第10話  非通知の謎と二人のこれからのこと

『非通知なんだけど……』


 綾間さんとくだらない話をして楽しんでいたのに……。


 急に気味が悪くなった。夜の非通知着信は本当に怖いし緊張する。

 俺は恐る恐るスマホ画面をタップし耳に近づける。


「もしもし……。真島まじまですが」

「……」

「あのぉ……」

「幸太、久しぶり。元気にしてたかい?」


 その声の主はこの間まで毎日のように会っていた人。


「父さんかぁ……。てか非通知でかけてくるなよぉ」

「すまんすまん。こうでもしないと出てもらえないと思って」

「それでどうしたの」

「いやぁ、二人の新婚生活の調子を知りたくて。まさか優香ゆうかちゃんを家から追い出したりはしていないよな」


 ん? なんかちゃっかり綾間さんのことを名前で呼んでるんだけど……。


「俺もそこまで鬼ではないわ。まぁ調子はぼちぼちだけど」


 少し照れくさくて言えないのだけど、実を言うと案外この生活は楽しい。


 中学からずっと二次元にしか興味が持てなかったけど今はこの関係もだんだん納得できてきたような気がする。


 だが、まだ綾間さんに恋愛感情があるわけでもないし。できるなら自分自身で将来共にするパートナーは見つけたいと思っている。


「まぁ、二人の関係が順調で良かったよ」

「てか、ロサンゼルスから電話でいちいち状況を確認してこなくてもいいから」

「でもなぁー。父さんが勝手に押し付けて頼んだことだからなぁ……」


 分かってるならこんなこと押し付けるなよ、と思ったのだけど隣には綾間さんがいるので口に出してはツッコめない。流石にそこまでデリカシーのない陰キャ野郎ではない。

 それにこの新婚生活の中で今のところは後悔したりとか嫌と思ったりしたことはないし。

 

 俺が心配性の父さんと長く話しをしているせいか、綾間さんが凄く退屈そう……。


 服の袖を引っ張って暇なんだけどとアピールしてくる。

 アイドルをしていた時にテレビで観た彼女とはまるで別人でギャップがすごい。


「じゃあ父さん。時間も遅いしもうすぐ寝るから俺、通話切るけど」

「そうか。じゃあ、またかけるから出てくれよ。今度は非通知にはしないから」

「あ、多分その時は俺、風呂入ってるだろうから無理かもな」

「幸太は相変わらず父さんに冷たいな……。それじゃまた」


 やっと話が終わった……。軽く二十分は喋ってたと思う。


「幸太くん。今のってお父さん?」

「あ、うん」

「何話したの!」

「くだらない話だから知らなくていいと思うよ」

「むぅぅ……。ケチぃ!」


 元国民的アイドルの機嫌を損ねてしまった。


 もしもここに数人でも彼女のファンがいたらSNSで大バッシングされるんだろうな……。

 そういえばこの関係もメディアやマスコミにはまだバレてないってことか。


「ねぇ、綾間さん。もしもこのことがニュースとかになったら生活に支障が出たりするのかな……」

「うーん。はっきりはわからないけど、家の住所や顔とか色々と身バレする可能性はあるかもだね」

「やっぱ芸能人って大変だなぁー」


 よく俳優とか芸人がスキャンダルでニュースになったりするけど少し可哀想だと思う。一般人は不倫したって浮気したってネットで叩かれたりもしないし家庭の問題として解決することができる。だけど芸能人となるとその人自身が商品でありブランドであるため、そう簡単に事は収まらないのだ。


 これはあくまで俺の見解だけど、そういう風潮にはなっているというのはあらがち間違っていないと思う。

 だから俺と綾間さんの婚約だって祝福する人としない人で別れるのだろうし、俺にもリスクを背負って生活しなければいけない日常がやってくるのかもしれない。


「なんかごめんね。でもきっと大丈夫だよっ!」

「うん、そうだね!」

「夫婦で一緒に乗り越えよ!」


 彼女の笑顔はそんな心配も一瞬で忘れさせてくれる程に可愛くて、体がフリーズしてしまう。綾間さんは首をかしげてクスクスと笑い俺の顔の前で手を振りながら言った。


「もしかして幸太くん、私に見惚れちゃった?」

「いや! 別にそんなんじゃないから!」

「ふーん……。正直じゃないなぁー」


 最近のお嫁さんは俺をからかうことにハマりだしてしまったようだ。








 ――――――――――――――――――――


 就寝前


「幸太くんのお父さんって私のお父さんでもあるのかな?」

「え、なんで……」

「だって私たち夫婦だし」

「まだ婚姻届だしてないから婚約者だけどね!?」

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