SECOND Love

第9話  幼い頃の初恋と失恋

「なぁ、陽太。もしも国民的アイドルがお嫁さんになったらお前は嬉しいか?」

「はあ? 嬉しいに決まってんだろ!」

「……てか陽太って好きな人とかいるのか?」

「あたりめえよ! 綾間凪咲あやまなぎさしか勝たんな」


 ……すまない陽太。その国民的アイドルは俺のお嫁さんなんだよ。

 なんて言えるわけもなく、俺は苦笑い。


「そういえばお前、三空みくちゃんのことは諦められたのかよ」

「それいつの話だよ。小学生の時の失恋なんてもう気にしてない」

「そうか……。でもお前、三空ちゃんのこと本気で好きだったから」

「まぁなぁ」


 三空ちゃん。その子は俺が小学生の時に仲の良かった女の子。顔も可愛くて性格がいい。俺が泣いたらいつも慰めてくれて側にいてくれる。そんな人だった。


 当時、父さんがまだ母さんと離婚していなくて、父さんが社長でもなかった貧乏な頃のこと。

 俺たち家族は安くてボロい小さなアパートに住んでなんとかの生活をおくっていた。

 そんな時、アパートの隣に建つ一軒家に住んでいたのが三空ちゃんだった。


 三空ちゃんの家庭は結構裕福なお金持ちで家も立派。通っている小学校は違ったけれど夕方や休みの日には近所の公園でブランコに乗りながらよく話した。

 ちょうどその頃に陽太とも出会ったんだっけ……。


「今、何してんだろうな……。てかお前の恋は失恋ではなくないか? フラれてないし」

「いや俺、三空ちゃんが引っ越しするってなって別れる日の前日に公園に呼んだんだけどな。来てもらえなかったんだ」

「告白も出来ず、お別れも出来ずか……」

「でもあの時、告白が成功してたとしても結局はお別れだっただろうし」


 確か三空ちゃんが引っ越した日、家でむちゃくちゃ泣いたんだっけ。

 弱かったなぁ、あの頃の俺。


「てか、この話は前にもしたぞ」

「知らん知らん。まぁとにかく幸太、元気出せ! これから新しい恋見つけようぜ!」

「いや、あれから十年くらい経ってるから気にしてないし。あと今まで一人だって彼女いた試しがないだろ……」

「え、そうだっけ。俺はもう八人くらい付き合った気分なんだけど」

「それソシャゲのエロ女でだろ……」


 ほんと非リア陰キャオタクの思考回路はいいように頭の中で正当化されている。


 もしかして今、俺に許嫁がいるのもただの妄想という名の正当化だったりして……。俺は寝ているのか!夢? なのか!?


「なぁ陽太。俺の顔を一発……」


 バシッ!!!


「い、イテぇー。おい! まだ叩いてくれなんて言ってないからな!?!」

「すまんすまん。そんなに怒ってたらストレス蕁麻疹じんましん出るぞ〜」

「お前のせいだろ!」



 少し腹は立ったけど妄想ではないということは分かったので特別許してやることにした。

 でも多分次は殴り返すと思う。うん、絶対殴り返す。





           ◆





 ――陽太に思いっきり殴られた日の夜。


 今日もお腹いっぱい綾間さんの手料理を食べてお腹は大満足。

 最近はまともな食事を取っているので肌もかなり綺麗になった気がする。


「幸太くん! 今日スーパーで安かったコーヒーゼリー買ってきたんだ! デザートに食べない?」

「うん。食べたい!!」


 冷蔵庫から冷えたコーヒーゼリーを取り出しスプンと一緒に俺に渡してくれる。

 蓋を剥がしてミルクを垂らすと綺麗な渦巻きができた。

 これがコーヒーゼリーの醍醐味だいごみ


「うぅーん!! 美味しい!」


 綾間さんは幸せそうに柔らかいコーヒーゼリーを咀嚼そしゃく《《》》する。

 その姿はまるで癒やされ系小動物のようだ。


「そうだね。コーヒーゼリーなんて久しぶりに食べたなぁー」

「久しぶり!? こんな美味しい食べ物を?」


 驚いた様子でこっちを見てくる綾間さん。

 そんなにおかしいのだろうか。


「じゃあ、これからは三日に一度コーヒーゼリーデイを制定しますっ!」

「なにそれ……」

「だからぁー。コーヒーゼリーを三日ごとに食べるの!」

「なんで!?」

「それは……。好き、だから?」

「可愛く言ってもダメだからね!?」


 こうやって他愛のない話で盛り上がって家の空気が明るいのは彼女のおかげなのだと俺は改めて感じた。


「そういえばさ! 今日、山崎くんと何話してたの?」

「突然過ぎない?。別になんでもないけど、くだらない昔話的な……」

「でもなんかさ、幸太くん強めにビンタされてたよね」

「あぁ、別に喧嘩とかじゃなくて、あいつが発情してただけなんだ」

「え!? 山崎くんって……お猿さんなの?」

「なんでそーなるの!?」


 すると綾間さんはモジモジしながら答える。


「だってこの間ね、桃葉ももはが男子は時々発情してお猿さんになるって言ってたから」

「綾間さん……。友達はちゃんと選んだ方がいいよ」


 桃葉というのは綾間さんと仲のいい友達の名前。俺はまだ話したこともない。


 首を傾げる綾間さんを俺は温かい目で見ていると、スマホが突然テーブルの上で鳴り始めた。


「んっ……?」

「幸太くん? どうしたの」

「非通知なんだけど……」

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