☆☆☆エンドレスロールEX:焼き融かす狐の王
エンドレスロール 独裁の塔・頂上
世界の全てが燃え盛る中、天高く聳える塔の頂上で来須月香が玉座についており、またいつものようなツインテールではなく、戒められていない長髪は黒い炎に染まっていた。空には炎の鎖で繋がれたアルメールが磔のように掲げられ、その胸の中央を異形の刀が刺し貫いている。
「待っていたよ」
来須が前方に視線を向け、そこに片耳のハチドリが現れる。
「久しぶり」
「……」
ハチドリは黙したまま、アルメールへ視線を向ける。彼の傷口からはどす黒い炎が漏れ出しており、塔の床に滴り落ちる。
「いい気味だろ?」
ハチドリが視線を正面に戻す。
「私を裏切った男を、この手で葬った。いや、葬るよりも苦しい、永遠の責め苦を与えることに成功したんだ」
「それでも、炎は黒いまま……」
「当然だろ?愛してはいるんだ、大好きなんだよ。だからこそ憎いのさ」
来須が立ち上がり、玉座が灰となって燃え尽きる。そして右腕を掲げ、アルメールと異形の刀が消滅しつつ右手に集う。程なくそれらが形を成し、細身の赤黒い刀身に、黒い炎が蔦のように絡みついた独特な直剣が姿を現す。眼前で振り抜き、構える。
「私はこの力で創世を成す。この男が望んだ、他人の大切なものを汚す快楽を、私がこの男にしてやる」
ハチドリは脇差を抜く。
「覚悟……」
「全てを焼き融かし、完全なる無へ!」
来須が左手から力を発し、どす黒い炎が前方へ大量に撒き散らされる。視界を塞ぎつつ、大きく剣を構えてから雷霆となって一気に距離を詰めつつ薙ぎ払う。ハチドリも左手から大量の細い熱線で迎え撃ちつつ分身を盾にして往なし、同時に飛び上がって紅い炎を帯びた脇差を振り下ろして爆発させる。来須はそれを食らいつつも右手を切り返し、思いっきり振り上げる。ハチドリが火薬となって躱すが、振りに伴って巨大な黒い炎の刃が飛び、軌道上の床を炎上させる。姿を現して二連斬りを当てつつ、そのまま舞うような連撃に繋げると、来須は動作の途中で弾き返し、バックステップで大きく距離を取ってから悶え、胸部から熱線を放出する。ハチドリが右に回り込むステップを踏み、脇差を振って炎の刃を二つ飛ばし、来須は強く力んで熱線を暴発させ、黒い炎の雨を降り注がせる。
「(なんて濃厚な感情……!)」
炎の刃が打ち消されつつ、黒い炎たちは次々と床に引火していく。回避に専念していたハチドリに対し、来須は自然と空中に浮き上がり、悠長に三回大振りし、巨大な黒い炎の刃を三つ飛ばす。適当にあしらわれたところに頭上へ瞬間移動し、急降下しつつ直剣を床に突き刺し爆発させつつ大量の斬撃を起こし、更に周囲の広い空間に斬閃を大量に生み出す。ハチドリは大きく引いて赤黒い太刀を抜いて雷霆へと変えて来須に撃ち落とし、脇差を異形の大剣へと持ち替え、両手で持って床を削りながら振り上げ、蒼炎の熱波で斬閃を破壊しつつ黒い炎を消火する。直剣を引き抜き、熱波を受けつつ悠長に来須は構え直す。
「杉原か。下らない」
「……」
「だが……お前の憎しみもよくわかるよ、今となってはね……だからこそ」
来須の左腕が黒い苔のようなもので覆われ、白い蔦が伝って盾のような剛腕を形成する。
「だからこそ、お前が知り合いだったことに反吐が出る」
真上に飛び上がって急降下し、左拳で床を叩いて強烈な衝撃波を起こす。同時に黒い炎も弾け飛び、消火された床を再び炎上させる。続いて直剣を構えて突進し、刺突を弾かれつつ重ねて放って左拳と大剣がぶつかりあって両者弾かれる。ハチドリが即座に大剣を突き出し、柄が一気に伸びて槍の如くなり、離れた来須が左腕を盾として防ぎ、穂先に蒼炎を滾らせつつ飛び上がって中空を滑りつつ突き立て、周囲を爆発させる。一連の動作の高速さによって盾で受けた来須を硬直させたまま爆発を与えて硬直を延長し、続く薙ぎ払いで防御を砕く。体勢を崩した来須へ、柄を縮めて大剣に戻し、強烈な四連斬りを叩き込んで打ち上げ、床に突き立てて再びの大爆発で吹き飛ばす。そのまま大剣を異形の刀へと変え、居合抜きによって巨大斬撃光線を撃ち出す。来須はふわりと受け身を取り、左腕を振り下ろすことで黒い炎の壁を作り出し、斬撃光線を受け止めて相殺し、ゆるり着地する。
「凌辱は、美しいものがあってこそ成り立つ。だとしたら、全てが何の変哲もない無へと変わってしまえば?」
「あなたは……」
「この感情が尊いものだとわかるからこそ、全て焼き融かす。もはや何者も、何者をも辱められないように。彼の幸せだけを、永遠に奪い取れるように!」
来須が両手を開き、天を仰ぐ。
「今こそ、全ての私を、僕を一つに」
塔の周囲を焼いていた炎が一気に彼女へ吸収され、続く大爆発で視界の全てが掻き消される。
エンドレスロール 王龍結界・白百合の墓場
視界が戻るとそこは塔の頂上ではなく、どす黒い炎で花弁を成す、白百合の花畑だった。
「嗚呼」
来須は人間としての姿を失っており、頭部が巨大な白百合に置き換えられた人型を、どす黒い炎が成していた。
「“死こそが救い”……月並みな言葉だけれど、終わりこそが幸せなことなんていくらでもある」
「……」
「生きることも、死ぬことも、詮無きこと。美しさも、醜さも、世界のどこにも存在しない。けれど、それをそうあるべきと定義する自由意志ならば存在する。だったら――」
来須が浮き上がり、左腕を掲げて大火球を生み出す。
「君の好きな生命賛歌を焼き尽くしてあげるよ、亮」
地面に大火球を叩きつけて爆発させ、間髪入れずにもう一つ同じ火球を叩き込んで追撃し、最後に剣を向けて急降下し、突き立てると同時に再三の爆発を起こす。ハチドリは三発全てを分身で受け流し、両者は構える。
来須が宙返りし、剣に黒い炎を迸らせて突進する。螺旋を描いた炎が威力を増大させ、ハチドリが回避すると同時に向きを直し、更に出力を上げてもう一度突進する。分身で受けたところに更に出力を上げて貫通し、鋭く巨大な鰭に変形させた左手を振り上げて切りつけつつ、そのまま素早く剣で二連斬りを繰り出し、元に戻した左手でハチドリの首を掴み、強引に膂力で空中へ放り投げ、剣での刺突を狙う。しかし、当然というべきかハチドリは空中で立て直し、素早く赤黒い太刀を抜き放って紅雷を落とし、蒼い太刀を持った大量の分身を襲いかからせる。
「わかってるはずだよ、分身ごときに宿らせる意志の量じゃ貫通できないことなんて」
その言葉通りに来須は分身の猛攻に遭いつつも対応するどころか怯みもせず、頭部から大量の熱線を解放して対空射撃を繰り広げる。ハチドリは空中を蹴って飛び退き、着地してから蒼い太刀へ持ち替えて刀身に怨愛の炎を宿してリーチを大幅に増強し、横、縦と渾身の力で薙ぎ払う。一段目は弾かれ、二段目が往なされながら来須は空中に飛び出し、剣の振り毎に炎の刃を飛ばし、反動ででたらめに飛びながら更に二度刃を飛ばす。振りに合わせて大量の斬閃がばら撒かれ、刃への直撃に誘導するように時間差で炸裂していく。ハチドリは分身を呼び起こして斬閃を打ち消しながら、自身も刃を飛ばして相殺させ、そこに来須が泳ぐように凄まじい速度で距離を詰めて剣を強く振り、弾かれつつも押し出されるように距離を取り、即座に踏み込んで左手でハチドリの首を再び掴み、今度は投げずにそのまま剣で刺し貫く。既に目などないのだが、視線を合わせるように頭部を近付け、凄まじい勢力の黒い炎を迸らせて燃え移す。
「(燃える……!)」
「全て、焼き融かす」
ハチドリは籠手を爆発させてお互いに吹き飛ばし、紅い炎を全身から放って黒い炎を打ち消しつつ右半身を鋼で覆う。来須は浮遊しているかのように緩やかに着地し、剣も原型を失って黒い炎そのものと言える物体になる。
「命を持った怨愛の炎……!」
来須が浮き上がり、泳ぐような挙動から切り払い、躱されたところから着地して踏み込みつつの二連斬りを繰り出し、炎が尾を引く左腕での引っ掻きから熱線を放ち、軌道で爆発が連続する。盾とされた分身が燃え尽き、後隙に投げた赤黒い太刀が剣に弾かれ、重ねるように怨愛の炎を宿した蒼い太刀で横縦と渾身の力で薙ぎ払う。黒い怨愛の炎の体に赫々たる怨愛の炎が燃え移り、来須が怯む。そこに異形の大剣へ持ち替えながら距離を詰め、回転しながら薙ぎ払い、飛び上がりながら豪快に斬り下ろし、爆発させて押し込む。そうして蒼い怨愛の炎も燃え移して更に怯ませ、だが強引に体の制御を取り戻した来須が自分自身を火球へと変えて爆発し、その一瞬の隙で大火球を生み出して着弾させて防御を強制させつつ、自身の力を凝縮させて超絶規模の大爆発を起こす。直撃を受け、全身が焼き焦げながらもハチドリは堪え、左腕を突き出す。
「この世の涯は……!」
籠手の内部から莫大な赫々たる怨愛の炎が解放され、同時に来須から生じる黒い怨愛の炎の出力も上がっていく。
「全てを、焼き融かす……」
「唯一つ!」
ハチドリは左手を突き出したまま黒い炎の最中を突っ切り、爆発の中心にいる来須を掴み、握り潰して更なる大爆発で塗り替える。吹き飛ばされ、ハチドリは両手で地面を削りながら着地する。
炎の勢いが衰え、来須がゆるりと着地する。その胸部はひび割れ、先程注ぎ込まれた赫々たる怨愛の炎が滾っていた。
「愛も憎しみも、僕たちの中にある」
白百合の形を成していた頭部が崩れ、どす黒い太陽のような光球が現れる。ハチドリは立ち上がり、炎が宿った蒼い太刀を右手で抜く。
「あらゆる美徳も、非道徳も、暴虐も、理性も、野生も」
来須が両腕を掲げ、全身から更なる火炎を発し、背後に巨大な擬人化された狐の像を呼び起こす。それは来須と同じ剣を右手に、左手にレバーアクションライフル……を象った炎を形成する。
「全てを焼き融かし、凌辱せしめ、もはや誰も喜べぬように」
「ならば――」
ハチドリは左手で赤黒い太刀を抜き、それで自身を貫いて刀身に蒼い怨愛の炎を宿す。
「その前に、私があなたを焼き尽くす」
「斯く滾れ、三千世界!」
来須が軽く舞うように剣を振ると、狐の像もその剣を振るう。黒い炎が撒き散らされ、斬撃が飛ぶ。ハチドリが捻りを加えながら飛び上がって躱すと、そこへライフルから中規模の火球が三発飛び、追尾する。蒼い太刀の一閃に伴って空間に斬閃が固定され、炸裂に合わせて炎上する。来須が薙ぎ払いつつ一回転し、それにやや遅れて像が薙ぎ払うことで続く赤黒い太刀の斬撃を往なし、ハチドリは縦回転しながら地上の来須目掛けて突っ込む。交差しつつ切り払った瞬間に来須が剣を振って弾き、両者がやや離れた瞬間に剣を地面に突き立て、扇状にどす黒い火柱を連続で起こす。素早く着地してステップを踏み、火柱の合間を抜けていくと、来須は左手に力を集中して炎を槍のごとくし、叩きつけるように地面に突き立て、そこに剣を重ねて大爆発させる。分身を盾にしてその場で翻り、蒼い太刀を籠手に納めて赤黒い太刀を両手で持ち、ほんの一瞬力を溜めて振り下ろす。巨大な血の刃に紅雷と青い炎が混じり、来須は直撃を受けて膝を折り、赤黒い太刀を納めつつ籠手から蒼い太刀を抜刀し、斬撃と炎の嵐で追撃する。それを像の持つ剣が防ぎ、立て直すまでの時間を稼いで破壊される。ハチドリはその場で飛び上がり、赤黒い太刀を抜刀しつつ雷霆に変えて投げつけ、即座に着地しつつ一気に駆け抜けて一太刀入れる。来須は剣に絡まった黒い炎を解き放ち、雷霆を喰らいつつも斜め後方に飛び上がり、カウンターのように接近してきたハチドリへ急降下する。ハチドリは自身の周囲の空間を歪めて隙を潰し、だが来須も自身から大量の黒い炎を放って空間の客体時間の歪曲を妨害し、そのまま剣でハチドリを刺し貫いて着地し、首級のように掲げる。凄まじい勢いの黒い炎で燃え上がられ、ハチドリの体内から木の枝のように黒い炎が次々と突き出て大樹のようなシルエットを作る。ハチドリは貫かれたまま右手で剣を掴み、渾身の力で赫々たる怨愛の炎を総身から噴出させる。来須も飲み込まれまいと更に出力を上げ、大量の斬閃を直撃させて抵抗する。
「全てを焼き尽くすのは……純粋な、暴力です……!」
剣を握り潰し、即座に黒い炎の枝を焼き尽くして落下しつつ、背から赤黒い太刀を抜いて来須の胸部を貫く。そして来須を蹴り飛ばして飛び退きつつ太刀を引き抜き着地し、そのまま来須は大爆発する。
程なくして視界が晴れ、花畑の中にミイラのようになった来須が斃れていた。
「愛も、憎しみも……あなたにとって捨て難いもの」
左手から火薬を撒き、やがて来須の体を燃やして灰と成す。
「私には分かりません。それほどまでに……誰かを、憎み尽くす気持ちが」
ハチドリはしばらく、その場に立ち尽くしていたのだった。
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