第49話 シェアハウスに夏が来た③
その後みのりさんは、彼女たちにどこで知り合ったのだとか、どうやって親しくなったのだとかいろいろ訊かれたそうだ。当たり障りのない答えをしてごまかしたそうだが、しつこいのでこう切り返したそうだ。
「そんなにいろいろ聞くんじゃ、今度二人の彼氏にも会わせて! どの人たちかは知ってるけど、一緒に食事でもしようよ。私もう吹っ切れたから」
すると、二人は言いにくそうに答えた。
「あ~ん、それはまたいつかににしよう
「どうして~~、付き合ってるんだからいいでしょう? あれだけのろけてるんだもの」
「それがね……」
さらに言いにくそうに答えた。
「実は……付き合ってなかったの。だから……だから……」
「えええええ~~~~~っ! 嘘だったの~~~~! 付き合ってるっていうのは~~~!」
「……まあ、それに近いかなあ……」
「会った時は私てっきり、二人ともすぐカップルになったのかと思ってたんだけど……」
「その時はよかったのよ……そして一度だけデートもしたけど……」
「じゃ写真は」
「その時撮ったんだけどね」
「次がなかったってこと?」
「まあ……なんというか」
「まったく、あなたたちときたらあ!」
なんだ、二人のウソに騙されて私だけがやきもきしていたんだ。
とみのりさんは可笑しくなったらしいが、僕たちのことは黙っていたそうだ。もう少し様子を見て種明かしをするといっていた。
「夕希君、今度はあの二人が私のことを羨ましがってるわ。ちょっと懲らしめすぎかな」
「まあ、頃合いを見計らって種明かしをしてください」
「そうね、もう少し悔しがらせてからね」
みのりさんはいたずらっぽく笑う。たまにはこんなことがあってもいいか。
畑の方では野菜が暑さとともに順調に育っている。茄子がどっさり取れたそうで、こちらへもおすそ分けが来た。持ってきてくれたのは亜里沙ちゃんだ。
「沢山採れたから、おすそ分けで~す。二人じゃ食べきれないので、皆さんでどうぞ!」
「おお、こんなに育って、かわいい茄子!」
「そうよ、夕希君も一緒に面倒を見てくれた茄子」
「採れたてはみずみずしいね!」
「そう、早めに食べてね」
みんなで相談し、今日の夕食はマーボーナスになった。作るのは定時に帰れるみのりさんと萌さんだ。日南ちゃんが手伝いをする。何かあったときに料理してくれるのはみのりさんが多い。ひき肉や長ネギなどほかの材料を買いに行くのは僕の仕事になり、昼間準備した。
夕方になり、みのりさんと萌さんが帰宅して準備を始める。日南ちゃんは必要とあれば手を出すことになっている。僕と日南ちゃんは椅子に腰かけてスタンバイしていた。
「日南ちゃん、最近みんなと会ってる?」
「……あんまり。亜里沙ちゃんには会うけど」
「隣だもんね」
「夕希君は?」
「僕は、一度サークルのメンバーに合ったきり。上村君はアルバイトで忙しそうだし、香月さんとは……」
実は時々会っているのだが。
「彼女はこれから実家へ帰るって」
「そうなの……夕希君、実家へは帰らないの?」
「僕は、こっちでバイトをするつもり」
「へえ、アルバイト。どこでやるの?」
「スーパーで。何をするかは決まってないけど、多分品出しとか、荷物運びとか、力仕事だと思うよ」
「そうなの……いいわねえ」
「日南ちゃんは実家へは?」
「一度は帰るつもり」
「そうだよね。その方がいいよ。心配してるだろうから」
「心配なんかしてないだろうけど……」
「……してるよ!」
「……してない」
「……そうなの……」
変なところで絡むんだよな、彼女。
彼女が帰れば、僕の実家のある街の様子も聞けるから知りたかったんだけど。まあ、そのうち僕も一度は帰ろう。
野菜などの下ごしらえが終わったようで、フライパンに火が付きじゅっと音がしてきた。油や調味料の匂いが立ち込める。
「わあ、どんなのができるか楽しみだ!」
「もう、マーボー茄子はマーボー茄子よ。どんなのも何もないわよ」
萌さんが答える。フライパンを握っているのはみのりさんだ。
「さあ、ひき肉を入れて、萌さん!」
「よしきた! ほれっ!」
「おお、いい音!」
軽快な音がする。
「次に茄子よ!」
「はいっ、投入!」
「簡単よお! ほらっ!」
僕と日南ちゃんは立ち上がり、フライパンの中を覗き込む。おお、どんどん茄子が柔らかくなり、つやがよくなる。
「さあ、もういいかな。出来上がりっ! お皿に盛って……は~い、どうですかあ!」
熱々のマーボー茄子から湯気が立つ。
「うう~~ん、おいしそう」
日南ちゃんがご飯とみそ汁をよそい。僕が四人分並べた。
「さあ、いただきま~~す!」
「うわっ、おいしい!」
みのりさんがウィンクした。
「あれ、あれ~~~っ! なんか二人でいい雰囲気!」
萌さんが冷やかす。
「どうしたのかなあ~~!」
「いえ、僕はみのりさんの料理のファンなので」
「そうよね、みんなみのりさんの料理は好きよね。仲良く食べましょ! 日南ちゃんも元気出して、食べよっ!」
「は、はあ~~~いっ」
やっぱり日南ちゃんもおいしいものには目がないんだ。
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