第38話⁂A氏殺害!⁂
1954年紫の花びらは高貴な色として*・*。・
紫式部の紫も高貴な色のむらさきを意識して命名されたらしい。
そんな紫色の藤の花が咲き誇る*・❀1954年5月のある日の事。
A氏は同郷の40代半ばの呉服問屋の井上幸子と言う女性からの電話に唖然とする。
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実はこの出会いは計画されたものだった。
「私あなたと同じ小学校で1級下の呉服問屋の井上幸子です。柳田酒造の勇さん一家とは、唯一の生き残りメンバ―として連絡を取り合っているのよ!……ケンちゃん一度会いたいのだけれど?」
「エエエエエエ―――ッ!生きていたのか?……あの呉服問屋の幸ちゃんかい?是非会いたいよ!」
「ワァ~嬉しい!私ね今東京で暮らしているのよ!……どこで会えるかな~?」
「ああ!俺が東京に出向くさ!」
こうしてA氏と井上幸子と名乗る女性はお互いが分かるように、首に青いスカ-フを巻いて渋谷ハチ公前で落ち合った。
実はこの数日前に、初美は入院中の母の元に赴いている。
「『柳田酒造の息子勇をよく知っている』と言う唯一の生き証人A氏が、是非私と会いたいと言っているのよ、お母さん!……どうしよう?……そして『娘さんなんかいなかった』と言っているらしいのよ、もし私が会ってしまえば全てバレてしまう」
「う~ん本当に困った事が起きたものね?…まさかこんな大都会の横浜で新潟県の人を知っているなんて~?」
「お母さん入院も長いので退院も近いから。また明日から外泊許可が出ていたわね?家で相談しましょう」
こうして初美の母は、退院間近かという事も有り、退院の準備期間として最近は外泊許可がチョクチョク出ていた。
貴美子は、まさかそんな事とは知らずに「1954年5月某日柳田和子さんは入院中でしたか?」としか聞いていないのだ。
こうして1954年5月某日、入院中である事が分かり、初美の母和子が井上幸子に成り済ます事など出来ない事が、立証されてしまった。
こうして入院を偽装工作に使い、柳田に成り済ましている事を隠し通す為に、初美の母和子は同年齢に近かった井上幸子と偽って、A氏に会いに行ったのだ。
そしてあの若いパンパン風の女性こそ、やはり初美だったのだ。
あの日、高級レストランで和気あいあいと食事をした後「ケンちゃん私が長岡時代のお友達に会うと言ったら、娘も是非とも会いたいと言っているのよ!新宿まで行ってくれない?」
どれだけ車を走せたのか暫くすると?
「新宿駅だけど……これからどこに行くんだい!」
「ああ~?そこの裏の路地に入ってくれない?」
東京だと言うのに、人通りの無い閑散とした路地に入って行った。
すると、そこに濃い真っ赤な口紅に、描き眉・マニキュアなどの厚化粧を施した、あの時代の象徴パンパンそのものの、若い女性と言うには憚れる、まだあどけさの残る女性が下品極まりないポーズでタバコを加えて、まるで男を誘うような眼差しを向けていた。
その恰好は、身を持ち崩したパンパンそのものにしか見えない。
「サッ!サ幸ちゃん君の娘さんかね?」
不安になり問い詰めるA氏。
「そうよ!止めて頂戴!」
そのパンパン風の女性の眼差しが一瞬鋭く光った。
「私、車のシ-ト倒して眠るわね!アヤ(偽名)後は頼んだわよ!社長のお相手?フフフフ」
この井上幸子に扮装した和子は、自分の正体を隠すようにシ-トを倒した。
実は初美は秘書課に勤務していたから、社長のお客様との付き合いの送迎も兼ねる事が有った為、運転免許証を取得していたのだ。
パンパン風の女性に変装した初美は、ワザとA氏と一緒だった事を、強調するかのように派手な自分と掛け離れた女性に変身していた。
それはどういう事かと言うと、A氏が店の従業員を送り迎えして何の不思議が有ろうか、疑う者など誰一人としていない日常の光景なのだ。
その為、髪の毛も金髪のかつらを被り、つけまつげを付けて、目は真っ青に塗りたくって、全くの別人になった初美なのだ。
助手席に乗った初美は、A氏に積極的に話し掛けている。
「社長さんと母が知り合いだったなんてビックリだわ?……初美ちゃんからA氏の事を聞いて母に話したら早速会いたいの一点張り!……私達は戦争の生き残りメンバ―として柳田さん一家と仲が良いんです。私はそこの娘、初美と同い年で大の仲良しなんです。……社長さんドライブしませんか?…私免許持っていますから社長さんは、私が買ったこのお酒でも飲みながら、この美しい街並みと母と3人で話しながら…良いでしょう?」
こうして若いパンパン風の女性に変装した初美が、運転をして車を走らせた。
やがてこの派手な女性は、あちこちで目撃されて、そしてその派手な行動が災いして、A氏をよく知る人物が東京湾近郊の公衆電話脇で、A氏の乗った車を発見していたのだ。
すると、いかにも目立つ派手なパンパン風の女性と話していたかと思うと、その若い女性は車から降りて公衆電話ボックスに入り、何やら電話を掛けていたと言うのだ。
深夜12時頃自動車に同乗していた初美は、実はあの時中年の何とも物騒な人相の悪い男に、電話していた。
それから初美は都内を突っ走り、爪跡を残したまま山梨県上野原市の人気の少ない、倉庫に向かった。
2時間弱も走っただろうか……?
するとそこには既に、電話を掛けた相手で、いかにも人相の悪い目付きの鋭い男が、車で待っていた。
美しい母和子に進められるがままに、あの当時はまだ缶ビ-ルやワンカップも無かった時代だから、お菓子や酒のつまみを買い、お酒は飲み易い入れ物スキットルに入れて、お茶とお酒を3人で飲みながらのドライブ。
勿論初美は運転中だから、お酒は飲んでいない。
母とA氏は話に花を咲かせながら、お酒を飲み交わしている。
と言っても体の弱い母はそんなに飲めないが。
こうして酔いつぶれたA氏を、目付きの鋭い男に引き渡した初美と母なのだが……?
実はこの人物は意外な人物なのだ。
そしてこの男が全てのシナリオを計画した男。
初美と母を、ワザとA氏と一緒だった事を強調するかのように、派手な格好をさせて、あちこちで目撃されるように仕向けていたのだ。
「こうしておけば初美ちゃんは絶対に疑われないから?」
これは言い換えれば、初美と母和子を目撃させて、この目付きの悪い男に犯罪の目を向けさせないという事も大いに考えられる。
例え厚化粧したって、絶対に分からないとは言い切れないので。
この男はとんでもない男⁈
だが、A氏の商売が商売だから、A氏が派手な女性を送迎に乗せるのは日常茶飯事。
完全なる盲点という事になる。
この男は「A氏の弱みを握っているから、酒を飲ませて良い気分にして話を進めるから!」と初美と母和子に再三「酒を飲ませるように!」と釘を刺していた。
こうしてA氏を黙らせて貰うべく初美と母和子は、お金を交換条件に倉庫で引き渡し別れた。
その目付きの鋭い男は、酔いつぶれたA氏と楽しげに車で走り去り、上野原市から目と鼻の先の神奈川県相模湖に着くと………?
もう夜も深まった深夜の2時をとっくに過ぎている。
ぐでんぐでんに酔っぱらって寝付いたA氏を乗せたまま、斜面まで運転して車外に出て身長の高い勇は手足も長いのでハンドブレ-キを外して、車ごと湖に突き落とした。
その3日後に、A氏は愛車と一緒に山あいの相模湖から、変わり果てた姿で発見されたのだ。
この人相の悪い目付きの鋭い男は、何故A氏を殺害したのか?
過去にA氏との間に何が有ったのか?
また「A氏の弱みを握っているから?」
とはどういう事なのか?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「フフフフ!これで何とか私達も逃げ切る事が出来たわね!」
初美と初美の母は安堵の表情を浮かべながら、胸を撫で下ろしている。
「まさかあんな事になるとは思わなかったのよ?よっぽどの恨みが有ったのかしら?」
「それでも……お陰で過去を知る唯一の人物がこの世から消えてくれたのだから~フフフフ!これで安心ね!」
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