第37話 希代の魔術師3
モーガンとファウロスを残しライアンとカトリーヌは事務所に行ったようだ。ヒュドラ討伐の打ち合わせらしいが私がいても役に立たないので仕事しろと言われカウンターに向かった。
開店時間が来るとマルコもやって来た。
上級はマルコが受付け、中級は私が担当だが何故か隣にファウロスがいる。
お貴族様は受付けなんてしないでしょ?何故ここにいる。しかも眉間にシワとか営業妨害だよ。
「いらっしゃいませ、こちらにサインと血判をお願いします。」
最初の
「君がレイモンドの言っていた女性受付けかい?」
サインをしながらその騎士は尋ねてきた。
それって確か初めて一人でダンジョンに入った時の騎士の名前だ。
「は?えっと、女性受付けは私だけなので、そうですね。」
騎士のプライドで話さないんじゃないの?救助されたって事は言ってないのかな。
「余計な口を聞くな、訓練場は向こうだ。」
急に隣のファウロスが口を挟み騎士を追い払った。
「なんですか?お客様ですよ、案内しないといけないのに。」
今日はマルコもいるし基本は訓練場まで連れて行くことになっている。
「それでまた私にしたように抱きついて跳ねのけるのか?」
「抱きついてませんし、跳ねのけてません。そんな失礼な事してきたのはファウロス様だけですし。」
みんなお前と同じだと思うなよ。
「騎士の間でお前の事が噂になってる。」
「噂ってなんですか?」
「教えない、他の奴にはかまうな。」
「はぁ?なんですか?そんな事言われる筋合い無いですけど。」
ちょっと言い合いになったところでマルコが声をかけてきた。
「仕事をせんか、ファウロスもここに来たからには他の者と同等だと言ったではないか。」
おぉう、マルコが強い!さすがオーナーのダンナさん。
そこからは滞る事なく数人の騎士を案内していった。
今日からはまた昇段試験が本格的に始まるが当然レベル15は閉鎖だ。予算は出るがまだ修繕の為の魔術師が手配できないのだろう。
手続きが落ち着いてきたので今度はダンジョンに順番に案内を始めたが、ここでもファウロスがウザく目を光らせ他の騎士が私に話しかけてくると圧をかけていた。それは相手が上級レベルでも同じで、どうやらファウロスは結構イイとこの息子らしく騎士の中でも逆らえる者は少ないらしい。
案内を終え待機室に入った。後から付いて来たファウロスがまた私に絡んできた。
「大体なんだその格好は。ここでそんな姿をしていたら誘っていると思われるだろう。」
「はぁ?これって乗馬用ですよね?乗馬する女性がみな男を誘っているとでも言うんですか?」
今コイツは貴族だが客では無い。お互い睨み合いになった。
「ファウロス、お前は何しにここに来たのだ。ユキの仕事の邪魔をするなら帰りなさい。」
モーガンは騎士団の中でも地位は上の方だ。騎士団に所属している以上ファウロスは逆らえないのだろう。急に口をつぐむと離れていった。
「ありがとうございます、モーガン様。一体何なんですか、アレ。」
「お前の事が気に入っているのであろうな。」
モーガンが笑いながら言った。
「あれが気に入っている相手にする態度ですか?子供じゃあるまいし。」
ファウロスはどう見積もっても二十代前半、まぁまだ若いか。
ウザいファウロスに構っている暇はない。そこからまた以前のように三十分毎に騎士を案内していった。魔法陣の異常は解消されたが魔物が例年より強目なのは変わりないので皆が無理を避けているのか、殆どが自主的に脱出して来て午前中に救助要請は無かった。
昼食をとろうとした時ライアンが呼びに来た。
事務所へ行きカトリーヌと三人になりヒュドラ討伐のあらましが説明される。
カトリーヌは趣味の良いワンピースに身を包み優雅に座っていた。雑然としたこの事務所には似つかわしく無い。
「よくお聞き、現地には既に部下を派遣して準備を始めている。そもそも封印していた場所に戻す事になるだろうからその辺はいいとして、」
「ヒュドラって封印していたんですか?」
討伐っていうから殺すのだと思っていたが違うようだ。
「なんで殺さずに封印していたの?こんなふうに出て来るんなら殺しておいた方が良いじゃないですか。」
私の言葉にライアンは首を横にふる。
「ヒュドラは不死だと言われてる。実際、今回出てきたのは資料によると百三十年ぶりだ。」
「百年以上生きてたってこと?!魔物ってそんなに生きるの?」
「馬鹿、魔物はそもそも人より長命だ。封印されて栄養を摂取出来ていないにも関わらず生きている事が驚きなんだよ。」
おぉ、そうなんだ。
「それで封印てどうやるんですか?」
「切った首を埋めてその上に石を乗せそこに封印の魔法陣を施す、簡単だろ?」
カトリーヌの真っ赤なくちびるがニッコリ笑う。
「それだけ聞けばそうですね。でも九つも首があるんですよね?」
ライアンを振り返る。
「いや、封印する首は一つでいい。それさえ抑えておけば復活しないと言われている。」
「じゃあなんで今回出て来たんですか?」
その質問に二人が顔を見合った。。
「そこなんだよ、問題は。」
彼は腕を組むと考え込んだ。
「その石の下にヒュドラが封印してあるって事は言い伝えられていた。資料も残っていたから確実なものとされ定期的に魔法陣の点検もして来たんだ。ここに来て急にそれが開封された事が謎なんだ。」
「ダンジョンの魔法陣も人為的に変えられていたって言ってましたよね。その人物は特定できているんですか?」
「いや…まだだ。」
ライアンがカトリーヌの方をジッと見ていた。
「カトリーヌさんは誰か知っているんですか?」
彼の態度からふとそう思えた。
「噂や憶測の域を越えないことを口にするつもりはないよ。とにかく今はヒュドラを封印する事が先決だ。誰かは後回し、準備が出来次第立つから早くおし。」
カトリーヌはこれ以上話すつもりは無いようだ。ま、聞いたところで私には関係ない。それなら目先の借金返済の為の賞金を稼ぐ事が優先だ。
「私は何を準備すればいいんですか?」
カトリーヌが私の前に大銀貨を置いた。
「お前はまず買い物だ。北へ向かうんだ、その格好じゃ凍えるよ。」
私はコインを受け取り慎重に尋ねた。
「これって会社持ちですか?」
「何ってんだい、ここにサインしな。」
借金追加?!二十万ゴルも!!
「酷い、これって仕事の一環じゃないんですか?」
「お前がしでかした事の後始末じゃないか。私用の事に金が出るわけ無いだろ、勝手に仕事を休むクセにペナルティが無いだけ有り難いと思いな。」
何もかも酷すぎる…
ガックリ落ち込む私にライアンが追い打ちをかける。
「ここまで来たら二十万も三十万も同じだ、早く行って来い。お前の準備が出来次第の出発なんだ、急げ。」
「そう言われてもこの街のお店なんて知らないよ。どこに行けばいいの?」
「もういい!金かせ、ついでがあるからオレが行ってくる。」
そう言うとライアンはサッと出ていった。
明日早くに出発すると言い残しカトリーヌは帰って行った。
結局私は現地で何をすればいいのかわからないまま明日を迎える事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます