第19話 無駄だけど無駄じゃない時間
「諸君。今日は集まってくれてありがとう」
放課後。いつもの通りに集会所にやって来た俺とカスミ。今日は小山内さんもいる。この後、テニス部に行くからジャージ姿だ。彼女にはちょっとだけ時間をもらった。
今日も今日とて提督気分からスタートする。
「諸君に集まってもらったのは他でもない」
「なにか考えが浮かんだ?」
カスミの質問に「良い質問だ」と、ドヤ顔で頷くと小山内さんが、ゴクリとつばを飲み込む。
「──なぁんにもおもいうかばないぷぅ」
「なにそれ! つまんない! あはは!」
そう言いながらも、俺の変顔を見て、ケタケタと笑ってくれるカスミ。
どうやら小山内さんにはウケなかったみたいで真顔でこちらを見ている。
「小山内さん。俺がすべったみたいになるからマジな顔は遠慮で」
「え? あ、あはは。お、面白いよ」
「笑いで一番傷つくよ? その言い方」
「ちょっとさ……。あの……」
歯切りの悪い小山内さんが軽く頭を下げる。
「ほんとに……私なんかのためにこんなにしてくれて……自分のことなのに、高槻くんと上牧さん悩ませて……私なにしてんだろうって……」
マジなトーンで言ってくるので、俺は切り替える。
「小山内さん。別に俺たちはなにも気にしてない」
「そうだよー。応援するって約束したんだし」
応援する気持ちは本当だが、こっちは停学と退学がかかっているからな。
俺たちの言葉は彼女にそこまで響かず「いや……」と首を横に振る。
「私が早く告白したらおしまい。こんな簡単で単純なことなのに二人を巻き込んで……。だからね。もう告白しちゃおうかな──」
「だめだよ!」
カスミが大きな声で小山内さんを止める。
「今の関係のままじゃだめだよ。今の距離が出来ちゃってる中、告白してもうまくいかない」
「でも……二人に──」
「レンレンは本当に気にしなくても大丈夫」
「高槻くんは……だね」
二人は、うんうん、と頷く。
「おい。待て。それはそれで待て」
「私のことなら気にしないで。南志見くんが小山内さんを避けている理由、きっと見つけるから。大丈夫だよ。二人はずっと一緒の幼馴染なんだから。きっと理由も大したことない」
俺はガン無視してカスミが熱く語る。
ええこと言うやん。
「上牧さん……。ありがとう」
微笑む小山内さんは可愛かった。これで乳がでかければパーフェクトだったのに。
「なんか、レンレンがムカつくこと考えてそうだけど……。まぁいいや。──レンレン。今日小山内さんを呼んだのは?」
「おっと。そうだな」
コホンと咳払いをして議題に入る。
「小山内さん。この前、サッカー部の練習試合の日さ、俺たちが噂されてるって聞いたろ?」
「あ、うん。聞いた」
「もしかしたら、それで南志見は気をつかってとか思ったんだけどさ……」
「うーん。それは──」
小山内さんは苦い顔をして考える。
「今まで小山内さんって他の男と噂されたりした?」
「今まで……」
ほんのちょっぴり考えて答えてくれる。
「拓磨以外とはないかな」
「あ、やっぱり幼馴染って噂されるんだねー」
感心したようにカスミが言う。
「うん。昔からずっと一緒だったからね。だから、からかわれたりもしたんだよね」
「あ、わかるー。男子ってすぐからかうよね」
「うんうん。でもね? 拓磨が『俺と円佳はずっと仲良しなんだ!』ってみんなに言ってくれたんだよね」
「きゃー。小学生男子なのにー。きゃー」
「ほんっとうに拓磨かっこよくて。もう、ほんっと好き」
「おい! やめろ! ラブコメイベントやめろ! 本人としろ! 俺を巻き込むな! 爆ぜろ!」
怒りを込めて言い放つ。
「さっきまでしおらしかったのに、もう惚気ですか? はあ?」
「だってあの時の拓磨かっこよかったもん」
「今はただのヘタレ主人公に成り下がりましたー。はい、残念ー。イライラ系ですー」
「ちょっとレンレン! そんな小学生男子なこと言わないの!」
カスミに怒られてシュンとなる。
「怒鳴るなよ……」
「あ、ごめん。え? そんなに効いた?」
「だってさ……。だって……。俺も幼馴染ほちぃ」
「わかった。わかった。幼馴染ならなってあげるから」
「こんなビッチな幼馴染いらないもん!」
「誰がビッチじゃああ!」
俺たちのやり取りを見て小山内さんが、ジト目で見てくる。
「なんか、二人って幼馴染みたいだね」
「え?」
俺とカスミの声が重なった。
「出会って数日のやり取りじゃないような気がする」
「え、えー。そ、そんなことないよー。こんなバカレンレンと幼馴染なんて。ねー?」
「だな。俺の幼馴染は、ミディアムヘアーで可愛くて、巨乳で、ノリの良い美少女だ。異論は認めん」
「上牧さんだね」
小山内さんの言葉に俺とカスミは顔を合わす。
「高槻くんの言ってるのって完璧に上牧さんじゃ?」
カスミが、もじもじとしだした。
「え、え……。レンレン……。え?」
「なんてこったああ! カスミって俺の幼馴染だったのかああ!」
「違うよ!? 幼馴染ではないよ!?」
「くおお! 気がつかなかった。全然気がつかなった」
「聞いてる? 私の話し」
俺は、ジーッとカスミを見つめる。
「チェンジで」
「こっちが願い下げだよ!」
そんなやり取りを微笑ましい顔をして見守ってくれる小山内さん。
「──って! おい! また話しが脱線してる!」
「レンレンのせいだよ。ばーか」
「小山内さん。時を戻そう」
俺は切り替えて話しを戻す、
「つまり、小山内さんは今のところ俺と南志見以外から噂はなかったと?」
「そうなるね」
「なにレンレン。自慢?」
「カスミ。マジなやつ」
「いきなりのシフトチェンジ。ガッテンだよ」
簡単に話しをまとめて小山内さんに伝える。
「今まで南志見は自分以外の男と小山内さんが噂をされたことがない。それってのは、つまり、あれだ。やっぱり萎えた説濃厚じゃね?」
「高槻くんの言うこともわかるけど、拓磨はそんなことじゃ私を避けないと思うんだよね」
「うーむ。幼馴染の意見となると、それも濃厚」
「レンレン。つまり?」
「うん。今日の議題は無意味!」
「無駄あ!」
俺とカスミが深く椅子に座り直すと「そんなことない」と小山内さんが立ち上がる。
「こういう場を設けてくれて、私のために話し合いしてくれて、話し脱線して笑い合ってて、これは無駄なんかじゃないよ。私、勇気もらってる」
「小山内さん」
ええ子や。
「ごめんね。二人とも。そろそろ部活行かなきゃ」
「あ、こちらこそごめんね。時間取らせて。ほら、レンレン」
言われて立ち上がる。
「お客様お帰りでーす」
「ありがとうございましたー」
俺とカスミが店員ノリで言うと「ふふっ」と小山内さんは楽しそうに笑って手を振って部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます