第14話 スキル1
頭が痛いかも…顔もバリバリしてるし二日酔いっポイ感じでちょっと気分も悪い。…またあの匂いだ。
薄っすら目を開けるとやっぱり事務所のソファだった。物品倉庫で寝ようと思っていたのに酔っ払ってここで力尽きたのだろうか。無理やり起き上がると体中が痛くて、特に痛い右腕を見ると肘に痣が出来ていた。きっと酔ってどこかにぶつけたんだろうけど全く覚えていない。ちょっと怖いが居着いて二日目のここにちゃんと帰ってくるなんて私ってしっかりしてるよね。
とりあえず着替えを手にシャワーを浴びに行った。スッキリすれば気分の悪さもマシになるだろう。出来れば朝のうちに靴を買いに行きたいしお腹も減っている。昨日同様、いつ呼び出しがあるかわからないので今日もパンツスタイルで洗濯を済ませると事務所を出た。
ポケットのコインを確認してみると使った様子は無く、払ってないか奢ってもらったかわからない。とにかくエリンの所に行って聞いてみよう。何か仕出かした感じでも無いが記憶がなくなるほど飲むなんて久しぶりだ。
朝の冷えた空気が気持ちよくてゆっくりと歩き出した。
ここからエリンの店まではすぐだが彼女ってあそこに住んでいるのかな?昨日たくさん話した気がするが内容をあまり覚えてない。確か最近結婚したとか聞いてやっぱり可愛くて親切で女神だからちゃんとした旦那様を掴まえたんだなぁと羨ましく思ったのは覚えている。
ライアンもいたなぁ、ちょっと目の前で愚痴ってやったけど文句も言わず勝手に飲んでた。時々口をはさむ程度で説教垂れる訳でもそこまで偉そうに何か言ってくるわけでもなく、まぁいい上司だな。
エリンの店について開いた扉から中を覗くと見知らぬオジサンがカウンターに座って食事中だった。
「あの、おはようございます。エリンさんいらっしゃいますか?」
私が急に声をかけるとオジサンは驚いてマジマジと見てきたかと思うとハッとしたようで、
「あぁ、おはよう。エリンさんとか言うから一瞬わかんなかったじゃないか。なにあらたまってんだよ、待ってろ、今降りてくるよ。」
オジサンがニコニコしながら話した通りすぐにエリンが奥からやって来た。
「ユキ、おはよう。早いわねご飯食べた?」
「おはよう、まだだけど、昨日の支払いって済んでる?」
「あははは、済んでるよ。ライアンが払ってった。覚えてないの?けっこう飲んだもんね。」
エリンは私にイスを勧めるとオジサンに朝食を二人分頼んだ。オジサンの事を父さんと呼んでいたのでどうやら父親でここの店主である事がわかった。さっきの親しげな感じから昨日けっこう話したようだが一ミリも覚えていない。もしかして何かやっちゃったのかな?
「私変な事してない?ちょっと記憶が…」
すぐに出されたどんぶりにスプーンを突っ込みながらエリンに聞いた。
「大丈夫、ちょっと騒いでいたけど他の人も同じくらい騒いでたから誰も気にしてないよ。」
「え!やっぱりうるさかった?ホントにあんなに酔ったの久しぶりで。ちょっとここのお酒って私にはキツイのかも。」
「そうなんだね、二、三杯でキテたもんね、可愛かったよ。」
そう言うエリンこそ可愛いがとりあえず謝っておいた。出されたスープはアッサリしてて野菜が沢山入っている二日酔いに丁度いい物だった。体にしみるねぇ…
朝食代を払おうとして断られしかも使わなくなった鍋と食材を渡され靴の店まで教えられもうどうやっても返せないくらい優しくされ店を出された。このままじゃちゃんとした大人としてカッコ悪い。働いて給料が入ったらきっとお返ししようと心に決めた。
教えられた靴屋に行くとそこはやはり私が知っている靴屋とは違い品数も少なく種類も無かった。話によると冒険者は編み上げの革靴が基本で女性向きの物もあった。私は冒険者では無いがダンジョンに行かなくては行けないので『なんちゃって冒険者』というところかな。とにかく編み上げブーツを買い代金小銀貨一枚と大銅貨五枚を払った。ついでに近くにあった昨日下着を買った服屋へ行きパンツを一本買った。エリンからもらった服はスカートやワンピースが多くパンツは二本だけ、流石にもう一つ洗い替えが欲しかった。一度ダンジョンに降りるとアレまみれになる可能性があるからね。うぇ…
買い物を済ませ急いで戻ると丁度店の前にライアンがいた。
「おはようございます。」
後ろから声をかけると入りかけたドアを開きながら振り返った奴の顔は苦々しかった。
「出かけてたのか…」
それだけ言って中へ入った。私も続いて入ると細い廊下を進み事務所へ行った。
「昨日はご迷惑をおかけしました?」
「覚えて無いのか?」
つい疑問形になってしまい記憶が飛んでいることがバレてしまう。
「まぁほぼ無いです。」
答えるとチッと舌打ちされ睨まれた。
「私なにしたんですか?腕も痛くて痣になってました。」
右肘をさすりながら言うとライアンはムッとしたまま、
「言っとくがオレは悪くないぞ。意識のないお前をここまで運んだのにイキナリ襲ってきたそっちが悪いんだからな。」
「襲ってきた!!まさかそんな…」
泥酔していたとはいえこのヒゲモジャのライアンを襲っただなんてマジか!?
「こっちは酔ってたんですからそこにつけ込むなんて鬼畜じゃないですか!」
私は半泣きになりながら両腕で自分を抱くと睨みつけた。
まさかの勢いでコイツと…ヤッてしまったなんて。
「お前は馬鹿か!そういう意味じゃない!イキナリ殴りかかって来て勝手にひっくり返ったんだ。その時にどこかでぶつけたんだろ。」
おぉ!セーフ、そっちか。
無事だったとわかりひと安心するとライアンが意外とイイやつかもと思った。泥酔した女をちゃんと送り届けるなんて最低浮気元彼とは比べ物にならない。
殴りかかるとか、もしかして元彼のことを思い出して殴りかかったんならスキルを使ってしまっていたかも知れない。しかし前回酔ってナンパ男を殴ろうとした時もスキルを使っていたようだが受け止めたライアンは平然としていた。これってゴブリンの頭がけっこう脆いかライアンがかなり強いかってことなんじゃ無いだろうか?昨日ダンジョンでの活躍も見たが余裕だった感じがした。
「私が殴りかかったって、それ当たったんですか?」
「当たっていたらオレは今ここにいない。」
ムッとしたまま事務所を出ると店に向かったようだ。やっぱりスキルを使っていたか、危ない危ない。今度から気をつけないとかなり怒られそうだ。当分お酒を飲むのは控えよう。
店に入るとマルコが来ていた。私は昨日見つけた給湯室にあった雑巾を持ってくると掃除を始めた。学生時代に個人経営の居酒屋でバイトしてた時は開店前に掃除をさせられていた。気持ちよくお客さんを迎えないとね。
ライアンはソファに寝転び何やら考え込んでいるし、マルコはまた書類を出してきて机に並べている。きっと後で私に押し付ける気だ。
「いつ開店なんですか?」
一向に店を開けようとしない二人に尋ねると
「もう開いておる、今日あたりは誰も来ないかもな。」
「どうしてですか?」
「明日から昇段試験が始まるから関わりたくない冒険者達は来ない。もしうまく進んで明日までいる事になったら騎士達とかち合うことになるかもしれないからな。」
ダンジョンに入場する時は基本的に一度に一組、次は一時間後と決まっている。初級、中級なら早く次の階に移動する時もある為、その時は次の人が入場出来る。
「上級者の中には何度も入っている者も多いから後で来る奴が追い抜いていく場合もある。そうなるとやはり気持ちの良いもんじゃないからの。揉めることもある。」
やっぱりプライドの問題か。
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