夢見草子:それは万物の王たらん

 アルヴァナが無の無を打ち破り、ユグドラシルとボーラス、そしてニヒロが生まれた。

 原初の混濁の最中、狡猾で静謐たるユグドラシルは関せず、ボーラスとニヒロは相対していた。

「我が万物を統べる」

 ボーラスはまだ混濁する意識を整えながら、ニヒロに意思を発する。

「そうか。俺は、俺以外の存在が気に喰わん」

 両者は巨大な翼を広げ、ニヒロが絶大な威力の冰気を放つ。ボーラスは純シフルを解き放ち、冰気を打ち消し、純シフルそのものを光線に変えてニヒロを狙う。ニヒロは竜にすら捉えられぬほどの高速で機動し、氷を纏った尾で打ち据える。ボーラスは右前脚で迎撃し、破壊的な威力の薙ぎ払いを放つ。二匹の戦いの余波で、虚空の中に様々な物質が出来上がっていく。雑多な何かで出来た地平に二匹は降り立つ。ボーラスが地面に腕を叩きつけ、シフルの大爆発で地面を隆起させて攻撃する。ニヒロは地面を踏み締めて冰気を解き放ちながら咆哮し、衝撃を打ち砕く。両者が口から光線を吐き出し、その激突し合う衝撃で地平が無に還る。ニヒロは続けて小さい氷の欠片をマシンガンのように連射し、意に介さずボーラスは尾からシフルの刃を産み出して薙ぎ払う。十字に払われたその余波で空間が切り裂かれ、また物質が生まれる。そしてそこへ降り立ち、二匹は向かい合う。

「我こそが絶対の正義、我こそが全ての支配者、万物の王なのだ!」

「……」

 ボーラスが身を震わせ、体表を金色のシフルが駆け巡る。ニヒロが飛び上がり、冰気に身を包んだ球体となってボーラスに突撃する。ボーラスは躱し、地平にニヒロが着弾した瞬間、莫大というのも甚だしいほどの凄絶な爆発が起こり、ボーラスを地平もろとも吹き飛ばす。辺り一面が氷に覆われる。ニヒロの体からは金色のシフルが立ち上っており、ボーラスは更にシフルを励起させる。

「現状に疑問を持ったことはないか」

「知らん。所詮全ては詮無きこと」

 極大の光線が衝突し、その影からニヒロが猛スピードで突っ込んでくる。ボーラスが右前足を振り下ろし、縦に放たれた即死級の衝撃を躱すように宙へ舞い、急降下しつつ尻尾で薙ぎ払う。氷塊が連峰のごとく隆起し、ボーラスはそれを受け流して空中へ飛ぶ。シフルの流れが変わり、ニヒロは紫雷を纏った氷の光線を空中のボーラスへ叩き込む。が、もはやボーラスはその攻撃で何のダメージも負っていない。

「我こそが万物の王!あらゆる万物の極みに立つ、それこそが我!」

 ボーラスの口許に目映い閃光が現れ、小さな雫が零れ落ちる。

「我が王権は永劫にある!」

 その勝鬨と共に、雫が氷の地平に辿り着く。その瞬間に音も視界も消え去り、もはや何もわからぬほどの大爆発が起こり、全てが消し去られる。ニヒロは余りの激甚な負傷に意識を失い、ただ虚空を漂う。

「我こそが万物の王たらん」

 ボーラスはそう呟くと、そこから去っていった。

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