第11話 サッカー部の応援

 休日の日に早起きをするなんて中学の野球部いらいだな。

 運動部って朝早いよね。めっちゃ早い。思春期の朝は、そりゃもう辛い。ぶっちゃけ部活やめる理由に早起きをあげるほどに朝早い。

 高校に入って部活を続けなかった理由の半分は早起きだからな。それほどに我々学生にとって早起きとは辛いものだ。

 だから、休日の朝も早い電車にスーツ姿で仕事に向かっている社会人の人を見ると尊敬する。いや、まじで。


 休みの日だし、バイクで行ったろうか悩んだが、今の時期に乗ったら確実にややこしいことになるだろう。間違えなく。なので、学校へは電車で向かうことにする。


 学校に到着したのは八時半過ぎ。


 グラウンドの方を見ると対戦相手の学校も既に来ており、アップをしているのが伺える。


 俺はグラウンドから少し離れた冷水機のあたりでサッカー部の風景を眺める。


「あれ? 高槻?」


 後ろから声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはジャージ姿の男子が立っていた。


「おっはー……。堤……」


 堤光一(つつみこういち)は男子テニス部所属だ。小山内さん同様に元クラスメイトで仲が良い男子生徒だ。


「どしたん? 休みの日にこんな朝早く」

「まぁ……。色々と」

「帰宅部なのに?」

「帰宅部なのに」

「帰宅部もちゃんと活動してんのな」


 言いながら冷水機より水を飲む。


 いや、帰宅部に活動もクソもないだろ。


 とか言うと、面倒くさいので話題を変える。


「堤は? 部活か?」

「──ああ。だよ」


 水を飲み終えて、ジャージの裾で口元を拭きながら答える。


「ま、自主練だけどな」

「へぇ。テニス部ってちゃんとしてんだな。俺はてっきり駄弁り部だと思ってたよ」


 俺が見た限りじゃ楽しそうに、わいわいとしながらテニスをしているイメージだ。

 それはそれで楽しそうと思うけど。


「いや、基本的に俺しか来てないよ」


 苦笑いを浮かべる堤。


「悲しいな」

「いやいや。良いんだよ。俺も暇だから来てるだけだし」

「そのセリフが更なる悲壮感を漂わせる堤なのであった」

「ナレーション風に言うなっ!」


 堤がツッコミをした後に「あ、でも」と言葉を続ける。


「今日は小山内が来てたな」

「へ? そうなん?」

「うん。小山内、放課後とか全体練習とかは真面目に来るけど、休みの日に自主練ってのは珍しいな」


 堤が説明してくれたあと、タイミングよく後ろから「おはよう」とジャージ姿の小山内さんがやって来る。


「おはよう」


 俺が挨拶を返すと小山内さんが俺の前に立つ。


「私から頼んでることなのに、高槻くんだけ休み返上ってのは、やっぱりちょっと違う気がしたから」

「依頼主様は別に気にしなくても良いのに」

「いやいや。お金とか、そういうの払ってないのに、全部やってもらって……。やっぱり悪いなぁと」


 ああ。ええ子やな小山内さん。欠点はおっぱいが小さいだけか。


 こそこそ話しってほどでもないが、堤に聞こえない程度の声で喋っていると、彼が言ってくる。


「二人って一年の頃から仲良いよな」

「まぁ」

「だねぇ」


 お互い顔を見合わせて頷く。


「たまーに、聞かれるんだよな『あの二人って付き合ってる?』って」

「へぇ」

「そうなんだ」


 そりゃ知らなんだ。


 そういやカスミにも聞かれたな。


 ただ喋ってるだけなのにな。


「ま、付き合ってるとか、付き合ってないとか、それだけが人間関係じゃないよな」

「おお。堤が朝から名言っぽいこと言った」

「堤くんのくせに」


 俺と小山内さんが笑いながら言う。


「酷くないっ!? くせにってなに!?」




   ※




「いけ、いけっ!」

「そこだっ!」

「がんばれー!」


 いつの間にかサッカーの試合がはじまって、いつの間にか俺達は応援をしていた。


 そして、気が付いたら野球部やバスケ部やバレー部の一部の連中も来ており、みんなでサッカー部を応援する。


 みんなで応援って良いよね。


「──あれ? そういえばお二人さん。自主練は?」

「サッカーの試合の方が大事だ」

「今、いいところだし」

「さようで」


 俺の質問に二人して答えたあとに堤が聞いてくる。


「高槻こそ、なんか色々あるって言ってなかった?」

「その色々にこれが含まれるのだ」


 あえて嘘をつかずに答える。


「なんだそれ?」


 案の定の答えが返ってきた。


「ちょっと堤くん。今、良いところなんだから黙ってて!」

「俺だけ!?」


 小山内さんは、ジーッとサッカー部のマネージャーみたいにグラウンドを見守る。

 その理由は簡単だった。


 南志見がドリブル突破で相手ゴールへ近づいて行っているからだ。

 そりゃ好きな人が活躍してる最中にうるさかったら嫌だわな。


 そして、そのまま南志見がミドルシュートを放つと、ゴールネットを揺らした。


「おおおおおお!!」


 歓声が沸いた。


「きゃー! 拓磨ー! 拓磨ー!」


 その中でも、ぶっちぎりで小山内さんはテンションが上がり、南志見に向かって叫ぶ。


 さすがにグラウンドにそれが聞こえてきたのか、南志見がこちらに視線をやる。

 数秒見たあとに、ポジションに戻って行った。


「おいおい。今のはゴールパフォーマンスを見せるところだろうが」

「だな。こう──こんな感じで」


 堤が謎のポージングをすると小山内さんが睨む。


「堤くんやめてよ。拓磨はそんな下品じゃないから」

「じゃあ? こう?」

「てか、堤くんって存在が下品だよ」

「ひどっ!?」


 シュンと項垂れる堤。


 彼の肩に、ポンと手を置いてやる。


「お前、なにしたの?」


 そういうことを言うキャラじゃない小山内さんが容赦ない。


「思い当たる節は──ある」

「あんのかいっ!」

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