第66話  春のダンス練習に向けて 続2

 夜のレッスン・・・・・


幸太こうたくん? 起きた?」

「う、うぅ」


 あたりは薄暗く、目の前には可愛い天使の笑顔。

 頭が温かくて柔らかい感触に包まれる。これは夢……?


「いっぱい寝てたね」

「う、うぅん」

「ゆっくりでいいからね」


 気づいたらそこは優香ゆうかの膝の上で、温かい。お風呂上がりだからか、甘い香りがする。暗いのに顔が近いから優香の可愛い顔が見えて照れる俺。


「今日はたくさんダンスがんばったもんね」

「僕は、まだまだだから。迷惑かけるかもしれない、けど。ごめん」

「迷惑じゃないよ。幸太くんとダンス練習できて優香はすんごく幸せだよ」


 だめだ、どんどん好きになって。優香への気持ちが爆発しそうだ。


 婚約者とか許嫁とかそんなんじゃなくて、恋人になりたい。でも、俺にそんな勇気……。


「幸太くんが未来の旦那さんでよかった」

「うん」


 好きだ。誰にも取られたくない。優香には僕だけを見ててほしい。


 初めての気持ちだった。優香のことは前から好きだけど、優香が自分以外の誰かのことを好きになってしまったらと思うと怖い。


 ――次の日の朝。優香曰く夜のレッスンというのはダンス練習のことだったらしい。


 勘違いして恥ずかしい。

 朝からまた気を取り直して、鏡を見て顔を叩いた。


「幸太くんおはよ!」

「おはよう優香!」


 まだ起きたばかりで寝癖がちらほら。俺にしか見れない家での優香。

 眠たそうに目を擦る姿はまるで可愛らしい小動物みたいで、今すぐにでも抱きしめたい。


「幸太くん!はい!」

「ん?」


 突然手を広げて見つめてくる優香。パジャマ姿が可愛すぎる……。


「今日一日学校頑張るから……充電してっ?」

「じゅ、じゅうでん!?」


 俺のへんてこな声とそれを見て笑う優香。なんて優しい空間なんだろう。


「そ、それじゃいくね」

「うん……」


 お互い緊張しながらも少しずつ近づくと気づいたら身体は密着していて。温かく柔らかい。この小さな身体で、沢山の苦労、アイドル生活を乗り越えて来たんだなと関心した。


 俺も優香の期待に答えられるよう、ダンス頑張らないと!


「焦らない。焦らない。幸太くんは自分のペースで頑張ってください!」

「ありがとう。優香は優しいね」

「幸太くんだからなんだよぉ」


 会話が終わっても少しの間は二人とも離れることなく、お互い赤くなった顔を隠した。『この時間がずっと続けばいいのに』なんて思ってしまっても、学校は遅刻せず行かないと駄目なので僕たちは自然に準備へと戻った。


 こんな僕でも面倒見が良くどんな時でも優しく接してくれるのは優香だけだ。


 学校に行くと今日も授業は短縮授業で、短縮されて余った時間はダンス練習に使われた。昨日みたいに優香はマンツーマンでダンスを教えてくれる。


「幸太昨日より上達した??」

「そう思うか?」

「いや、お前むちゃくちゃダンス下手くそなのに結構できるようになってるから」


 まだ練習初めて二日目なのに下手だけど下手なりに踊れている!

 陽太ようたの言葉で自分でも少しだけ踊れていることを実感できた一日だった。



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