第81話 脱出2
子分らしき一人は私の裸を見ていなかったのでそいつに尋問開始だ。
「誰が私達をここに飛ばしたの?」
男は首を横に降った。
「オレは雇われの身だ。トップは知らない、言ってみれば荷物運びだ。この場所にお宝を運ぶ為だけに雇われたんだ。ここに来るには魔術がいるからな。」
どう見ても下っ端のこの男は嘘は言ってないようだ。
「お前ら以外にあとどれくらいの人数がここに出入口してる?」
「正確な人数は把握してないが数人だろ。定期的に入れ替えてるようだし。」
「入れ替える?」
私は話を聞きながら気絶している男の一人のマントを取るとライアンに投げた。ついでに服を奪おうとしたが臭いので止めた。一人はマフラーを身に着けていたのでそれも奪うとドマニに渡した。
「あぁ、多分新しい奴を入れたらオレたちも殺されるはずだ。だからオレは機会を狙って宝を奪って逃げる予定だったんだ。そしたらコイツらに気づかれて付いてきたんだ。」
今回、私がルフを倒した事によって何か騒ぎになると思ったコイツは、一足先に逃げようとしたがここで私達に捕まったらしい。
「オレはフリオだ、頼む助けてくれ。なんでも言うこと聞く、自分で言うのも何だが結構使える。」
縛られながらも急に就活されても困る。ライアンを振り返ると彼も笑ってる。
「一度裏切った奴は何度でも裏切る。こっちにつくなら奴隷しか選べんぞ。」
それを聞いた男は黙り込んだ。奴隷となるなら契約に縛られる。すきを見て逃げることも出来ない。
でもとにかく今はこいつに魔法陣を動かしてもらわなくては帰れないし、コイツも裏切りがバレるからここから逃げなくてはいけないだろう。
「ルフが死んだ事は報告したのか?」
「いや、まだだが定時報告の時間が過ぎてるから今頃バレてるかもしれん。早くしないと次の魔物が送り込まれてくるぞ。」
「次の魔物ってどういう事だ?」
まるでいくらでも財宝を守る為の魔物の変えがきくような言い方だ。
「どういうやり方か知らないが組織の中に魔物をあやつれる奴がいるらしい。」
「嘘をつくな!そんなわけ無いだろ。」
ライアンは頭から否定したが私はカトリーヌとレブと一緒に操られたケルベロスと戦った事がある。
「ライアン、それ本当かも。」
庭に巨大な蜘蛛だっていた。後でやり方を聞くってカトリーヌが言ってたし。
蜘蛛を思い出し背筋にゾワッと寒気が走る。
詳しい内容はここでは話している時間は無いが、私の言葉でライアンはすぐに動き出した。
フリオを連れ馬車に押し込むとドマニを呼んだ。チビは私達が話してる間に洞窟からまた何か持ってきたのかポケットがパンパンだ。
「クソッ、時間が足りねぇ。また戻ってこれるか?」
この場所は子供の教育に悪そうだ。
「戻ってこれてもあんたは連れて来ない。」
チビも馬車に押し込み私も乗り込むとすぐにライアンが馬車を操り魔法陣へ向かった。
「転送先はどこなの?」
ここから出てもすぐに見つかれば意味が無い。
「すぐの転送先は奴らの研究所の中だ。荷物を積んだ馬車を止める場所だからそれほど見張りはいない。本来ならオレたちの内の誰かが待機してるはずだったが、三人で来てしまったから誰もいない可能性はある。だがバレていたらマズイな。」
もしかしたら待ち伏せされてる可能性がある事を馬車の小窓を開け御者台のライアンに告げた。
「着いたらすぐに研究所の外へ出る道を教えろ。お前だって命が惜しいだろ。」
「もちろん助けてくれるなら教えるさ。後で始末はしないでくれよ、ついでに縄を解いてくれれば逃げる時に協力するぞ。研究所の警備は厳重だから一人じゃキツい人数だと思うぞ。」
「縄は自分で切れるだろ。はずすのは構わんが逆らってもいいこと無いぞ。ユキは希代の魔術師カトリーヌの弟子だからな。」
御者台に向いていたフリオは首が千切れるかという程の勢いで振り返った。
「カトリーヌの…弟子…お前魔術師だったのか?」
「違うけど弟子なのは本当。」
私はネックレスの鎖をクイッと引っ張り出すとトップに付いている赤い石を見せた。フリオは慎重な手付きでそっとそれに触れた。
「これは…一流の拘束契約術が施されているじゃないか。」
「ちょ、ちょっと待って。拘束契約術ってなに?」
拘束って…弟子のハズだよね。なによその恐ろしい言葉、奴隷とは違うって言ってたのに。
「契約内容を確認しただろ?その時の条件にどれ程の範囲、期間、重要性を加えるかは術者の力量で決まるからな。カトリーヌともなれば最高の拘束力で契約したはずだ。凄いな、どうやって魔術師でも無いのに弟子になったんだ。羨ましい〜。」
「だから他の人のと何が違うの?」
「分かりやすい所で言えば契約違反した時に現れる罰則の強烈さとかかな。」
ちょっと息苦しくなってきた。そう言えばレブが合図で心臓止まりかけたって言ってた。
「それは奴隷の契約よね。」
「いや、弟子にだってするさ。弟子から秘密が漏れるかもしれない時は止めれるように。」
私って秘密漏洩防止のために今死んでもおかしくないって事?
「ホントなのライアン?」
「契約だからな、違反しない様に拘束しなければ意味が無い。まぁ、カトリーヌはあぁ見えて優しい部分もあるから大丈夫だ…多分。」
「多分じゃ困るんだけど!」
私の慌てようにフリオはワケがわからないって顔をしている。
「魔術師の弟子のクセに何も知らないのか?」
「魔術の弟子じゃなくで最ダンの弟子みたいなものだから。」
「最ダン!?アンタ達最ダンで働いているのか?」
「知らないの?私達の事。」
フリオはどっと疲れたように椅子にもたれた。いつの間にか縄は外して頭を抱える。
「何だよ、プラチナ国の者だとは聞いていたが。最ダンの受付けなんて適うはずない。冒険者たちの噂じゃ勇者に準ずる者がいるっていうじゃないか。」
やっぱり…ライアンは勇者に準ずる者だったんだ。
勇者エクトルの弟子だもんね、でも隠してたんだ。何故だろう?
「私はただの受付けよ、新人なの。」
「ただの新人がカトリーヌの弟子になるわけないだろ。」
そう言われればそうか。カトリーヌの弟子って言った瞬間に私は普通じゃないってバレるんだ。
「スゲー、勇者に準ずる者だったんだ…」
話を聞いていたドマニがキラキラした目でライアンの方を見ている。彼の姿は御者台の小窓から見えているし、こちらの話は聞こえているだろうが振り向かない。否定する気はないようだ。今はそれどころじゃないって事か。
「もうすぐ魔法陣だ。」
ライアンが言ったその時、薄っすらと明るくなってきた森に咆哮が聞こえた。
「来たか。」
舌打ちしながらさらに馬車を急がせたがそれは私達の後方からもの凄い速さで迫って来ている。
「倒したのよりデカい!」
馬車の窓から顔を出してかくにんすると、私が以前レブと倒したモノよりもデカいケルベロスがこちらに向かって突っ込んでくる。
「ユキ!前に来い!」
ライアンが叫び、慌てて小窓から御者台へ移動しようとしてお尻がちょっと引っかかった。
「嘘!」
「どこから来るんだ、早くしろ!」
「やだ、抜けない!」
実際にはベルトが引っかかっていたのだが見た目はお尻が引っかかってる感じだ。
焦る私にライアンは手綱を渡してきた。
「遅い!コレ持ってろ、すぐ済む。」
そう言い残しライアンは御者台から飛び降りた。私は馬車を任され初めての手綱に戸惑いながらも必死で操っていると、後でもの凄い衝撃と同時に稲光がした。
それは馬車まで影響し馬が動揺して立ち上がり焦ったがライアンが戻って来て私から手綱を奪い馬をなだめた。
耳鳴りがしていて戻ってきた彼が何を言っているのか全く分からなかったが、どうやら後ろに下がれと言っているようなので小窓から引っ込むと、馬車の中ではドマニとフリオが絶句したまま目を見開いて座っていた。
ホント、人がなんとか必死に一体倒して喜んでいたのにあんなあっさり殺られると耳と心臓に悪いよね。
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