ありがとう
シヨゥ
第1話
両親にはたくさんのありがとうを送りたい。
出会ってくれてありがとう。セックスしてくれてありがとう。産んでくれてありがとう。
ぼくを生命として生産してくれたことに最大の感謝を送りたい。
栄養を補給してくれてありがとう。
ぼくが生命として活動する源を提供してくれたことに感謝を送りたい。
ぼくを守ってくれてありがとう。
さまざまな命の危険から守ってくれたことに感謝を送りたい。
歩き方やしゃべり方、道具の使い方を教えてくれてありがとう。
ぼくが生命として独り立ちできるよう辛抱強く、耐えに耐えて、技術を教えてくれたことにも感謝を送りたい。
学校に通わせてくれてありがとう。
ぼくが一個人として社会で生きていくために、教養や技術を学べる学校という施設に私費を投じて送り込んでくれたことにも感謝を送りたい。
夢を応援してくれてありがとう。
何者でもないぼくが語るバカげた壮大な夢を私費を投じて応援してくれたことにも感謝を送りたい。
そうやってA4用紙何枚にも渡り親への感謝を書き連ねてきた。
体がしんどいというのにこんなにも文章を書けたことに感動すら覚えている。
まだ書き足らない。その思いでペンを握り続けてきたがもう限界のようだ。
落としたペンを握らせてもらうがもはや指先に固定する力も残っていない。
ぼくの寿命は親のそれより早く尽きようとしている。
遠方に住む老いた両親はぼくのその時に立ち会えそうにもないことはわかっていた。
だから手紙を残すことにした。
親にせがんで習ったペン字の成果は見る影もない乱雑な字に申し訳なさすら覚える。でも満足だ。
「あり、がと、ぅ」
最期の言葉はこれに決めていた。
「高橋さんしっかり!」
「御両親、もう近くまで来ていますよ!」
医師と看護師の声が遠くなっていく。
最期の最期までほんとうにありがとう。
ぼくのじんせいにかかわってくれたみんなにありがとうだよ。
ありがとう シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます