第8話 恋人の元へ ―グラビア・アイドルと熱愛発覚!?
津村は気になって時計を見た。すると十三時迄まだ少し余裕が有った。伊勢湾岸自動車道を西へ進み、十四時頃に明石海峡大橋を渡れば間に合うと確信した。少し気が楽になったが、アクセル・ペダルは思い切り踏み続けた――
一方、巫女には津村と彼女の関係に幾つかの腑に落ちない事が有った。
測定した数値は高く相思相愛で完璧なのだが、ふたりが別々の道を歩んでいる事、「見事に振られた、もう会う事も無い――」と言った津島の言葉の裏には何かがあると感じていた。
巫女は津村に別れた原因と理由などの聞き取りをする事にした。しかし、津村の人柄を知ってしまうと、あまり直接的に聞くのは気が引けた。だが、傷付けない様に細心の注意を払っていては核心に触れる事も出来ない。
巫女は勇気を出して聞いた――
「――ねぇ、良く出来た素敵な彼女さんと何で別れたの? 測定値からは到底、考えられないのよ。さては……やらかしたのね、二股とか?」
「そう、浮気がバレた、みたいな感じだなぁ……」
「本当に男って最低ね! 愛している人が居ながら、よくもまぁ、そんな事が出来るわね! 呆れた!」
「いやぁ、違うんだよ、正確には浮気では無くて……その、写真週刊誌にグラビア・アイドルとの密会写真を撮らて、それで……その」
巫女は激怒した――
「違うも何も、密会写真撮を撮られてまだシラを切る気なの! 呆れたクズねぇ」
津村は必死で訂正した――
「いや、違うよ事実無根なんだって! イベントの企画をしていた頃の仕事の仲間なんだよ。突然、連絡が来て『コスプレイヤーとして人気が出て、遂にCMの依頼が来たよ!』って大喜びしていたんだけど、マネージャーも雇えない状態で、現場から現場まで、送迎をしたり、サポートをしていただけなんだよ」
「だったら何故、そう言わないの。おかしいじゃない、送迎だけなら何も問題無いでしょう? ――本当にやましい事は無いの?」
「まんまと写真週刊誌にカモにされたと云う事さ。反論すればするほどネタにされて相手の思う壺だ『カリスマ社長とグラ・ドルの密会』オレの脇が甘かったのさ」
巫女は腑に落ちなかった――
「あなたがそんな事をされて反論も反撃もしないなんて、信じられないわ」
津村は遠くを見つめた――
「言うべき事は言ったさ。でも世間に出たら………もう、言い訳にしかならないからな」
巫女は得心した――
「だったら、彼女さんも事情を分かってくれるでしょう?」
「だから、意図せず……その、皮肉だけどグラ・ドルの売名には凄い効果が有ったんだよ、写真週刊誌のおかげで大注目された彼女は、中堅の芸能事務所に所属する事が決まって、TVのレギュラーの獲得とラジオで自分の番組を持つ事が出来たから結果オーライ、そっちは凄く上手く行ったんだけどなぁ……
グラビア撮影とかTVの仕事は不規則だろ? オレにも仕事が有るから、突然連絡が来て『直ぐに来て欲しい』なんて言われると都合をつけるのが大変でね、つい出先から、その日に納車されたばかりのスーパー・カーで送迎に行ってしまったのが運の尽きだったんだよ。そこでパチリとやられてしまってね。
大切な彼女の方は何度も約束をすっぽかしたりしてさ、でも、その時はまだ取り返せると信じていたんだよ、死ぬなんて、考えてもいなかったからね」
巫女は呆れた――
「写真週刊誌は丸儲け。グラビア・アイドルは出世してボロ儲け。あなた一人だけが大損したって事ね。あーあっ、人の夢を叶えるために一生懸命になって、自分の大切な人を手放すなんて……あり得ないわよ、バッカねぇ」
津村は力無く答えた――
「東京で出世して、彼女に喜んでもらおうと思って必死で働いてさぁ、オレにも運が回って来たと思ってね、ちょうどカリスマ社長なんて持て囃されて絶好調だったんだよ、今思えば調子に乗っていたんだな………でもグラ・ドルの彼女もオレがイベント会社を立ち上げた時に、一緒に夢を見た大切な仲間だから力になりたかったんだよ、苦楽を共にした仲間だからね、あの時の皆がいなければ今のオレは無いんだよ。
これで彼女にプロポーズが出来る! そう思っていた矢先の出来事でね。浮かれていたのさ。せっかく約束していたのに、大切な機会を失ってしまったんだよ。もう会わせる顔が無くなってしまったと言う訳さ」
巫女は眉間に皴を寄せて言った――
「ねぇー津村さん、と言う訳さって何? と言う訳さーでは説明になってないわよね? 何時、何処で、見事に振られたのかしら、分からないんですけど?」
「いや、だから………以前から約束をすっぽかしたりしていた上に、そんなゴタゴタが有ったものだから、プロポーズのために予約をしていたレストランをキャンセルする事になって……それで彼女からは『暫く会うのは止めましょう』と連絡のメールが来たんだよ、それを最後に連絡が出来なくなったのさ」
そんな話をしていると、ふたりを乗せた車は新名神高速道路を更に西へ進み、金勝山トンネルに入った。全長約三千八百メ―トル、掘削断面積が約百八十平方メートルの超大断面トンネルを僅か三十六秒で駆け抜けた――
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