第8話
愛しいルトゥスから命を奪った槍。
手に取った安っぽい槍は綺麗な血が滴り、ルトゥスの服をさらに血で染める。勇敢で、理知的で、才に溢れ、この国に繁栄をもたらしたであろうルトゥスから命を簡単に奪っていったのがこんな無名でガラクタに等しい槍だったと思うと、人間とはなんと脆く、人間の世は無常なのだろうと悲しくなった。
安っぽいことには間違いないその槍は、ルトゥスの血で清められているとはいえ、穂の部分が綺麗な曲線を描いているわけでもなく、刃こぼれをおこしている。柄だって木製だ。
(けれど・・・)
僕は槍の柄を短く持ち、穂が届くように持ち直した。そして、穂の先端ではなく、刃こぼれでギザギザした部分を触ると、ルトゥスの血で見てわかりずらかったけれど、僕の指から血が出ているのがわかった。血が出る感覚は、痛みというよりは、切れ目が冷たくなるような気がした。
いつもならそんな風には絶対思わないけれど、/世界がどうでもよくなり、自暴自棄になった僕はその安っぽい槍にどこか魅了されていた。僕はまるで名刀を見るようにその槍を隈なく観察して、覚悟を決めてたように息を吐いた。
今度は自分の心の臓に向けて持ち帰る。
すると、その刃物の部分が自分を呼んでいるような気がしてきた。それはルトゥスかもしくは神からの伝言かもしれない。これからやる行為は祝福されるべきものだと感じた。
「さぁ、僕もキミのところに行くよ。ルトゥス。あの日よりも向こう・・・無限の彼方へ連れて行ってね」
何も怖くはなかった。
だって、もうこの世界に未練は無かったから。
今度は迷わず、思いっきり自分の胸に槍を刺した。
「うぶっ」
胸なのか、腹なのか。
こみ上げてくる、血を我慢しようとしたけれど、口から漏れ出す。
痛みは当然ありつつも、ルトゥスの血と僕の血が混ざりあうと思うと、なぜか嬉しかった。
(そう、僕とルトゥスは二人で・・・一つ・・・。どちらかが欠けている不完全な世界なんていらない・・・っ)
僕の血が槍を伝わってルトゥスの方に触れる。
僕はもう一度ルトゥスの顔を見ると、満足した気持ちで満たされそうになったけれど、傷口から出ていく血と共に、感情も希薄になっていく。きっと、感情もルトゥスのいる世界へと転送されていっているのだろうと思った僕は自然の摂理に身を任せる。すると、すーーっと意識が無くなっていく。
天を見上げた時、夕暮れ空にまだ見たことのない綺麗な星が輝いているのを見つけて・・・そうして、僕は息が途絶えた。
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