番外編：十万億土

☆☆☆エンドレスロールＥＸ：浮かぶ蒼月、彷徨う澱み

　エンドレスロール　深淵王龍結界・月の落涙

　無限の暗黒が空を覆い尽くし、地表は淵源の蒼光に満ち満ちた空間。そこに、双刀のハチドリが現れる。

　視線の先には、丘陵のように盛り上がった地面があり、間もなくそれが鋭利な五本の爪に突き破られる。膿のように粘ついた液体が漏れ出し、もう五本の爪が現れ、抉じ開けて、蒼昏く澱み透けた、龍の姿のジーヴァが現れる。糸を引いて粘ついた翼を強引に開き、天を仰いで吠える。

【修羅……ではないな。だが……王座に就き、創世を成した貴殿と刃を交えるのも悪くはあるまい……】

　ハチドリは背から双刀を抜き、全身から黄金の闘気を放つ。

【私は全ての王龍を消し去ります。たとえ、あなたのような……無害な存在だとしても】

【そうでなくては新世界王は務まらない。己が望んだ世界を拓く、そのために王座に就いたのだろう？まさか、アルヴァナの哀しみを終わらせるだけで、そんな対価のない道を選んだわけではあるまい？】

【無論です……今の私は我儘ですから。頑張った自分に、ご褒美が欲しいんです……！】

【くはは！よかろう！それでこそ人の子よ！】

　ジーヴァはしっかりと四肢で地面を捉え、沸き立つ蒼光の粒子を吸収していく。

【無垢な貴殿を唆し、戦いの火を孕ませた盲目の王……】

　ハチドリが先手を打って独楽のように回転しながら突撃し、ジーヴァは後脚で立ち上がって直撃を躱しつつ、右前脚を掲げて力を溜める。ハチドリが力を解放して嵐を起こすが、ジーヴァは構わずに右前脚を叩きつけ、極彩色の波動を起こして扇状に進ませてハチドリを後退させ、間髪入れずに咆哮して地面から大量の蝶が湧き出し弾丸のように飛翔してくる。ハチドリは咆哮とともに黄金の闘気を生じて蝶の群れを粉砕し、大量の分身を飛ばして剣舞を放ち、双刀を振るった軌道上に紅い闘気の柱を多段に起こしてジーヴァの表皮を削る。ジーヴァは咆哮の音圧で分身の到達を遅らせつつ大きくバックジャンプし、高速で飛翔しつつ無明の闇を吐き出して地表を薙ぎ払う。ハチドリが分身を盾に飛び上がって躱すと、着地したジーヴァが直ぐ様向き直り、無明の闇を吐き散らしながら右前脚を叩きつけ、左前脚を次いで振り下ろし、右前脚で薙ぎ払ってから拳を返し、最後に強く地面に突き刺して反転し、躱しきったハチドリへもう一度六連撃を繰り出して強く地面を叩き、生じた極彩色の波動で吹き飛ばしつつ再び蝶の群れを呼び起こす。ハチドリは淵源の蒼光で刀身を象った大鎌を呼び起こして投げつけ、ブーメランのような挙動で蝶を撃ち落としていき、続いて呼び出した儀仗槍をジーヴァ目掛けて投げつける。叩きつけの後隙から解放されたジーヴァは足元に火炎を吐き出して儀仗槍を弾き、無明の闇に変えてから細い光線へ凝縮し、振り上げる。軌道上に大量の小爆発が生じつつ、ハチドリが右へ瞬間移動したところに薙ぎ払いが重ねられ、往復の光線で直撃させてからジーヴァは飛び上がり、ホバリングしたまま乱雑に頭を振り回して光線で地表を焼き尽くす。そして間髪入れずに右前脚を掲げ、力を込めて急降下しつつ叩きつけ、爪の延長線上に巨大な斬撃を起こして飛ばす。ハチドリは応えるように赤黒い刀を雷霆に変えて地面に叩きつけ、Ｖ字状に大量の紅雷を落として斬撃を破壊しつつ、蒼い太刀に闘気を注ぎ込んで巨大な刃を作り出し、振り下ろしてジーヴァを怯ませ、続いて全身で横振りして仰け反らせる。そしてその一瞬に力を込めきり、独楽のように回転して急接近し、斬撃を叩き込んでから力を解放してジーヴァの巨体を吹き飛ばす。しかしジーヴァも受け身を取り、即座に飛び上がってから地表に向けて余裕なく蒼炎を全力で吐きつけ、間もなく小上昇してから眩い雫を吐き落とす。想像を絶する圧倒的な破壊力が迸るが、それすら塗り潰すように、被弾しているハチドリから眩い黄金の闘気が発されて相殺される。

【やはり、私一人では掠り傷をつけることすら叶わんか】

　ジーヴァはゆるりと着地し、巨龍としての姿を霧散させ、自身の核に吸収される。

【さあ、貴殿の出番だ！】

　ジーヴァの核が爆発し、淵源の蒼光で象られた竜人形態のクロザキが現れる。翼は六枚にまで減っており、ジーヴァの翼と同じ意匠となっていた。

【待っていたぞ、白兎】

　クロザキは右腕を突き出し、瑠璃色の大剣を生み出す。それを自身に侍らせると同時に、大剣は表面が砕けて淵源の蒼光そのものが形を成したようになる。

【クロザキ、殿……】

【あのときの貴様は、我が鏡像の全てを受け継いでいた。だがこうして、創世の座を真に奪い合うのならば……本当の貴様を、この手で葬る必要がある】

　クロザキは右拳を握り締め、六枚の翼全てに輝きを満たし、大量の光線として解放する。

【〈九界浄土・三千世界〉！】

　ハチドリが軽い動作で躱しきると、クロザキは詰めずに構え、自身の周囲に同型の武器を三つ召喚する。

【覚悟を極めろ】

　クロザキはハチドリが独楽のように飛んでくるのに合わせて急上昇し、三本の剣の内、連結した二本を高速回転させて後隙に叩きつけ、直撃させたところで分解して二本の剣が地面を一閃して追撃する。

【王龍式！〈プロパトール・エンノイア〉！】

　輝く炎の豪雨が降り注ぎ、側面から薙ぎ払うような極太の熱線も何度も何本も飛んでくる。クロザキは攻撃を繰り出しながらも右腕を上へ伸ばして大剣を掲げ、それに力を一気に込めて超巨大な光の刃を形成する。

【消え失せろ！】

　叩きつけられた刃が巨大な光の噴水を生じ、昏く淀んだ空間を塗り潰し書き換えていく。全てが黄金に飲まれていく彼方から、一際紅く輝く星が見える。

【そうでなくては……そうでなくてはな！】

　光の激流の最中から飛び出した、竜骨化したハチドリに対し、クロザキは三本の剣を引き戻して侍らせながら突進して迎え撃つ。

【消し飛べ！創世の座、諸共！】

【この世界は！私の物です！】

　大剣と双刀が激突し、両者が弾き飛ばされると残る二本の剣が飛び、応じて大鎌と儀仗槍が飛んでいって相殺し合う。クロザキは先程の王龍式と同じ物量の熱線を一瞬で放出し、ハチドリも背に生やした翼から大量の闘気弾を飛ばして迎え撃つ。素早く回り込もうとするクロザキを黄金の闘気で引き寄せ、蒼い太刀、赤黒い太刀と薙ぎ払い、それぞれの大剣で迎え撃ち、交差した腕を振り抜いて双刀を振り抜き、残った大剣を弾きつつ凄まじいまでの黄金の闘気波で押し返し、しかし即座に構え直したクロザキが突進し、左掌底を叩き込んでハチドリを地面まで叩き落としてから自身も急降下し、大剣と共に強烈に着地する。ハチドリは分身を盾にして飛び上がって衝撃を逃がしつつ構え直し、両者は仕切り直しとばかりに向かい合う。

【全てを消し去る私の悲願……それを阻む最後の壁に、貴様ほど相応しいものもあるまい。誇れ、貴様は強い】

【共に旦那様の在り方を捻じ曲げ、否定するために此処に居るのなら……ええ、あなたほど相応しい敵はいない】

　ハチドリが殺気を放つと、クロザキは空間を塗り潰した黄金を更に覆い隠すように、全身から凄まじい無明の闇を発する。そして増加した二本の大剣がそれぞれ、輝く炎と、紅い炎で構成されたものへと変異する。

【行くぞ、結末だ！】

　淵源の大剣を頭上の虚空へ突き刺し、大量の球状の無明の闇を撒き散らし、瞬間移動で詰めてから輝く大剣、紅い大剣と薙ぎ払う。ハチドリは咆哮と黄金の闘気で無明の闇を破壊しつつ、双刀を地面に突き立てて岩盤を捲り上げながら岩塊を伴って飛び上がり、それを降り注がせながら光そのものとなってクロザキへ激突する。クロザキは直撃を受けつつも吹き飛ばされずに飛び退き、着地したハチドリ目掛けて掲げた淵源の大剣を巨大な光の刃にして振り下ろす。そのまま上体を反らして天を仰ぎ、大量の熱線を放出する。ハチドリは光の刃を、体表の闘気量を爆発的に増加させて相殺させて構え、赤黒い太刀を振り抜いて光の波動で遠隔攻撃し、輝く大剣でそれを受け止められたところに大量の分身を送り込んで斬撃を与えて防御硬直を延長させ、独楽のように高速回転して斬撃を叩き込み、嵐のような黄金の闘気を炸裂させて防御を破壊しつつ強烈な威力に巻き込み、止めに前方へ双刀を叩きつけて壮絶極まる一撃を捩じ込んで押し込む。

【地を埋め尽くすほどの愚民、愚民、愚民……】　

　クロザキは吹き飛ぶものの軽い動作で堪え、連結させた輝く大剣、紅い大剣それぞれを交差するようにハチドリへ飛ばし、分解された大剣それぞれが一回ずつ交差して地面に切創を刻みつける。

【だがもはや、そんなものはどうでもいい！何が滅ぶべきかなど……私は純然たる、全ての滅びのために……！】

　クロザキは飛び上がり、再び凄まじい力を発する。

【創世へ辿り着く！】

　三本の大剣がそれぞれ地面に突き刺さり、クロザキの周囲にバリアが発生する。

【私の全てを懸けて貴様を消し去ってやる！】

　再び翼から大量の熱線と炎の豪雨が降り注ぎ、クロザキが右手を突き出してそこから、ジーヴァが放ったものと同じ光線を乱射する。同じように軌道上で大量の小爆発が起こり、ハチドリはそれらを分身を盾にしながら、遠くへ飛ばした分身へ瞬間移動しながら回避しつつ、儀仗槍を空中へ放り投げる。

【幕引きだ！】

　クロザキは光線の放出を継続しつつ、その合間に左手を振って地面を引き裂き、輝く炎をプロミネンスのように走らせてハチドリの移動の妨害を行う。

【そうは行かない……ッ！】

　ハチドリが赤黒い太刀を雷霆に変え、投げつけると同時に大量に引き裂かれて弾幕を形成する。その全てがバリアに着弾し、叩き割る。その瞬間にクロザキは光線の放出も熱線も炎の豪雨も止め、大剣を三本とも手元に戻す。即座に対応を迫るように、ハチドリが双刀を投げ飛ばし、輝く大剣と紅い大剣が迎え撃って相殺され、脇差を抜いて飛び立ち、淵源の大剣を持ったクロザキと激突し、競り合う。そして大剣が押し切って脇差を破壊し、その機を逃さずクロザキが大剣を手放し、掌に凝縮した無明の闇を直接ハチドリへ叩きつけて吹き飛ばす。だがハチドリは受け身を取りつつ、落下してきた儀仗槍を掴んでクロザキの胴体を刺し貫く。

【何ィ……ッ！？】

【これで……！】

　ハチドリはクロザキの体を踏み台に飛び上がり、左足を突き出す飛び蹴りで儀仗槍を蹴り、そのまま貫く。着地と同時に大爆発し、肉体が崩壊を始めたクロザキが地面に叩きつけられる。ハチドリは竜骨化を解き、そちらへ歩み寄る。

【私が、創世を成す】

【好きにするがいい……貴様の、創世で……私が破壊したかったものは……全て、消滅する……】

　翼が砕け、徐々に身体が霧散していく。

【嗚呼、母様……貴方の哀しみが……ようやく、終わるのですね……】

　クロザキは間もなく消滅した。

【さらば、無明の闇よ】