与太話:インサルト・ステーキ

「なあ、友よ」

 執務室の、来客用の椅子に足を組んで座るのは、竜化体のアルメールだった。デスクについていたニヒロは、目線を合わせない。

「メスをメスとして自覚させる、そういう趣味の男が良く居るようだが……俺は正直、そういうのはナンセンスだと思っているよ。君はどうかな」

「ヒトが何をしようがどうでもいいが、所詮は二つに一つの率の話でしかない。オスがどうだ、メスがどうだなどということは……極めて次元の低い話に過ぎない」

「クハハハ、そこがほら、王龍と人間の思考形態の違いという奴さ。俺はそこまで否定するつもりはない。メスがオスに屈服するって言うのは、適当にズリネタにする分には極めて有用さ。だがね……それはただ射精しているだけで、絶頂には至ってないのさ……童貞から抜け出せていない、己の尻を許したことも無い、女々しい少年のままなんだよ。一方的に捻じ伏せるだけで、己よりも強いものが現れた時のことを微塵も考えていない……」

 アルメールは感慨深げに言葉を紡ぐ。

「俺が催眠だの洗脳だの拷問だの凌辱だの……風情を無くすものが嫌いでね。あくまでも自然発生的に起きてほしいのさ……誇りを賭けた高貴なる戦いに、知らず知らずのうちに汚物が紛れ込んでいる、そういう風なのがいいのさ……例えば真剣で斬り合い、そしてほんの僅かな油断が傷を産んだ……その傷からくる痛みが、どこで仕込まれたか快感に変わり、それで大きな隙を晒し……快感に悶えながら、宿敵の次の太刀を受けて幸せのままに絶命する……そういうのが見たいのさ」

「ふん、回りくどい生き物だ。だが……それをデータとして数値化できれば、もっと俺がヒトの精神を理解する助けになるかもしれんな」

「ふふ……君は王龍だろう。その中でも飛び切り最強の、原初三龍だ。人間の頭を書き換えるなんて、簡単じゃないか?」

「貴様は洗脳がナンセンスだと言ったな」

「はは、まあ言ってみはしたが、実際のところ一般人ならともかく一定以上の実力と成長した精神を併せ持つ生き物を自在に捻じ曲げるのは、いくら君でも不可能だ、そうなんだろ?」

「そうだな。無理にしようとすれば、被検体は自己矛盾を起こし自壊する。ゆえに俺は、1から精神を作り上げてアイスヴァルバロイドを作っているのだろう」

「だが凡人が相手なら、容易に精神に干渉できるんだろ?」

「貴様でも出来るはずだ、その程度」

「だったら、この間俺が雇った秘書の子に、痛みを性感に誤認するようなまじないをかけてみるよ。何か、肌身離さず君が経過観察を出来るような装置はないかな?」

「ならば貴様が見張っておけ。俺は貴様が見て聞いて覚えたものを後で読み取らせてもらう」

「クハハハッ、親友に頭の中を覗かれるか。それはそれで興奮できそうだ」

 アルメールは立ち上がる。

「さて、雑談はここまでのようだ。俺も仕事があるんでね」

 そして立ち去るのだった。

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