与太話:竜の戯れ

 始源世界 Chaos海上基地・実験棟

 ニヒロが剛太郎の姿でコンソールを操作していると、真横に立っていたクインエンデがその肩を叩く。剛太郎がそちらへ一瞬意識を向けると、クインエンデがふざけたハロウィンの人間が着ていそうな装束に身を包んでいた。

「トリックゥ~?オアァ~?トリー……」

 クインエンデがわざわざ語尾を不愉快に伸ばして溜めていると、その途中で剛太郎に凍らされる。

「鬱陶しい」

 笑顔のまま氷像に変えられるが、クインエンデは漲る気力で融かして復活する。

「ニヒロ様、古代世界にはハロウィンと言うかぶれた祝祭があるんですよ!知っていますか?」

「……」

 剛太郎は返事が面倒なのか無視する。

「もう私はニヒロ様のことがしゅきしゅきぃなので、お菓子をあげる側にもなりますしいたずらをするのもされるのも大歓迎で……」

 しつこく食い下がると、またも彼女は凍らされ、瞬時に蘇る。

「もちろんニヒロ様がそう言った下民の愚行に興味がないのは知ってはいますが、私の感情の昂りを観察してみたくはありませんかぁ!?」

「……?」

 剛太郎はようやくクインエンデの方を向く。

「ひゃっ!?ニヒロ様、もしかして……?」

「普段にも増して喧しいと思っていたが、俺の氷をここまで早く砕くとはな。貴様にしては上出来だ」

 急に視線を向けられた彼女は顔を赤らめ、剛太郎が僅かに頷く。

「貴様の誘いに乗ってやろう。貴様は何がしたい」

「ほええ!?わ、私に選択権が……!?」

 クインエンデは聞こえるほどの喉越しで生唾を飲む。

「う、うぇええええ……」

 感情が昂りすぎたのか、彼女は涙を浮かべる。

「に、にひろしゃまぁ……急に優しいのはダメですぅ……」

「ふむ……」

 剛太郎は興味深そうにその様を眺める。

「俺が作ったとはいえ、貴様の感情の起伏は滑稽だな」

「うぅ、ぐすっ……お褒めの言葉まで頂けるとは……ッ……!」

「いいだろう。今日は貴様の囀りを聞いてやる。好きなだけ喚け」

 そう告げて、剛太郎はまたコンソールに向かい、作業するのだった。

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