第2話

「はぁ・・・っ」


 僕はため息をついてしまった。


「どうしたんだ、バルト」


 宮殿の柱に寄りかかる僕と、ルトゥス。凹んでいる時は日当りの良いところを避けて、日陰を好んでしまうのは人の性なのだろうか。この前はあんなに開放的だった気分も今はこんなにも閉塞感でいっぱいだ。太陽の位置の影響もあって、日陰の僕と、日なたのルトゥスは顔色も対照的だった。


「君はすごいよね、剣で手合わせをしても大人にだって圧倒するんだから・・・。それに比べて、僕は今日も5歳も年下の子に負けちゃったし・・・」


 僕は今日の剣技の訓練を再び思い返す。二人一組になってお互いの木刀を打ち合う訓練で、ルトゥスは戦場経験が何度もある大人と手合わせをお願いし、みごとに勝ったのだ。そのカッコよさに感化されて、僕も頑張ろうと思っていたのに、元気いっぱいで身長も頭一つ分くらい小さい年下の男の子にみごとに負けてしまった。体格も年齢も僕のが勝っていたのに、その気迫に圧倒されてしまったのだ。


 さらに、悲しかったのが、その男の子は年上の僕に勝ったからといって、大喜びするわけでもなく、「よしっ」と言った後、転んでいる僕を興味無さそうに見下ろしていた。あの顔を思い出すと、気分が憂鬱になる。再びため息をつくと、そんな僕をちらっと見たルトゥスは空を見上げる。


「うーん、でもな、バルト。俺はほとんどの奴に100回やっても100回負ける気はしない。だが、バルトには101回やったら・・・・・・1回は負ける」


「なにそれ・・・・・・1回多いじゃん」


 僕とルトゥスは目を合わせる。ルトゥスはいたずらっ子のような顔をしていた。


「「はははははっ」」


 ルトゥスの言い方もあったけれど、僕は思わず笑ってしまった。すると、もっと嬉しそうにルトゥスが笑ってくれる。だから、僕はさっきよりも元気に笑えた。


「そうだ、バルト。ボクシングなんてどうだ?」


 笑うことにお互い満足した頃に、ルトゥスが唐突に僕に提案してきた。


「ボクシングって・・・殴り合い?無理だよ・・・ボコボコにされちゃうよ」


 想像しただけで怖い。剣の間合いですら、相手の顔や声で委縮してしまった僕が、より近づく拳の間合いでなんて、無理に決まっている。空を見るルトゥスとは対照的に僕は地面に目を落とす。


「そんなことはないさ、だって・・・」


「「ギャハハハハハッ」」


 ルトゥスが何か言おうとしていると、下品な笑い声をした男たちの声が聞こえた。

 リュウケンとダスティンの兄弟だ。

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