番外編:十万億土

あごだしからあげ

思いつきの小話

平和な雑談

与太話:小鳥の囀り

※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。







 セレスティアル・アーク

 食堂で筑前煮を食べていた明人は、ふと目の前に座るランの胸の谷間にエビフライの衣が落ちたのを確認する。そのまま谷間を凝視していると、ランが口を開く。

「これ。いくらやつがれたちが兵器であろうと、そのようなデリカシーのない視線を向けるのはご法度だぞ」

 明人は慌てて視線を外す。

「すまん。つい男の本能で」

「そう言えば許されると思っておらんか?アリアやレベンは甘やかしがちだからな」

「じゃあランにも一つ言いたい」

「ほう?」

 ランが興味深げに上体をテーブルに乗り出す。

「ランはめっちゃ可愛いしめっちゃエロい体してるんだから、もっと肌の露出を少なくしないと俺みたいな変態の視線を釘付けにしてしまうと思います!」

「かわっ……」

 明人が極めて真面目な表情でそう言うと、ランが硬直する。そして直ぐ様顔を赤らめる。

「そういうところじゃぞ!」

「?」

 叱られた明人はきょとんとした。ランは呆れてため息をつき、食事をさっさと終えると黙って食堂から出ていった。

「可愛いから可愛いって言ったのになんで怒られたんだろう」

「主様」

 明人の背後からモズがぬっと現れる。

「おわぁ!?」

「驚かせてしまい申し訳ありません。変態な癖に鈍感な主様に物申したいと思いまして」

「はい」

 明人は姿勢を正す。モズは腕を組んで精一杯胸を張って明人を見下す。

「主様が真に望むのは白金零との決着であることは重々承知しております。ですが、我々は少なからず主様に好意を持ち、出来ることなら一番になりたいのです。主様の〝空の器〟故の性質か、それとも我々がそう作られているのかはこの際どうでもいいのです」

「ふむふむ」

「そのように、憎からず思っている相手から、容姿を誉められたら、主様はどう思いますか」

「嬉しい。めっちゃ」

「つまりはそういうことです。昔から、照れ隠しは逆ギレと相場が決まっておりますので」

「はぁ。なるほど。でもさぁ、なーんか慣れないんだよなー」

「何が、でしょうか」

 モズは姿勢をいつもの直立に戻す。

「モズとかランみたいにさ、超絶可愛い美少女に好かれても、なんか現実味に欠けるというか。命懸けて敵とぶっ殺し合うより現実っぽくない」

「そういう、ものなのでしょうか。私には、主様以外を好きになる方がよほど現実味が欠けております」

「そ、そう?でへへ……」

 明人は間抜け全開のにやけ顔で照れる。

「そういやさ、たまにレベンとかハルとかが夜襲とか朝に凸してくるじゃん」

「そうですね」

「たまになら俺もラッキースケベというか、キモい顔ででへへへ言えるんだけどさ、連日連夜来ると体力が持たないんだよ」

「まあ……主様はそれで幸せですか?」

「うん!だってそりゃな!男の夢だろ!下世話な話だけどさ、実際男ってみんなそうだと思うんだよ」

「主様以外の男性を異性として認識していないので……」

「お、おう……ありがてえけど重ぇな」

 明人は壁に掛けてある時計を見る。

「お前と雑談してたらランとも雑談したくなったわ。ちょっと行ってくる」

 モズは丁寧にお辞儀をし、明人は立ち上がり、食堂を後にする。


 セレスティアル・アーク 屋上

 ランが腕を組んで空を眺めていると、明人が横に並ぶ。

「おいっす」

 明人が右手を額に当てて挨拶する。

「お主がここに来るとは珍しい。普段は部屋でゲームをしておるだろう」

「超絶可愛い美少女のランちゃんと雑談したいなぁって」

「世辞を言えば済むと思っているだろう」

「変態は基本的にお世辞とか言わないから」

 ランは照れて顔を逸らす。

「さっきも言ったけどさ、ランのその服装って誰が選んだの」

 明人が訊ねると、ランは咳払いで落ち着きを取り戻して答える。

「全く、そんなことも覚えておらんのか。始源世界のお主が決めたんだぞ」

「え、マジ?直球のセクハラじゃん」

「……。憎からず思っている相手からなら嬉しいものだぞ、こういうのは」

「んー???????」

 明人はイマイチ合点がいかないような顔をする。

「もう……どうしてそういうところは鈍感なのだ……」

 ランがため息をつき、明人はより顔をしかめる。

「明人!」

「はい!」

 若干の怒りを込めてそう言うと、明人は背筋をピンと立てる。

「よいか、僕の気持ちをキチンと推測して、どうすれば僕が喜ぶかわかってから来るがよい」

 ランは踵を返して階段を降りる。

「んー……ランは俺のことをちょっとウザいとか思ってんのかな……?」

「あーきとっ!」

 明人が真剣に考えていると、後ろからアオジが抱きつく。

「ぬおっ、アオジさん!?」

「いやいや、ランがちょっと怒ってたから、これは私のチャンスだと思ってねー」

「何のチャンスだよ……」

「普段はお仕事したり、他の子とゲームとかスポーツとかしてるからー、私が明人と力比べする時間がないじゃん?」

「力比べって……あれはどう考えてもセッ……」

「お、明人って実はそういう知識深め?じゃあ今度からは直接言おっかなー」

 アオジはそう言うと明人を抱き締める力を強める。

「うぎぎぎぎ……ギブギブ……!」

「千代とか燐花とかの目の前で堂々と言ったらどうなるかなぁ?」

「勘弁!勘弁な!」

 明人が頑張って抵抗しようとするが、アオジの細くも筋肉質な腕から産み出される腕力に全く歯が立たず、仕方なく力を抜く。

「そうそう♪ちゃんと身を任せてくれればちゃんとブッ飛ばしてあげるからね♪」

 ――……――……――

「まったねー♪」

 ベッドの上からアオジが笑顔で手を振り、げっそりした明人が力なくアオジの部屋から出る。ドアを閉め、そのまま明人は廊下に倒れる。

「ぐふぅ……もう一歩も動けない……」

 と、そこにモズがやってくる。

「主様、こんなところで寝ては風をひいてしまいます」

 モズが隣に跪いて肩を揺する。

「モズ……俺の部屋まで運んでくれ……」

 絞り出した声を聞き届けたモズは、明人を軽々と片腕で抱え上げると、廊下を歩き、明人の部屋の扉を開け、デスクの横のベッドに彼を横たえる。

「主様、またご無理をなされたのですか?」

 モズがデスクに備え付けられているワークチェアに座る。

「またアオジにがっつり搾られた」

 明人がため息混じりにそう言う。

「ラン様とはお話しできたのですか?」

「ああ、それは出来たけどさ、やっぱなんか会話がうまくいかないというか……」

「主様はラン様と仲良くなりたいのですか?」

「そりゃもちろん!一緒に暮らしてる以上は、ちゃんと仲良くなりたい」

 モズはその言葉を聞いて微笑む。

「主様の仰せのままに、私は知恵を絞りましょう」

 明人は重い上体を起こして、モズと共に語り合った。

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