第46話 ファウロスの活躍

 中級の騎士達は手続きが終わり訓練場に行く時、三人の冒険者の横を通る。自分達よりもレベルが上の彼らをチラ見するだけの者もいればあからさまに睨みつける者もいた。冒険者は出来るだけ視線を合わさず三人で小さな声で話し、大人しくしていた。

 同じ冒険者でもライアンとは大違いだ。こっちが大多数の冒険者の態度だろう。奴は勇者の弟子だから仕方ないか、自信満々だもんね。

 

 朝の手続きをすべて終え後は時間が来れば順番通り案内するだけだ。私は待機室から時々冒険者の様子を伺っていた。

 

「ここでは大丈夫だろう。昇段試験で問題を起こせば自分達の評価が下がるだけだからな。」

 

 モーガンが私の側に来るとそう言った。

 

「問題はダンジョンの中ってことですか?」

 

 彼を見上げるとこちらを優しそうな顔で見下ろしていたのでちょっと驚いた。慌てて視線を冒険者に戻し平静を装う。

 

「それも同じ階にでもならん限りは心配ないだろう。…体調は大丈夫か?」

「えぇ、お陰様で大丈夫です。」

 

 そう言うとモーガンは私の耳に口を近づけそっと囁いた。

 

「ライアンが随分ユキの事を気にしているようだな。」

 

 耳に響く低音がくすぐったい。

 

「そうですか?腕を切るのが嫌だったんじゃないですか?」

「そうだ。だが他の者にはやらせなかった。」

「それがどうかしたんですか?」

「下手な奴に任せたくなかったようだ。今までそんなに気にした女性はいなかった。」

「モーガン様が知らないだけじゃないですか?結構モテるそうですよ。」

「知っている、あの不精ヒゲは女除けだ。」

「効果有りですね、私もヒゲって嫌いです。」

 

 ニッコリ笑いその場から移動した。そろそろ次の騎士を案内する時間だ。モーガンが一体何を言いたかったのかわからないが、聞いてもいい事無い気がする。

 

 訓練場へ行き騎士を案内し、また待機室へ行こうとした時モーガンが救助要請に向かう準備をしドアから出て来た。

 

「どこへ?」

「レベル38だ、後を頼む。」

「はい、気をつけて下さいね。」

 

 軽く手を上げモーガンが救助専用のドアへ入って行った。私はすぐに待機室へ行くと地図をチェックした。モーガンが向かったレベル38が大きく映し出されマルコとファウロスが見ている。

 

「魔法陣から遠いですね。」

 

 地図上の赤い点からモーガンを示す光はかなり離れている。

 

「みな用心して早目に要請してるはずじゃから大丈夫じゃろ。」

 

 そう言いながらもマルコは地図から目を離さない。すると待機室の明かりが二度点滅し、私はすぐに画面を操作し赤い光が見える地図を先程の地図と並べた。

 

「中級ですね、レベル25なら私達で行きますか?」

 

 マルコにそう言うと彼は首を横に振った。

 

「いや、ファウロスはここの扱いに慣れておらん、ワシが残るからユキと二人で行ってきてくれ。」

 

 え!奴と二人…本気で嫌だな。

 

「行くぞ、ユキ。」

「はぁ…はい。」

 

 思わずため息ついちゃったよ。

 でも文句は無しだ、とにかく早く行ってあげなきゃ。

 

 二人で救助専用の魔法陣に立つとすぐにレベル25に転送された。ファウロスは駆け出すと私もそれに続いた。彼と一緒にダンジョンをうろつくのは初めてではないが一緒に仕事するのは初めてだ。

 

「待って下さい、早すぎます。」

「これくらいは付いて来い。救助を待ってる奴がいるんだぞ。」

 

 普段と違い真剣な表情にちょっと驚いた。結構真面目ですか?

 

「ゴブリンだ、一体頼む。」

 

 足を緩める事なくファウロスは斬りかかった。私もスッとスキルを使える状態にしグローブをはめた手をキュッと握るとゴブリン一体をぶっ飛ばした。

 

 ちゃんとキレイに始末出来たよ、私も成長したな。

 

 残り二体はファウロスが切り捨てそのまま走り続けた。私達の前を行く赤い小さな光を追っているとマルコから連絡が入った。

 

「救助対象が移動しておる。追われておる感じじゃ。」

 

 頭の中に声が響く。

 

「ここからまだ遠いですか?」

「もうすぐのはずだが、まだ確認できない。」

 

 ファウロスが答えた。

 

 一瞬で地図覚えてたの?凄いかも…

 

「もう少し先に移動中じゃ。」

 

 マルコがそう言った後すぐに右に曲がった先に動くものが見えた。どうやらオークが群れで襲っているようだ。このままでは追われている騎士が危ない。私は落ちている手頃な石を掴みオークの群れ目がけて投げると気を引いた。それは一体のオークの頭に当たった。

 

「オーイ、こっちに来い!ファウロス様が相手になってくれるわよー!」

 

 どうせ魔物は人の言葉がわからない。なんて言っても同じだろ。

 

「勝手に人を使うな。」

 

 ムッとされたが効果があり、二体のオークが振り向くとこちらに向かってきた。前を走っていたファウロスが一体に斬りかかりもう一体を私が受け持つ。

 

 ちょっと本気でやんないとな。

 

 顔面と腹に攻撃し倒れた頭を踏みつけた。ファウロスはまだオークに粘られてるが先に行き騎士を追いかけているオークに追いつくと肩をつかみ後ろへ投げた。

 

「ファウロス様!行きましたよ!」

 

 確認するとさっきのは倒していたので投げた一体は任せて次へ向かった。

 

「ちょっと待て!まるでオレはお前の尻拭いじゃないか!」

「私は研修中なんです。少しは面倒見てください。」

 

 まだ数体のオークが騎士を追っていてファウロスからどんどん遠ざかって行く。これ以上離れるのは良くないだろう。

 

「救助に来ました!止まって下さい!」

 

 前を行く騎士の姿は見えないが声を張り上げ叫んだ。すると聞こえたのか急に魔物達が走るのを止め何かに群がり出した。

 

 やばいかも。

 

 急いでそこに行くと倒れた騎士が必死に折れた剣で抵抗していたが捕まり壁に打ちつけられ腕を引き千切られていた。

 

「ぐわぁー!止めろ!止めてくれー!!」

 

 騎士の悲鳴に一瞬たじろぐとすぐ横をファウロスが駆け抜けオークに斬りかかった。

 

「何やってる!早く助けろ!ハイポーションだ!」

 

 怒鳴り声で我に返り急いで一体のオークを騎士から引き剥がし壁に投げつけ始末すると今度は騎士を掴みオークの群れから引きずり出す。ファウロスが援護してくれている間に急いで騎士にハイポーションを飲ませもう一本開けると千切れた肘にかけた。

 

「ぐぅ…」

 

 ハイポーションをかけられた腕は瞬時にズルリと新しいモノが生えるように伸び、きっちり指先まで元通りになった。

 

 うぇ〜、グロくてキモい。私の肩もこんなだったの?

 

 思わず寒気が走り身震いした。

 

 あの時意識がなくて良かったよ。見てたら絶対に吐いてた。

 

 騎士の回復した様子を見てファウロスは予備で持っていたのか、短めの剣を渡し戦いに加わるように促した。

 

「動ける奴は戦え!」

 

 一人で数体のオークを相手にしていた彼にも疲れが見える。私も戦いに戻り三人がかりでオークの群れを倒し何とか助かった。

 

「終わったようじゃな。早くその場を離れろ、そのまま先に行くほうが魔法陣に近い。指示するから急げ。」

 

 マルコに急かされ駆け足で魔法陣へ向かい到着するとすぐに転送され帰還した。

 

「助かった。ファウロス、ありがとう。」

 

 ホッとした騎士は同僚の者同士、笑顔をかわす。そして私に振り返るとニヤリとした。

 

「ユキ、やはりお前は普通じゃないな。まだファウロスに決めていないなら私に付かないか?」

「はぁ?」

 

 思わずムッとした。

 

「別にファウロス様とは何も決めてませんが、誰にも付く気もないです。」

 

 そう答えるといきなりファウロスが私の腕を掴み部屋から連れ出すと待機室へ入れられた。

 

「ちょっと何するんですか!まだ手続きが残ってます。」

「そんな事はマルコにさせればいい!少しは気をつけろ!騎士達の間ではお前が普通じゃない事は広まり始めてる。つまらん奴に関わるな!」

 

 猛然と怒り始めたファウロス。

 

 お前は嫉妬深い彼氏か!

 

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