第92話 離れ離れ4

 木の陰に隠れなんとか攻撃をかわしていた。

 シーリの馬は騒ぎに驚いて逃げ出した。

 

「アウロラ!早く行きな、ここで抑えておくから!」

 

 彼女は火球を避けながら二人の魔術師に近づき剣で攻撃しようとしているがあまり上手くいってない。相手は遠距離攻撃だから剣ではなかなか近付けない。

 私は地面に転がる手のひらサイズの石をいくつか拾うとシーリを見た。

 

「私が援護するからスキを見て攻撃して。」

「そんな石ころで戦うつもり?背中の剣は?」

「剣は使った事無くて、自分の足を切っちゃいそう。いい?」

 

 木の陰から飛び出すと魔術師めがけて石を投げつけた。

 

「ギャ!」

 

 スキルで思い切り投げられた石は結構な威力を発揮し二人のうち一人の魔術師の頭に命中するとバッタリ倒れた。

 

 突然隣の男が倒れた事に驚いた残りの一人にシーリが斬り込んだ。

 素早い攻撃で腕に傷を与え倒れた所にもう一太刀振り下ろそうとした時、さっきまでのとは比べ物にならない強力な火球が襲いかかり彼女は吹き飛んだ。

 

「シーリ!」

 

 慌てて駆け寄り引きずると木陰に引っ張り込んだ。とっさにマントで少しは防いだようだが酷い火傷を負っていた。私はベルトからポーションを取り出し彼女にかけた。

 

 あの年老いた男が放った魔術はカトリーヌと同格な感じだった。

 

「ありがたいけど早く逃げろ。あのジジイ、相当の手練れだよ。」

 

 シーリにポーションをかけたがまだ完全には火傷は治りきらず、痛みに顔を歪ませながら彼女は言った。

 

「わかってるけど馬が逃げちゃってるし。それにあなたも逃げた方がいいのに逃げないじゃない。」

「私が逃げたらあいつらずっと追いかけて来そうだからね。…ベトがヤバくなる。」

 

 シーリが立ち上がって向こうの様子をうかがった。

 

「あいつが好きなの?チャラそうだけど。」

 

 私の言葉にムッとする。

 

「別にいいでしょ。あんたのだって髭面男じゃない。」 

 

 痛いとこ突くなぁ。

 

 話している最中に、私達が隠れている木の周辺を丸く炎の壁が覆った。

 

熱いあっつい!!」

 

 まだ炎から離れているが髪が焦げそうだ。

 

「女、そこで二人共死にたくなければ出て来い。冒険者は逃してやる。」

 

 嘘だな、当たり前だけど。

 

 私はまた数個の石を拾う。

 

「私が前から出るから、そのスキに後ろから逃げて。」

「そんな訳にいかないだろ。どうせ逃げ切れない。だったらいっそ…」

 

 シーリと私は顔をみあわせて笑った。

 

「早く出て来い、焼け死ぬほうがいいか?」

 

 囲っている炎の輪がグッと縮まった。早くしないとホントに焼き殺されそうだ。

 

「行くよ!」

 

 シーリの合図で二人で魔術師の方へ飛び出した。

 彼女は上から、私は足を狙って突っ込んで行ったが二人共あっさりかわされた。ここまでは想定済み。

 私は更に踏み込んで飛びかかり男の腕を取って放り投げた。が、年の割に身軽なのかくるりと身を返し着地するなりつぶてが飛んできた。

 

 土の魔術!?こんな魔術もあるんだ!

 

 今まで炎しか見てこなかったから完全に意表をつかれた。ビシビシ体に当たるそれを必死に避けながら木を盾にしようとした瞬間頭に直撃を受け転んだ。

 

「アウロラ!」

 

 離れた場所からシーリが叫んでいるが痛さと流れ出た血が目に入りどこで呼んでるかわからない。

 

「私はいいから行って!」

 

 倒れた場所から這うように木の陰に入って叫んだ。木を背にしよろけながら立ち上がりポーションを探っているとさっきいた奴の部下二人のうちの一人が現れ殴りつけられた。

 

「アイツは死んだぞ、お前も後で殺してやる!」

 

 何度か殴られ唇が切れて血が飛ぶ。意識が遠のきかけ倒れたところを男に担がれ連れて行かれた。

 

 薄っすら開けた目でシーリを探すと地面に倒れているのが見えて、さっきのジジイが攻撃しようとしてる。

 

「待って…その人を殺さないで…」

 

 なんとか声を絞り出すとジジイが面白そうな顔をした。

 

「お前達をハメた女をかばうのか?まぁいい、これで勘弁してやろう。」

 

 そう言って棒状の細い矢のような物を魔術で作り出すとうつ伏せに倒れているシーリの背中に突き刺した。

 

「ウグッ…」

 

 シーリは体をビクリとさせると動かなくなった。

 

「死んだか?仕方ない。だがお前にはまだ用がある。」

 

 私を担いだ男はシーリの側によると隣に投げ捨てるように落とした。

 

「グッ…」

 

 痛みで声が出ないが片目でジジイと男を見上げた。口の中に鉄の味が広がる。

 

「ひどい顔だ、これじゃ話も出来んじゃないか。」

「申し訳ありません、つい…」

「優秀な奴隷というのはなかなか見つからんもんだ。その点お前はどうやら優秀らしいな、女。名前は?」

 

 私は無言でジジイを睨みつけた。

 

「おい、答えろ!もっと酷い目に合わせてやってもいいんだぞ。」

 

 奴隷の男は私の髪を掴み持ち上げると顔を近づけて来た。

 私は口に溜まっていた血を男に吹きかけた。

 

「うわぁ!コイツ…」

 

 それは男の目にかかり私の髪から手を離すと立ち上がり顔を拭いながら後ずさった。そのすきをついてなんとか体を起こし奴隷の膝を蹴りつけた。膝は変な方向へ曲がり男が悲鳴を上げる。

 ベルトからポーションを取り出しシーリの背中の矢のような物を抜きそこへかけた。シーリはピクリと動き出し咳き込んだ。

 

 良かった生きてる。

 

 そう思った瞬間背中を踏みつけられまた地面に倒された。

 

「面倒な女だな。だが使えるか…」

 

 ジジイは私を足で仰向けにすると手のひらに炎を浮かべそれを近づけてきた。

 

「私の奴隷になれ、そうすれば命を助けてやる。」

 

 ジジイの後ろで奴隷の男がわめきながら膝を抱えている。

 

あるじ、私に殺させてください!」

「駄目だ、こいつは私の魔法陣を壊した。あれを作るのに一体どれほどの時間と魔術師の命がかかったと思ってる。だがこいつはどうも何かある、さっきから戦い方を見ていても普通の女じゃない。今のうちに取り込めば役に立つだろう。」

 

 不満気な奴隷を抑え私を座らせると更に炎を近づけジリっと前髪を焼く。顔がヒリヒリと熱く痛むが私は睨むのを止めない。

 

「熱烈にお誘い頂いたけど私は既に契約済みなの。」

 

 首を傾け鎖を見せた。

 

「そこらの魔術師の契約など私が破棄してやる。」

 

 そう言って鎖の先の石を引っ張り出し人差し指と親指で持つとジジイは停止し、脅しでつけていた炎も消えた。

 

「カトリーヌか…」

 

 一瞬顔を引きつらせたがニヤリと笑い、ペンダントの鎖をギュッと縮め首を締めてきた。

 

「カトリーヌの奴隷か、どうりで優秀だな。」

「奴隷じゃない…弟子…」

 

 首を締められあまり息が出来なかったがちゃんと否定した。奴隷だなんて酷い。

 

「どっちでも同じだろ。奴の物など見つけしだいすぐに壊してやる。」

 

 カトリーヌ!なんてとこで怨み買ってるんだよ。このまま死んじゃう…

 

 グイグイ締め付けられ息が出来ず、もがいて抵抗しているがスキルも上手く使えず段々と顔がうっ血してくるのがわかる。意識も遠のきかけ諦めそうになる。

 

 どうせ死ぬなら最後に一発!

 

 私の手にはさっきシーリから抜いた矢のような物が握りしめられていた。それを無我夢中で突き刺した。

 

 矢はジジイの肩に刺さり驚いて私の首を締める手が緩んだ。

 

 ヒューっと喉を鳴らし空気が肺を満たす。せっかく吸い込んだが肺はもう死んだ気になっていたのかちゃんと空気を取り込めずゴボゴボ咳込み呼吸が苦しい。

 へたり込んでいたがなんとか起き上がりジジイに目をやると、お怒りの魔術師は肩の矢を抜き地面に叩きつけるとこちらを睨んだ。

 

 これはヤバい! 

 

 ジジイから目を離さず手でシーリの体を探ると足に触れ、太もものベルトにある数本の投げナイフを探り当てた。そこから一本取り出しジジイめがけて投げたがギリギリで頬をかすめ避けられた。

 

「カトリーヌの奴隷に手加減は無用だな。」

 

 頬の血を拭ったジジイが炎を出した。

 

 この距離じゃ避けきれない!もう駄目なの!?

 

 その瞬間私の背後からビュンと音を立てキラキラ輝く何かが飛んできてジジイとその炎に向かった。ガラスが砕けるような音がし炎は消えジジイが飛び退しさった。 

 

「動くな!!」

 

 その声を聞いてまた息が出来なくなった。

 

 いつの間にか側にいて私の背中の雷鳴の剣をスラリと抜くとそのまま斬りかかるライアンと一瞬目があった。

 

 

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