第10話 グループL○NE

 団地の一番上の階。五階。そこが俺の住まいだ。


 間取りで言えば3DKになるのかな。一応そうなるっぽいけど、そんなマンションみたいな感じではない。

 コの字方の間取りの団地だ。ちなみにキッチンいがいは全部畳である。


 コの字の下部分は六畳の部屋と四畳の部屋の間にふすまで仕切られた部屋。

 六畳の部屋は俺が使用させてもらっている。四畳の部屋は兄貴が使っていた。

 ふすまで仕切られた部屋なので防音なんて概念はない。なので、常に耳にはイヤホンをして過ごしていた。それは兄貴も同様だった。

 兄貴とは三つ違いで、俺が高校に入学した時に就職して家を出て行った。でも、慣れてしまったイヤホン生活が抜けず、今もイヤホン生活をしている。


 コの字の上部分が六畳の部屋とキッチンという扱いになる。

 そこに基本的に両親がいる。


 別にそれが普通で、特になにも思わなかったが、友達の家とか行った日は少し羨ましいと思う日もあった。


 でも、嫉妬はそれだけだ。あとは別になんも不満はない。


 両親のことは好きだし、兄貴とはあまり会話はないが、いざこざがあるわけではない。


 家は狭いけど、六畳の部屋をもらっているし、なに不自由なく過ごさせてもらっている。


 小学生の入学祝いに買ってもらった学習机。今も愛用している学習机に座り、ラノベを読んではスマホをいじる。

 何回も読んだラノベ。内容を把握しているため、片手間でもどのシーンがわかる。

 ラノベに興味を持ったのはあいつに出会ってからだ。

 まさか、女の子からラノベを教えてもらえるなんて思いもしなかったな。

 でも、そいつとは高校が違い、引っ越ししてしまって疎遠になってしまった。

 せっかく、ラノベっていう面白いものを教えてもらったのに疎遠になったのは悲しい。


『今日のところは収穫はなかったけど、彼女がいる気配はなかった。引き続き調査するよ』


 小山内さんの連絡先を知っていたのでL○NEにカスミを招待してグループL○NEを作成する。


 今日のことを小山内さんに報告するとすぐに返事がくる。


『ありがとう。二人ともごめんね。放課後潰しちゃって』


 やらないと停学になっちまうからな……。


『全然大丈夫だよー。小山内さんのこと全力でサポートするから!』


 カスミは同時に可愛いスタンプを送ってくる。


『ありがとう。上牧さん』

『レンレン。次はどうしよっか?』

『明日は休みだし、休みの日の南志見の動向もチェックしておきたいところだけどな』


 その返信に、小山内さんが答えてくれる。


『明日サッカー部の練習試合が学校であるって私の顧問から聞いたよ』


 小山内さんはテニス部だ。顧問から聞いたとなると、その日はグランドを使用するから使うな的なノリで話題に上がったのだろう。


『小山内さんは南志見から試合の日とかっていつも聞いてた?』


 俺の疑問文にすぐに答えてくれる。


『うん。拓磨、小学三年からサッカーしてるんだけど、試合のたびに教えてくれてた。最近は教えてくれなくなっちゃったけど』


 ふむふむ。


 彼女なり、好きな人を呼ぶために小山内さんに教えなくなった──と考えるのは簡単だ。

 それが答えだと固定概念に縛られては調査にならない。


『試合は何時からって言ってた?』

『朝の九時からって言ってたよ』


 午前中の試合。ウチの学校は強豪校ではない。専用グランドはなく、野球部と半分こにして練習している。

 午前はサッカー部。午後は野球部がグランドを使用するって日の可能性は高い。

 ということは、サッカー部は午前の試合で終わり。午後は自由時間だ。

 彼女がいるならば、休みの日の午後に出かけるだろう。

 試合で疲れて家で休む、なんて体力のない奴はサッカー部にいない。──俺調べだけど。

 まぁ、彼女がいなくても、休みの日の動向を調べるとなにか見えるものがあるかもしれない。


『わかった。明日学校行くよ』


 それを送ったあとに、カスミに集合場所を決めようと、そんな内容を送ろうとすると、カスミから返信がある。


『レンレンごめん! 明日はどうしても外せない用事ができちゃった』


 女子高生はなにかと忙しいだろう。


『休みの日だから仕方ないさ。気にしないでいい』


 カスミに返信すると小山内さんからも返事がある。


『高槻くんいいの? 休みの日なのに』

『全然大丈夫だよ』


 小山内さんの恋を応援したい気持ちもあるが、早くこれを終わらせて停学という呪縛から解放されたいし。


『ごめんね。ありがとう』と『レンレン。ごめんね。次は私なんでもするから』の返事が同時にくる。


 今、なんでもするって言った? じゃあおっぱいを揉ませて、と打ってやめる。

 うん。文字を送っても仕方ない。本人の反応を見ないとな。──ふっ。俺もおっぱいに踊らされた変態の一人というわけか……。


『明日は任せてくれ』


 かっこつけてそう送信したが、ただラブコメ野郎をストーキングするだけなんですけどね。


 それを最後に俺はスマホを机に置いてラノベを読む。


「──そういや、明日ってこれの発売日だ。帰りに買って帰ろ」

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