幼馴染で恋人の彼女は、僕を見ていない。

バネ屋

#01 プロローグ




『おはよう、カナちゃん』


「ん」


『・・・・行こうか』


「ん」



 これが彼女と僕の毎朝のやり取り。


 毎朝、二軒隣のカナちゃんの家まで迎えに行き、駅まで歩いて電車に乗って、降りてから学校まで歩く。

 登校の間、ほぼ会話は無い。


 以前は気を遣って色々話しかけていたけど、「ん」しか返事が無いので、うっとおしいと思われるのも悲しくて、話しかけるのを諦めた。


 同じクラスなので、学校に着いてからも教室までは一応一緒に歩く。


 校内に入り、知り合いに会うと「おはよ~♪」とカナちゃんは明るく振舞う。

 教室に入ってからも、グループの友達や男子に向かって「おはよ~♪」と明るく振舞う。


 教室では、カナちゃんと僕は会話することも目が合うことも無い。

 彼女は、僕以外のクラスメイト達とお喋りすることに夢中で、僕のことを気にも留めていない。




 放課後は、カナちゃんは他のクラスメイトと遊びに行くことが多い為、別々に帰る。


 何度か一緒に帰ろうと誘ったことは有ったけど、ことごとく断られ、誘うことを諦めた。


 付き合ってるはずなのに一緒に帰って貰えないことが惨めで、僕は一緒に帰れない理由を自分側に作るために生徒会に入って、放課後の用事を作るようにした。


 カナちゃんに、生徒会に入ったことを報告した時も「ん」と一言だけだった。



 これ、本当に付き合ってるの?と自分でも不安になるけど、信じられないことにセックスだけは人並み?にしている。




 初めてセックスした時、カナちゃんの「早く処女を捨てたい」と言う理由で致した。


 それ以降、月に一度くらいのペースでエッチしている。



 週末とかに「今から部屋いっていい?」とスマホにメッセージが来て、『うん、いいよ』と返事をすると、5分ほどして僕の部屋にやってくる。

 部屋に入ると何も言わずに服を脱いで下着だけになり、僕のベッドに横になる。


 それを合図に僕も服を脱ぎ、彼女に愛撫する。

 充分に濡れてきたのを確認すると、コンドームを付けてセックスをする。

 最中は多少は声を漏らすけど、曲げた人差し指を口に咥えて横を向き、目も合わせないしキスもしない。

 いわゆるマグロだ。


 終われば5分ほど裸のまま休んで、服を着て帰っていく。

 部屋を出る前に一声かけるけど、「ん」とだけ返事して帰ってしまう。




 近所に住むカナちゃんとは幼稚園から今までと長い付き合いで、幼馴染と言える関係であり、中1の時に彼女からバレンタインのチョコを貰って恋人となった。


 でも、僕が思い描いていた恋人としての付き合いとは程遠く、これまで何度も関係改善をしようと試みたけど、何も変わらなかった。


 正直、いまでは、もうどうしていいのか解らなくて、毎日同じことを繰り返すだけの今の関係をなんとか継続している。


 最近では、”彼氏持ち”という肩書だけの為に、僕と付き合ってるのかな?と思っている。

 初めてセックスした理由も、周りの友達に”処女”だと思われるのが嫌だったからだと認識している。

 たまにするセックスは、僕を繋ぎとめる為のエサで、もし僕よりもいい人が現れれば、簡単に捨てられるだろうと覚悟もしている。





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