第24話⁂初美の過去を知る人物!⁂


 石川県金沢市の高台にある中元邸は、冬ともなれば大雪に見舞われ、12月中旬のあの日も前日から大雪が降り続き、庭には1m以上の雪が積もっている。


「光男雪合戦しようよ!」


「いいよ!姉ちゃん、ヤロウ!ヤロウ!」


 まだまだ小さい5歳になったばかりの光男を、フワフワの雪の中に放り投げて、押し込みスコップで雪を積み上げ出られなくした小百合。


「お姉ちゃん出してよ!」


「ベ-だ!隠れん坊だよ!ここまで出て来なさい!」


 雪の中から出ようとするが、中々雪が深くて出れない。

光男は等々堪え切れずに「ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」泣きじゃくっている。


 小百合にしてみれば、最近特に光男ばかり可愛がる中元に対して軽い復讐心も混じった遊び半分、憎たらしさ半分で行った行為なのだ。


{フン!ざまあみろ!}


 自分にもっと振り向いて欲しいばかりの裏返しで行った行為が、のちのち取り返しの付かない大騒動になろうとは………?


 下の妹や弟ばかり可愛がる義父に小百合は、等々我慢が出来ずに

 5歳の光男を雪の中に埋めてしまったのだが、それでもあんまりだ。

 今まで会社の為に寝る間も惜しんで頑張って来たのに………。


 中元と貴美子は社長が下した、余りの不当な待遇に憤慨して延々と話し合っている。

 何とか回避する事は出来ないものか?


 すると中元が「…そういえば社長夫人の初美さんは会社ナンバー1の美人だったが、顧客のA氏が放った言葉で、あの頃まことしやかに、とんでもない噂がささやかれていたな~?…俺は顧客の書類も扱っていたが、その時にひょんな事から新潟県長岡市の大棚の造り酒屋の柳田さんの話が出て???……その時に娘なんか居なかった?」



 そう言えばあの日、甲信越地方の新潟県の物件を見せて欲しいと言う顧客の一人で横浜在住のお客様A氏が言っていた事を思い出した。


 A氏は、横浜市内にスナックやレストランを経営しているオ-ナ-なのだが、新潟県長岡市に戻って、ビル一等を買い上げてレストランやバ―、更にはクラブを経営したいとの意向。


 上顧客なので接待がてら何度か酒の席にも就いたことが有ったのだ。

 何度か会う内に、当然お酒主体の店を経営しているA氏なので酒蔵の話が出た事があった。


 その時に何軒かの酒蔵の話が出て来たのだが、その中に柳田酒造があった。


「地元に帰って店をオ-プンさせたら新潟市の酒蔵、高山酒造や千代姫酒造などから直接お酒を取り寄せようと思っている…上質のうちの店でしか飲めないお酒を、取り寄せれるからね!…私は長岡市出身で残念なことに1945年の大空襲で長岡は一面の焼け野原になり多くの人が死んだ…‥そういえば新潟で1~2を争う酒蔵で柳田酒造があったな~?……そこの息子と学年は違うが小学校が一緒だった」


「ああ~!そうですか?…そう言えば我が社の事務員で新潟県出身で酒蔵の娘さんがいます・・現在は、横須賀に住んでいる柳田と言う娘さんですが?」


「エエエエ―――――ッ!新潟県に柳田酒造は、確か1件しかない筈・・あそこの長男さんには…子供なんて居なかったと思うけど?……フ~ン?長岡市は、殆どが焼けたからね~?生きている人がいるなら一度会いたいものだよ?」


 また運が悪い事に、何故この中元が、直ぐにその柳田の名前が出たのかというと、実は初美に対して密かに淡い恋心を抱いていた。


 幾ら秘書課の美人といっても美人社員は他にも大勢いるのに、初美だけはしっかり覚えていた中元なのだ。

 中元が気付いてくれなかったら悲劇は起こらなかったのに……。


 中元は{同郷の人物と会いたいだって~?……その場を設ける事で、ひょっとしてあの憧れの初美に近づけるかもしれない?}


 ある日偶然にもエレベーターで一緒になった初美に、勇気を出して声を掛けた。


「アアッ!あの~?あなたって新潟県長岡市酒蔵の娘さんですよね?同郷のお客様が是非一度会いたいとおっしゃっているのですが?」


「あっ?ハッハイ!……チョットエレベーターから降りてお話しましょう!……良いですよ!」


 不動産屋だからお客様の要望に応えなくてはいけない。

 それも上客だったらなおさらの事。


 ○月○日午後1時から待ち合わせをして、お客様の元に向かう約束をしたにも拘らず、初美は体調不良でお休みしていた。


 それでも……これで一歩近づけたと思った中元なのだが、その思いとは裏腹に、あれだけ愛想の良い初美が、顔を合わせてもツンとして挨拶もしてくれなくなった。


{何故?一歩近づけたと思ったのにこの態度?}

 そこで心配になった中元は同じ総務部の同僚で人事部のHに「顧客の一人でスナックやクラブ経営のA氏が柳田酒造を知っているから同郷のよしみで、柳田初美さんと一度会いたいと言っているが?会って貰えないんだ?……あの子の事、詳しく教えてくれよ!ビル一棟が掛かっているんだ!」


「…まあ~守秘義務ってこともあるので……あまり言えないが……あの子どういう訳か?フィリピンの友達が多いんだ?……あの顔見て思わないかい……?あの子フィリピンの血が混じっているんじゃないのかい?……だから」




「あの時は、それだけで終わっていたが…」


「…でも社長が確か『初美は元は酒蔵の娘さんだ』と言っていたが…絶対に怪しい?・・・そんな良い家の娘さんが…あんな低所得者の住む地区に住んでいるなんて?」


「それは仕方ないだろう長岡は一面の焼け野原になったんだし?」


「それでも……な~んか引っかかる?調べる価値はあるわよ!造り酒屋の娘って言っているけど…あなた~?それって何か怪しい?ひょっとしてとんでもない事が隠されているかも知れないわね?徹底的に調べてみましょう」


「ウッフフフフ!それもそうだな?……あんなに頑張ったのに氷見支店の支店長代理だなんてあんまりだ……寝る間も惜しんで頑張ったのに酷すぎる!…よくも俺をコケにしてくれたな~!」


 そこで早速、A氏に会うべく、新潟県新潟市のレインボービル新潟に向かった。

 だが、社長は既に他界しており、あの当時を知る者には辿り着けなかった。


 あれだけの大空襲で長岡市一帯が、焼け野原になったので無理もない。

 唯一の柳田酒造家族を知る人物だったのに

振出しに戻った2人なのだが……?


 それでも収穫はあった。

 社長の死因は不審死。

 それも……その直後に会っていた人物こそ?

 それは?











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る