第3話 - 1 ベルゼム VS トール ~恋するメアリー
メアリーは、産まれて初めての心境にいた。世界がぼやけて現実感がなく、気付けばいつも、トールの事ばかりを考えている。私は勝ち負けには拘らないタイプのはずなのに、おかしい。あの負けには、特別な意味でもあるの?
これは先生の悩みの種でもあるのだが、メアリーには勝負への執着心というものがない。自分が楽しければ良いという感覚で、それでいて学年筆頭にまで上り詰めてしまった。もしもメアリーが本気で打ち込んだなら、どれ程の剣士になれるのだろう? と、シュヴァルツ内でも囁かれている。
メアリーは、おおよそ恋心というものを知らない。田舎の山暮らしで、まず同年代の異性と触れ合う機会が少なかった。町の学校に通い始めた時も、ずば抜けて大柄だったメアリーはそれだけで畏怖の対象となり、恋愛がどうという空気感は皆無だった。いつしかメアリーの側も、恋愛は自分には縁のないものと思い込むに至った。普通に初恋やら失恋やらを経験していれば解る感情も、メアリーにとっては未知との遭遇であった。
「……おい、どうしたんだ? メアリーは」
「交流戦で負けて以来、ずっとあの調子なのよ」
「4人も抜いて最後の一人に負けたんだろ? 上出来じゃないか」
稽古に身が入らず、呆けているメアリーを見て、周囲の生徒たちが
フラフラと、メアリーは打ち込み用の人形に寄って行った。力なく袈裟切りを試みるも空振り、クルッと回って仰向けに転倒してしまう。少し間を置いて……、カツッ! 人形が手にしていた木剣が落ち、メアリーの額に直撃した。
「キャッ!」
額を両手で押さえながら、バタバタと痛がるメアリー。遂には、人形にさえ負けてしまった。
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