぐもぐ……なるほど、これは仲良くなれますね!ちょっと恥ずかしいですけど……」
「……その割には勢いよく来たが」
「えへへ、何するかわかっちゃったら我慢できませんでした!」
「……まあ、君が楽しかったのならそれでいいが」
ハチドリはデスクの上にある包装を掴み、中を見る。
「えーっと、一、二、三……」
「……待て」
「十六本……ですね!旦那様!」
「……まさか……全部こうして食べる気か?」
「二袋ありますから、まだまだたくさんできますね!」
「……たまにはいいか……」
みっちり二袋分啄み合う二人を、シマエナガは殺気を隠さずに眺めていたのだった。
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