第331話 オレが来たからもう安心だっ!
―― 二月十二日 赤口 丙申
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「めぐみ姐さん、だいぶお疲れの様ですけど……」
「あぁ。時間旅行って奴をしたもんでねぇ……疲れちゃったよ」
「大丈夫ですか」
「え?」
「目の下に隈が……凄いですよ」
「マジで?」
めぐみは、慌てて鏡を見ると、頬がこけ、目の下に隈が出来て少し老けた様に見えた――
「あうっ! 浦島太郎的な奴かしら? エステ? 美容液? リンパマッサージ? どうしよう、このままだったら……」
「でも、朝に比べたらだいぶ良くなっていますから、時間の問題でしょう」
「朝、そんなに酷かった?」
「はい。顔色も良くありませんでしたからね」
めぐみは、帰宅して直ぐに寝てしまい、目を覚まして顔を洗うと、鏡も見ずに出て来てしまった――
「参ったなぁ……仕事が終わったら、帰りに何か美味しい物でも食べて、ゆっくりお風呂に入ろう」
だが、その時だった――
「ん? 嫌な気配を感じるっ!」
めぐみの背後に突然、萌絵ちゃんが現れた――
「うわぁっ!」
「ちょっと、あなた。昨日は此処に居なかったでしょう? 何処に行っていたの?」
「何処って、何処でも無いですよぉ……」
「つねっ!」
「痛っ!」
「気配すら無かったのだから、旅行にでも行っていたのでしょう? 何処に行っていたの?」
「何処に行こうと、私の勝手です」
「ふんっ、行った事は認めるのねぇ。お出掛けして、お土産も買って来ないだなんて、あなたって、本当に薄情ねぇ」
「そんな義理は有りませんよっ! 干渉しないで下さい」
「あら? ムキになる所を見ると……あなた、まだ何か隠しているわね」
「つねっ! つねっ!」
「痛っ! 痛っ!」
「嘘をついてもお見通しよっ! 正直に白状しなさいっ!」
「いやっ、ですから、海外旅行でも国内旅行でもありませんよ……ちょっと戦前の日本に行っただけです。都内を移動しただけですから、お土産なんて有りませんよ、決して嘘などついていませんよっ!」
「はっ! あなた……時空間を移動したわねっ! 悔しいっ! 許せないっ!」
「はぁ? 許せないって、私の任務なんですよ? あなた様に、お許しを得る必要は無いんですよ――だっ!」
「つねっ!」
「痛っ!」
「ムカつくっ! あなた様じゃなくって『萌絵ちゃん』って呼びなさいと言ったでしょうっ!」
「もう、疲れているんですよ、勘弁して下さい」
「あ。何、その態度、自分ばかり手柄を立てて、好い気にならないでよねっ!」
「好い気になんてなっていませんよぉ。被害妄想は止めて下さい」
「じゃあ、今度、私も一緒に行くからねっ!」
「はぁ? 一緒に行っても、意味無いでしょう?」
「めぐみ姐さん『私も一緒に連れて行って。是非、時間旅行に御一緒したいわン』と申しております」
「ピースケちゃん、通訳要らないから」
「あなただけ時間旅行が出来るなんて不公平よっ! 許さないからねっ! つねっ! つねっ! つねっ! つねっ!」
「痛っ! 痛っ! 痛っ! 痛いっ!」
めぐみが逃げ出し、萌絵ちゃんが追い駆けて行くと、ピースケは異変に気付いた――
「おや? 何やら雲行きが怪しい……」
一天にわかに掻き曇り、薄暗くなったかと思うと一筋の光が差し込み、ひとりの男が現れた――
「止めろっ!」
「はっ! あ、あなた……」
「どえっ! あなたって事はもしや……」
「そう、オレの名は
‶ クルクルクルッ、スパ―――ンッ! ″
「そんな、華麗なターンを決めなくても……」
「うぅっ、離してっ!」
「みっともない真似をするんじゃ無いっ!」
「だって……」
「このオレに、口答えは許さないっ!」
「あうっ……」
「妻が迷惑を掛けて済まなかったな」
「あぁ……はい。でも、萌絵ちゃんを許してあげて下さい」
「
「あっ、いやぁ、それほどでも……照れるなぁ」
「おっと、言い忘れていたが、オレの地上名は
誠は萌絵ちゃんから手を離すと、熱い眼差しでめぐみを見つめた――
「めぐみ。今度、オレとデートしないか?」
「は? 奥さんの目の前でナンパだなんて、ダメですよっ!」
「じゃあ、次は妻の居ない所でゆっくり口説こうかな……」
めぐみは顔が真っ赤になり、誠は微笑んでウインクをした――
「さぁ、帰るぞっ!」
「嫌よっ!」
‶ パァァア―――――――――――ンッ ″
「このオレに、口答えなど許さんと言っただろっ! これ以上、オレに恥をかかせるなっ!」
「…………」
「妻がお騒がせして申し訳ない、この通りだ」
誠はふたりに頭を深く下げて詫び、顔を上げると爽やかな笑顔で言った――
「此れにて失礼するよ」
誠は萌絵ちゃんの髪の毛を掴んで引き摺りながら去って行った――
「めぐみ姐さん、西木野誠って、今時、珍しい亭主関白ですねぇ……」
「うん。今時、あんな男は居ないし、居たら大変だよ」
「でも、ああ云う男がモテるのかな……」
「はぁ?」
「いや、ちょっとDV的な? 強引な感じさえしましたけど、めぐみ姐さんも顔が真っ赤でしたよ」
「私は驚いただけよ。奥さんの目の前でナンパをするなんて、しかも、あんな風に誘惑まで。ビックリよ。あんな男らしい男に憧れるのは、私なんかよりピースケちゃん、あなたの方でしょう?」
「あぁっ! そう言われれば、そうですね……」
「まぁ、私とピースケちゃんの心をザワつかせた事に違いはないけどね」
「めぐみ姐さん、やはりモテる男と云うのは『女も男も惚れる』って事なんですねぇ……」
「感心している場合じゃないよ。益々、萌絵ちゃんが拗らせそうで、心配だよ」
めぐみは、誠が地上に現れた事で、萌絵ちゃんの意地悪から解放される安堵感と同時に、新たな不安を感じていた――
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