第47話 借金再び
呆れて半笑いのマルコが見守る中、私とファウロスが睨み合っていた。
「誰に付く気もないですし、私がどうなろうがあなたには関係無いですよね。」
「私が最初に声をかけたんだから他の奴らの話を聞く必要はないだろ!」
何いってんだコイツ。
「話も何も仕事をしてるだけです。邪魔しないで下さい。」
「お前は借金の為にここで働いていると聞いたぞ。それは私が払ってやるからここはもう止めろ。」
それまで黙って聞いていたマルコがその言葉を聞いて急に口を挟んだ。
「ファウロス、それは聞き捨てならんぞ。ユキはここでワシが預かると話がついておるはずじゃ。父上に聞いておるだろ。」
えぇ?そんな事になってるの?
私はマルコの言葉に驚いた。マルコによればカトリーヌが、ヒュドラ討伐時の私の様子を見てやはり放置は出来ないと判断したようだ。
「お前を貴族が欲しがることは目に見えておる。じゃがユキはそれを望んでおらんし揉める事は確実じゃろ。一旦、最ダンで預かる事となった。今ここを辞められてはまた運営が難しくなるからの。ユキは借金の返済が済むまではここにいなければならん。これは国王も承知しておる。」
生まれて始めて借金があって良かったと思ったよ。けど…あれ?
「もしかして住む場所も…」
「じゃからカトリーヌがこの上に用意しろといったんじゃ。ユキはカトリーヌにも借金があるじゃろ。」
「カトリーヌさんに借金なんかありました?」
キュロットとブーツとムカつくけどお陰で命拾いしたビスチェのお金は確かマルコからの借金だったハズ。
「ヒュドラ討伐にカトリーヌを連れて行ったじゃろ。」
「えぇ、確かあの時スキルを言えば…格安で…行ってやるって…」
そうだ…
「それ、お幾らですか?」
嫌な予感をゴックリ飲み込んで聞いてみた。
「カトリーヌはかつてエクトルと一緒に魔王討伐に行った優秀な者じゃからな。」
魔王討伐とか、勇者と一緒に戦ったとか聞いた時は凄く心強かったけど今となっては付加価値が有り過ぎて恐怖でしかない!
青ざめる私を見てファウロスが馬鹿にした目で見てくる。
「そんな事も知らずにカトリーヌを雇ったのか?」
いや、雇ったというか、雇わされたというか、どちらかと言うと私が連れて行かれたと思ってたんですけど。作戦会議にも参加してないしオトリにも使われたし。
ライアンが手配しようとした魔術師で五百って言ってた。当然それ以上だよね。
「五百
「当たり前だろ。カトリーヌ程の魔術師を雇うのは余程の富豪か国だ。私が聞いた話じゃ数千万だったぞ。」
「数千…で、でも格安で良いって言ってましたよ!」
「半額でも一千万は下らんだろ。」
オワタヨ…この手に残ったのは借金だけだよ。家を買ったわけでも高級車を買った訳でもないのに一千万以上の借金が…
魂が抜けるのを感じた…
「ユキ、どうした?何を呆けておる。」
急にモーガンの低い美声が聞こえてハッとした。
「モーガン様…私は一体どうなってしまうんでしょうか…」
「なんの話だ?」
「私の借金の事です。」
「あぁ、カトリーヌに千五百万の借金があるんだったな。」
「せんごひゃくまん!!」
千五百万稼ぐ為に行くのに千五百万かかっていたの?
突然、自分に降りかかる火の粉を避けながらヒュドラの尾を掴んでいた時のことを思い出した。
あの時カトリーヌは火の魔術で火球を幾つ出しただろう。あれ一個いくらだったんだろう。百万くらいかな?もし首の切り口を焼くだけだったら九百万ゴルで済んだんじゃないだろうか。
それ以外に私に襲いかかろうとしたヒュドラに攻撃したり生焼けだった最後の首に強烈な攻撃をした分とか加算されてるんだよね。
そう考えれば格安とも言えるのかも。命の値段だよね、生地獄かもしれないけど。
頑張れユキ、ファイトだユキ。上手く行けば三万ずつの返済で…四十四年と九ヶ月で返せる。
ヤバい、泣きそうだ。
「ユキ、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
「だ…だい、じょう、ぶ、です。ちょっと今日は衝撃的な事が発表される日だったようで、理解が追いつかないだけです。」
突然予告も無く私の借金額を知らせてきたモーガンは全然悪くないんだけどちょっとムカつくのは何故?
レベルを上げれば良いんだ、そうすればきっといつか完済出来るはず。
「ちなみに上級レベルで給料はお幾らなんですか?」
私は自分を保つ為にいい話を聞きたくてマルコにすがった。
「そうじゃな、上級に上がった時点で一月五十万程かの。」
「えぇ!そんなに!だったら借金返済も夢じゃない…」
急に目の前がパッとひらけた気がした。
それだけあればきっとすぐに返せる!
俄然ヤル気がでた私はやっと自分を取り戻した。
「元気になって良かったのぉ。さっきはガックリと項垂れたまま何を聞いても返事がなかったからの。」
「ご心配おかけしました。もう大丈夫です!借金地獄からの脱出に光がさしました。」
なんとか返済の目処が付きそうでホッとした。頑張って返済して何もかも共同のここから引っ越そう。上手く行けば他の仕事につけるかもしれない。事務職とか、平穏な命懸けでない仕事…今から探す方がいいかな。
私が浮かれて色々妄想しているとまた待機室の明かりがチカチカした。
すっかり忘れてた、仕事中だった。
「上級だな。私が行ってこよう。」
さっき帰って来たばかりのモーガンが再び上級へ向かった。マルコが地図を拡大し救助要請の赤い光を確認した。
「レベル37か、魔物の力が強まっておるからの。この辺りでの救助要請が多いのぅ。」
「でもモーガン様なら大丈夫ですよね。」
ここにはポーションがあるから体力的には大丈夫だろう。問題はモチベーションだろうな。連続の出場は集中が保ちづらい。
「心配などいらん、モーガンは騎士団長の息子だぞ。戦いにはなれておる。」
ファウロスが腕組みしながら地図を見て言う。
モーガンが騎士団長の息子って事はライアンもそうだという事?大物の息子か、そりゃ色々大変そうだ。
モーガンが救助に向かっている最中だが上級へ次の人を送り込む時間になり待機室を出るとカウンターの向こうへ行った。
「順番がきました。準備はいいですか?」
私は三人パーティの冒険者に声をかけた。
「あぁ、やっとか。」
彼らは立ち上がって伸びをし持ち物を確認すると訓練場へ向かった。案内しながら注意事項を伝える。
「お聞き及びかと思いますが今回は今までと比べて全体的に魔物の強さがあがっています。ですからこれまでより十分にお気をつけて、危険を感じたら早目に脱出するか救助要請をして下さい。」
三人はキチンと救助要請を申し込んでおり戦い慣れた感じだ。
「ありがとう、そうするよ。君のような女性受付がいると思わなかったが、救助要請にも応じているようだね。」
「はい、ですがまだ見習い中ですので。」
「だがライアンがここにいる事を認めたんだろ?だったら普通じゃないんだろう?あの人は凄いからな。」
三人は口々にライアンの噂を話始めた。じっくり聞きたいがそうもいかず、魔法陣につくと見送った。
「お気をつけて。」
上級用の部屋から出るとさっき自分に付くよう声をかけてきた騎士が近づいて来た。
「結局ユキは誰に付くんだ。」
しつこいなぁ、キッパリ断ったのに。もうウザいから言ったほうがいいか。
私はニッコリ笑うと
「私は最ダンにいなくてはいけないので。どこにもいけません。」
そう言って待機室へサッサと戻った。後ろで聞いていた周りの騎士達もザワザワとしていたがこれで落ち着くだろ。
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