与太話:これを着てくれアウル

エラン・ヴィタール 屋敷

「……アウル」

 自室のデスクに向かって座り、膝の上にアウルを乗せたバロンが呟く。

「なんですか、私のバロン?」

「……君に……わむっ」

 アウルが少し首を伸ばし、バロンの鼻先に後頭部を押し付ける。

「どうせ私のバロンのことです、ちょっと失礼なことを私に頼もうとしているんでしょう?その手は食いませんよ」

「……ふがふが……」

「あなたが好きな私の匂いを嗅いで幸せになってください」

 バロンはアウルを優しく離し、一気に息を吐く。

「……いや確かに幸せだが、そうじゃない」

「うん?私のバロンがそんなことを言うなんて、結婚当初を思い出してくれましたか?」

「……結婚当初……?」

「仕事から帰ってくるとすぐに私に口づけて、雪崩れるように浴場に」

「……今もしてるだろう。畑仕事から帰ってきたらだが……」

「ふふ……ま、今日は機嫌がいいので何でもお願いを聞きますよ。なにをしてほしいんですか?」

「……ああ、これを着て欲しいんだ」

「着て欲しい……?」

 バロンが右腕を伸ばし、とある衣装を手に取る。

「……これだ」

「これは……す、スモック!?いや、え!?」

「……ダメだろうか」

「いえ!バロンが着て欲しいというのなら!どんな……どんな衣装でも着こなしてみせましょう!」

 アウルは膝上から立ち上がり、半ばスモックを剥ぎ取るようにして手に取り、隣の寝室へ足早に去る。

「……可愛いな……」

 バロンが腹の奥底から嘆息のように呟くと、驚くべき早着替えでアウルが現れる。

「どうですか、バロン!」

 バロンが振り向くと、当然のようにスモックを身に着けたアウルがいた。元々の抜群のプロポーションや美しく光沢のある桃色の長髪とミスマッチな水色のスモックの組み合わせが、どう見ても性風俗で見るような雰囲気を漂わせている。

「……」

「きっと目の前にはあなたが望んだ光景が広がっていることでしょう!」

「……」

「広がってます……よね?」

 沈黙するバロンに対して不安になったか、アウルが徐々に威勢を失っていく。

「……ああ、広がっているとも」

「ほっ……」

「……普段のようにきらびやかな衣装もいいが、こういうのも……なんか、こう……いいな」

「ところで……」

 肯定されて落ち着いたのか、アウルが疑問を投げかけてくる。

「なぜ園児服を私に……?」

「……なんというか、非常に説明しにくいが……恥じらいが残るが自信のほうが勝っている君が見たいから、だろうか」

「ふむ、そうですか……まあ、あなたが満足したのならそれでいいです。私も、あなたに必要とされている状況に満足しましたから」

「……幼稚園ごっこでもするか?」

「ほう……」

 バロンがからかうように言った言葉を、アウルは興味深く受け取る。

「そうですね、だとしたら何がいいでしょう、バロンの役割は」

「……まあ先生――」

「園内に侵入した不審者とか、親御さんとか、いえ……同じ園児というのもいいですね」

「……この件は二人でじっくり話すとしようか」

 お互いに妙にやる気で、激論を繰り広げたのだった。

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